第53話 第一王女
和気藹々としていた4人の空気はトロールによってガラリと変わった。
緊張感が漂う、ピリついた空気。
それほどまでに目の前にいる怪物トロールが放つ存在感は圧倒的だったのだ。
ギルド協会でも特級の危険生物と認定されるだけのことはある。
「なんかすごそうなやつ居るね。めちゃ」
そんな空気をものともとせず、いつも通りにリーシャがいった。
「いや、そりゃそうだろ。討伐対象のトロールなんだから」
マイペースなリーシャに思わず突っ込む様に言う。
ほんと、ブレないなこいつは……緊張感がまるでない。
「え? なんでわかるの? すごいね」
「クエスト情報に特徴書いてあっただろっ。ちゃんと読んだか?」
リーシャは俺の言葉にあーと言いながら明後日の方向を向く。
「ふふ、見てなかった」
「でしょうね!」
カン!! と金属と金属がぶつかり合う音が鳴り響いた。
「!?」
その音に驚き目線を移すと目の前に剣で何かを弾いたエレナの姿があった。
「ほう。今ので二匹は潰したと思ったんだがな」
顎に手を当て意外そうにトロールは呟いた。
あまりにも一瞬の出来事で何が起きたのか分からなかった。
「リーシャさん。お二人を頼みます」
エレナはそう言って地面を抉る音と共にトロールの元に駆け出した。
「ふん」
トロールは自身の両腕を伸縮され鞭のように振るった。
ヒュンと風を切るようにふるわれた両腕は無数の歪で鋭利な刃が生えており、人体を豆腐のように切断できるほどの切れ味を誇っていた。
間合いもとんでもなく広い。100mほど離れている俺達にも余裕で届くほどだ。
リーシャは俺とヒロムを守るようにトロールの腕を剣で弾く。
生き物の様に宙をうねり、伸び縮みが著しいため、軌道が非常に読みにくい。
しかも奴に近づくほど動きが早くなっていく。
一瞬のミスも許されない中、エレナは完全に両腕の軌道を見切り、反応し避けつつトロールの懐へと入り込んだ。
一撃を入れるため、ぐっと剣を持つ手に力が入る。
トロールは静かにエレナを見て酷く歪んだ笑みを浮かべた。
右手をすぐさま縮小し、瞬間に巨大化させたのだ。
まさか、誘い込まれた?
そう思った瞬間、大槌の様に膨れ上がった右手をエレナに向かって叩きつけた。
「っ!」
しかし、エレナはそれを知っていたかのように剣で軌道をずらした。
響き渡る重音と共にトロールの右拳は大地に叩きつけられる。
その隙をエレナは見逃さなかった。
瞬間、トロールの右腕が宙を舞った。
エレナは恐ろしい程素早い剣技で右手を斬ったのだ。
それを理解するのに少し時間がかかった。
トロールは自身の右腕が斬られたにも関わらず、表情ひとつ変えなかった。
うねうねと生々しい動きをしながらトロールの右腕が生える。
「再生能力……!!」
「その通り」
エレナの言葉を聞いてトロールは頷きながら無数の刃が生えている右手を振った。
振われた右腕を見切り、再び斬るが奴の腕は瞬く間に再生される。
「っ!!」
エレナの顔が少し険しくなった。斬っても斬っても、終わりが見えない事実が彼女の顔を曇らせたのだ。
このままではこちらがジリ貧になってしまう。なんとかしなければ。ほんの一瞬、生まれた焦りが命取りになる。
キィンと甲高い音と共にエレナの持っていた剣が弾き飛ばされた。
「!!」
「チェックだ」
トロールは微笑みながら左腕を体を切断するように振るった。
「シャイニング・レイ!」
天から無数のレーザーが雨の様に降り注ぎトロールの体を貫いた。
「うおおおおおお!!」
エレナの放ったシューテェング・レイが轟音と共に爆発する。
砂煙が晴れて出てきたのは体中に無数の風穴を開けられ、苦しそうな顔をしたトロールだった。
体は再生されているが、先ほどまでの余裕さは無くなっているように見える。
「っ!! 光魔法か」
トロールは苦痛に歪めた顔をしながらエレナを睨みつける。
「これでも駄目なら……」
右腕をあげ、何かをしようとするエレナにトロール自ら距離を詰めてきた。
瞬時に筋肉を肥大化させ、3mほどの巨体がエレナに襲いかかる。
「ホーリドライブ」
そう唱え、全身に白い光のオーラを纏ったエレナも迎え撃つかのように自ら距離を詰めにいく。
放たれたトロールの右拳を避けつつ、前進し自身の拳をトロールの腹部目がけて打ち上がるように放った。
「かはっ!?」
まともに喰らったトロールはあまりの痛みに驚きの表情を浮かべながら口を大きく開け上空へ吹き飛んだ。
「っ小娘がっ!!」
トロールは上空で体を振る返し、体勢を整え地上が見るがそこにはエレナの姿はなかった。
そう、エレナはトロールを打ち上げた後、すぐさま奴より高く跳んだのだ。
右腕を天へと掲げていた。その姿はまさに王者。
振り返るトロールが思わず溢した。
「お前は……一体、何者なんだ?」
「私はキャメロット王国第一王女、エレナ・フォン・キャメロットです」
掲げていた右腕をトロールに向けて振り下ろす。
「ホーリーノヴァ」
地上からいくつかの光が立ち上がり、上空で収束し、光の柱となってトロールに放たれた。
それは仇なす者を包み込まんとする無慈悲な鉄槌に見える。
「ァァァァァァァ!!」
トロールは再生する暇すら与えられず、悲痛な叫びを放ちながら塵になって消えていった。
いや、なんですか? これ。エレナさん、あなた強すぎではありませんか?
