第50話 トロール討伐に行く事になりました!
「はい、着きましたよ〜」
「ここが……」
シャーベットを食べ終えコソコソ歩くこと5分ほど、俺とエレナはレギス・チェラムの目の前にいた。
エレナはレギス・チェラムを見て目を大きくし、息を呑んだ。
あまりの大きさに驚いているのかな? ふふ、やっぱりガキだなぁ。
「王様はもうここに着いているのか?」
「時間的にはその筈です」
「本当にぃ〜?」
「ほ、本当ですっ」
「はいはいそれじゃあ、さっさと入りますよー」
「あっ、ちょっと待ってくださいまだ心の準備がっ」
エレナの声を無視して大きな扉を開け、賑わっているギルド内を見渡す。
王族が本当に来ているのなら今頃騒ぎになっている筈だが、目の前にあるのはいつも通りのギルドだ。
一応周りに聞いてみるか。
隣で酒を飲んでるモヒカン頭の荒くれ者に声をかける。
「ねぇねぇ。ここにお客さんとか来なかった?」
「客人ですかい? いやぁ朝からここに居たんですが、見てないですぜ」
ほほ〜ん
ちらっとエレナの顔を見てやるとえっと言いたそうな表情をしている。
「キャメロッツく〜ん? これはどういうことですか〜?」
「そ、そんな筈では……な、なんで?」
「なんではこっちのセリフじゃボケェー!! 騙したな!? ピュアな心を持っているこの俺のことを騙したなぁ!?」
「う、ほ、本当に私第一王女……」
反論してくるエレナの声はとても弱々しかった。
気のせいか若干瞳が潤んでいる様に見える。
「ぁ、そ、そうです。手紙が届いてる筈ですっ。それを見れば……」
「でもそれってお前が第一王女って言う証拠にはならないよな?」
「……ぁぅ」
エレナは俺の的確かつ鋭い指摘に俯いてしまった。
(ふ、また勝ってしまったか。敗北を知りたい)
(ごめん、何に勝ったのは全然わからないんだけど)
「あ、居た。おっす」
「お、おはようございます」
昨日レギス・チェラムに入った期待の新人ヒロムとその教育係であるリーシャが話しかけてきた。
「ん、ああ。リーシャ、ヒロムおはよう」
ヒロムの格好を見ると昨日、武具屋でヒロム自身で買ったダガーナイフ2本を納めたダガーホルダを腰に巻きつけている。
リーシャも剣を腰につけており、二人の格好はまるで今からクエストに行くかのような装いだ。
「ちょうど見つかってよかったね」
「そうですね」
「ちょうどよかったって何が?」
「今から初クエストに行こうと思ってまして、それで探していたんです」
「二人で教育係だから」
「……なるほど、ちなみにどんなクエストに行くんだ?」
「トロール討伐クエスト、なんか強いらしいよ、めっちゃ」
はいと渡されたクエスト表を見る。
討伐クエストの場合、通常ならば魔物の姿がイラストとして描かれている。
イラスト自体はかなりデフォルメされているのだが、特徴を掴んでおり、意外と分かり易く、レギス・チェラム内でも好評なのだ。
しかし、トロールのクエスト表には?と描かれたイラストと人型、色白い肌、瞳はまるで切り裂いているように鋭いと簡易的な特徴が書かれているだけだった。
これは、目撃情報があまりにも少ないからギルド側の明確に把握出来ていないからである。
これには2つの理由がある。
1つは滅多に姿を見せない為。
もう一つは遭遇した者が帰還することが稀な為だ。
前者はともかく後者の場合、かなり危険なクエストになる。
(……初心者を連れて行くようなクエストじゃないね)
バエルが突っ込む様に言ってきた。
(クエスト情報によるとトロールの出現場所はネルト近くの森もしくは森の最奥地にある遺跡になっている。この森はよくスライムやゴブリンが出るところで初心者の狩場になっているそうだ)
(へーつまり、目的はトロールではなく、周りにいるスライムやゴブリンを倒して経験を積ませようってこと?)
