第49話 こんな事がありました!
「あれ? キョウヘイじゃん。おはよ」
「ん、ソウスケか、ああ、おはよう」
彼らは神崎ソウスケと一ノ瀬キョウヘイ。双葉イツキが異世界に連れてきた彼の生前の友人達である。
彼らともう一人のイツキの友人北条ユウヤはこのギルド、レギスチェラムを作り、5大ギルドにした中心人物達だ。
そんな彼らは勇者パーティ、5大ギルドのグランドマスターと並ぶ最高戦力とされている。故に、各地から高難易度の依頼がやってくる。
日頃あちこちを飛びまわっており、こうしてばったり会う事はとても珍しい事なのである。
「こうしてキョウヘイと朝会うのって結構久しぶりだよね。朝飯一緒にたべない?」
「そうだね。折角だからそうしようか。」
キョウヘイもソウスケと同じことを考えたので快諾した。
二人とも互いの状況報告やくだらない雑談を笑いながら話し合う。こうしたなんでもない時間をとても大切にしている。
「イツキとユウヤは? ユウヤはともかくイツキはどうせまだ寝てるだろ? 叩き起こしてやろうかなー」
ししっと愉快そうに笑うソウスケにキョウヘイはやれやれと肩をすくめる。
「なら、さっさとイツキの部屋に行こうか。彼が寝ている内にね」
「キョウヘイもノリノリじゃーん」
2人は遠足に向かう小学生のようにうきうきな気分で大階段へと歩みを進める。
「最近、ソウスケは遠方にいってばかりだけど、大丈夫だったかい?」
「ん? まぁ、クエスト自体は問題なくこなしてたけど……何で?」
ソウスケはキョウヘイの言い方に何か含みがあるような感じがした。
問われたキョウヘイはいつも通り笑顔のまましばらく沈黙して何かを考えているようだった。
この話をすべきか、すべきではないか判断してるのだろう。
やがてソウスケに近づき、小声で呟いた。
「各地で蒼い彗星が目撃されている。そしかもその彗星はエレルギー弾を撒き散らし、周囲を焼き尽くしているそうだ」
ソウスケはキョウヘイの言葉に目を見開いた。
動揺とまではいかないが少し、表情が固まる。
「それって……」
「キョウヘイさん! ソウスケさん! た、大変だよ!」
ソウスケが何かを言う前にレイアが息を切らしながら慌てた様子で2のもとへ駆け込んできた。
「あ、レイア。どうしたんだよ? そんなにあわてて」
あまりのレイアの慌て具合に動揺しながらソウスケは言う。
「そ、それが。さっきイツキさんの部屋にあった書類の山を整理していたらこんなのがあって」
「どれどれ?」
キョウヘイがレイアに渡された書類に目を通すと段々と血の気が引いたように顔色が青くなっていく。
「レ、レイア……イツキは今どこに?」
「そ、それが……散歩に出掛けたまま、帰ってきてなくて」
「……た、立ち眩みがっ!」
「きょ、キョウヘイ!? ど、どうしたんだよ? 一体何が?」
状況を把握できていないソウスケが困惑した様子で訴える。
一ノ瀬キョウヘイはイツキ十字軍の中でもっとも冷静に物事を考えているいやばブレーン役だ。
ソウスケもそんなキョウヘイを頼りにしている。そんな彼がこんなにも動揺するなんて珍しい。
「国王が……ここに来る。マスターであるイツキと対談しにね」
「…………マジ?」
「しかも約束の時刻まであと5分だ」
「詰んだじゃん」
重い沈黙が3人の間に生まれた。
今回の件、確実にイツキは知らないだろう。というか書類の確認くらいちゃんとしてくれと3人は心の底から思った。
双葉イツキへの怒りがふつふつと湧いてくる。
今度からは毎朝、書類の確認をさせなくてはいけないなとレイアは強く思った。
「……いや、前向きに考えよう。イツキがここにいないことで彼と王族の対談が避けられたと言うことだ」
キョウヘイの一言にレイアとソウスケの頭に?が浮かんだ。
「え、それがダメなんだろ?」
ソウスケの言葉に横にいるレイアはうんうんと頷いた。
「ソウスケとレイアは逆にイツキが王族とまともな対談をできると思うかい?」
「…………」
「…………」
ソウスケとレイアはただ無言でスッと目を逸らす。
二人は国王と第一王女に出会った瞬間無礼を働いて即打首にされる姿が容易に想像できた。
「どうせ国王になんだこのおっさんとかなんとか言って怒らせてしまうのは目に見えているからね」
はぁとため息を吐きながら嘆くキョウヘイを二人は否定できなかった。
「対談の方は俺が代わりに行くよ。ソウスケとレイアはイツキの探し出し、ギルド内に閉じ込めて欲しい」
頷いた二人は即ざに行動を移し、ろくでなしのギルドマスターである双葉イツキを探す為にレギス・チェラムを出た。
さて、国王とは既に何回か対談をしたことがある。故にギルドマスターである双葉イツキは急用により不在の為と説明すればなんとかなるだろう。あとは対談場所もいつも使っているところがあるので問題はないだろう。
そう考えた一ノ瀬キョウヘイはやれやれとため息を吐きながら国王を迎えに行くために歩みを進める。
「やれやれ、一つ貸しだよ。マスター」
ボソリと珍しく愚痴を零しながらキョウヘイはギルドを出た。