あまりに一方的な戦い過ぎてもしかしてトロールが雑魚だったのではと思った程だ。
でもトロールも体を自在に変形することが出来、再生能力持ちだしな……うん。普通に強い。
そもそもギルド協会が超危険生物と認定してる時点で弱いわけないのだ。
なんか、あれだ。レイドボスを目の前で一人で倒されてしまった。そんな感覚だ。
「みなさん怪我はしてませんか?」
舞い降りたエレナは心配そうに俺たちの元に駆け寄った。
「あ、ああ。リーシャが守ってくれたから、大丈夫……です」
エレナの強さに思わず敬語で答えてしまった。
「なんで敬語なんですか? あ、もしかして私が」
「いや、それはないです」
「なんでですか!?」
エレナはぷくーと頬を膨らませる。
いやいや、いくら強いからといって第一王女様だ!! とはならないよ。
まぁ、もしかしてなんて思ってたりするけどさ。
「まぁ、その……エレナさん一人に任せてしまってすいませんでした」
頭をペコリと下げる。
ヒロムと抱き合いながら呆然と見ていただけで何もしなかったからな……
「弱き者を守るのも使命ですから気にしないでください」
「うっ……お、俺だって。そのぉ、本気を出せば。つ、強いんだぞ?」
「わかってますよ。はいはい。貴方はレギス・チェラムのマスターですから本気を出せば強いんですね。偉い
ですね」
「お、お前っ……さては出会った時の仕返しかっ」
「ふふ、どうでしょう?」
不貞腐れてる俺を見てクスクスと笑うエレナ。
「お二人は仲がいいんですね」
ヒロムの言葉に反応してエレナと目があった。
「いや、そうでもない」
「いや、そうでもないですよ?」
うわ、被った。
「………」
ジトぉとした目で見てくるなよ。
あれだろ? 被らせないでくださいよってことだろ?
「こっちのセリフじゃボケェ!!」
「い、いしゃい!! いしゃいでふって!!」
「いひゃひゃ!」
小学生同士の喧嘩みたいにお互いの頬を引っ張り合う。
「……あ、まただ」
リーシャの呟きによってピタッと引っ張り合いは中断された。
「またって?」
「あれ」
指さした先には蒼い彗星のようなモノがこちらに近づいていた。
「っ!! みんな伏せてください!!」
エレナが叫んだ瞬間、蒼い彗星は俺たち目がけて隕石のように襲撃してきた。
その瞬間確かに聞こえた。
『スキル本気出す 発動条件を満たしました』
大陸中に響きわたる轟音と共に強烈な衝撃が襲いかかった。
辺りが光に覆われ、目の前が真っ白になった。
「う……」
耳鳴りを起こしながら目を開ける。すると見渡すと信じられない光景が広がっていた。遺跡も、森も完全に消滅しており、ここはだだの更地になっている。
「大……丈夫ですか?」
目の前には疲労困憊のエレナがこちらに顔を向け立っている。
エレナが守ってくれたのだろう。でなければ即死だったはずだ。
「二人とも大丈夫か?」
「……うん」
「は、はぃぃ」
俺と同様リーシャも無事なようだ。
ヒロムはひどく怯えているが、外傷は見当たらない。
俺たちの目の前には神々しく翼を広げる白蒼の美しい巨大な竜の姿があった。
その姿は恐ろしいというより美しいと感じさせた。
「……みなさん。逃げてくださいあれは私達だけでどうにかなるものではありません」
エレナの表情はどこか余裕がなく、境地に立たされているように見える。
「こいつは一体……なんなんだ?」
俺の問いにエレナは告げた。
「魔王軍幹部、八王の一体。竜王ジーヴァです」
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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