(そういうことなんじゃないか? トロールは俺達二人で倒せばいいとと持ってるんだろ)
(えっ? 大丈夫? マスターって素の戦闘力スライム以下じゃん)
(スライムの話はやめろ)
「この子は?」
チラッとエレナを見た後、ジーと俺の目を見つめながら平坦な声でリーシャが聞いてきた。
なんだか、圧を感じる……気がする。
エレナを警戒しているのだろうか? 確かにフードかぶって顔が見えないし、怪しいし当然の反応なのだろう。
「……入団希望者的な?」
咄嗟に出た言葉であるが二人に怪しまれないような自然なブラフ、我ながらナイスカバーだと自分で自分のことを感心していた。
「えっ」とこちらを見ながら言うエレナの言葉は無視する。
「へぇ、最近多いね。入団希望者」
「ありがたい事にな。まぁ? ここには責任感のあるギルドマスターが居る事だし? 当然と言えば当然かな?」
「えー」
「おい、えーってなんだ。えーって」
ツンツンツンツン
心外な反応をしたリーシャにこの前のお返しにと言わんばかり突っつき攻撃を繰り出す。
「ふふ、もう、ごめんて」
「あ、あのっ」
ツンツン攻撃を続けていたら突然エレナが俺とリーシャの会話に割り込んできた。
「私もそのクエストにご一緒してもよろしいですか?」
「えっ」
エレナの言葉に思わず彼女の顔を見た。その表情は好奇心から来るものではなく、決意がこもっているものだった。
この目は例えダメだと言っても絶対に着いてくるやつだ。
「いいんじゃない」
リーシャは特に気にしない口調で言った。
「……それは俺たちがフォローするから大丈夫だろうってことか?」
「わかってるじゃん」
「ぼ、僕も大丈夫ですよっ」
ヒロムもおずおずといった感じでリーシャに同意した。
まじか、これは一緒に行く流れじゃん……
「行って来なよ。登録。待ってるから」
「……分かった。ほら、行くぞ」
「え、は、はい」
こうなった以上は流れに任せるしかない。そう思い、俺はエレナを連れて受付カウンターへと向かう。
「なんでいきなり一緒に行きたいだなんて言い出したんだ?」
「トロールは特級の危険モンスターなんですよ? あなたがトロールに殺されてしまわないか心配なんです。それにー……いえ、その、民を守るのは王族の使命ですから」
「王族の使命ねぇ」
「な、なんですか」
「別にー」
「それよりも大丈夫なんですか? 勝手に私をギルドに入れてしまって」
「なんだ? お前から一緒に行かせてくださいって言ったんだろ?」
「それはそうなんですけど、ギルドマスターの了承を得ずにギルドの入団を認めていいんですか?」
確か、ギルドマスターが色々手続きしないといけなかったでしょ? と心配そうに言う。
その心配はごもっとも、だがそれはなんの問題にはならない。
ふ、このチビ助に言ってやるかぁ。この俺の正体を!!
「何も問題はない。何故なら俺は双葉イツキ、ここレギス・チェラムのギルドマスターだからだ」
俺の言葉にエレナは目を大きく見開き口を開いた。
……ふっ、決まったな。
「……えと、笑うところですか?」
「違うわい!!」
「だって、えぇ……貴方がレギス・チェラムのマスター? すいません、それはちょっと……」
「なんでだよ! 信じろよ!」
「なんと言いますか、覇気というか、グランドマスターとオーラが全く無いので」
こ、このクソガキィ!! い、いや、こっちには証拠があるんだ。むきになることはない。
「後で泣いて謝っても許してやらんからな!」
受付にいるレイアに証言して貰えばいいだけの話だ。くく……あわあわと慌てふためいて謝るエレナの姿が目に浮かぶ。
「あ、あれ? レ、レイアがいない」
受付カウンターについたがいつも笑顔で対応しているレイアが居ない。
まぁ、別にレイアでなくてもいんだし、右隣の受付おばあちゃんでもいいや。
まだ慌てるような段階ではない。
「ばっちゃん。元気してるか? ちょっとお願いごとがあるんだけど」
受付嬢のおばあちゃんにフランクに話しかける。
大丈夫だ。受付のおばあちゃんとは何回は雑談してるし、俺のこともわかるはず。
俺の言葉を全く信じていないその舐め腐った態度を改めさせてやる!!
「あんたぁ、誰じゃあ?」
お、お、お、おばあちゃん!?
「いや!! 俺だよ!! 俺俺!!」
「俺ぇ?」
「イツキ!! 双葉イツキ!! ここのギルドマスターの双葉イツキ!!」
なんかオレオレ詐欺みたいなやり取りになってしまってる気がするがそんなことを気にしている場合ではない。
必死で訴えていると思い出した様に手をポンと叩いた。
よかった。思い出してくれたようだ……ほっと胸を撫で下ろす。
「ああ!! タケシ!! もうクエストから帰ってきたのかい?」
「ちげぇよ!! 誰だよ! タケシって!!」
「あっ私知ってます。こういうの詐欺師て言うんですよね。タケシさ、痛い痛いでふ!! ほおひっぱらないでくだふぁい!!」
「うるせぇ!! 誰が詐欺師だ!!」
目標の50話までいったので毎日更新は終了となります!
次回から週一更新になります!
金曜日更新していきます!よろしくお願いします!