第39話 誓約
なんだか、不思議な感じがした。まるでなにかに包まれている感覚……
ムニッ
「アンッ」
なんだこれ?
柔らかい?
それにあんってなんだ?
え? え? 一体何が起こってる!?
ま、まさか。これってラッキースケベってやつなのでは?
だ、誰なんだ?
高鳴る鼓動と大いなる期待を込めて重い、重い瞼を開けた。
「おはようございマス♪ お久しぶりデス」
最悪だ……
目が覚めると俺は原初の悪魔である序列第2位アガレスに膝枕されて寝ていた。
「おや?お顔が優れないようですネ? まだ寝ていますか?」
「結構です……」
なんでキモいおっさんに膝枕されなきゃいけねんだよ。最悪だよ。死にてぇ。はぁ、俺の人生って……はぁ……
「どうしました?」
「いや、なにもないよ?」
すこし気だるげに体を起こすといつものアガレスの部屋に来ていた。
またこのデブに呼び出されたのか、どんだけ呼び出すんだよ……
アガレスの座っている長ソファーから立ち上がり長テーブル越しにある反対側のソファーに腰掛けた。
お、今回もちゃんと紅茶と真ん中に大きなさらに乗ったスイーツポテトが山のように用意してある。
今日はスイーツポテトか!! いいねぇ!
すると後ろからガチャっと扉が開く音がした。振り返ると長髪大きく口を開け、涙を流しながらあくびをしているバエルがやってきた。
綺麗なクリーム色の長髪はボサボサになっている。
うん、ザ・寝起きって感じだな。
「ふぁふぅはぁほはほ〜」
「あくびしながら話すんじゃないよ。おはようバエル」
バエルは眠そうに目を擦りながら俺の隣に座る。
「いやはや、お見事です。貴方は定められていた未来を変えて見せましたね」
アガレスはスイートポテト貪っている俺を讃えるようにパチパチと拍手をする。
「ですが、さすがにビックバンはやり過ぎでは?」
それは自分も思った。でも仕方ないよ。だってテンション上がってたんだもん。深夜のテンション並に。
「正直、驚きました。貴方は指輪の力を完全に使いこなせていたこれってとてもすごいことなんですよ?」
「ん? ふぉうなのふぁ?」
「食べるか喋るかどっちかにしたら?」
バエルに言われ、含んでいるスイーツポテトをごくりと飲み込む。
「〜っ!!」
あああああ!! 一気に飲み込みすぎて喉につっかえたぁぁ!!
「ぶ、ぶぶびび! ばぶべべバベブー!!」
「あー!! もう!! 何やってんの! ほら紅茶飲んで、一気に飲み込んで!」
バエルに背中を優しく撫でられながらスイーツポテトと一緒に紅茶を一気に飲み込んだ。
「あーし、死ぬかと思った」
「馬鹿なの?」
「……仲がいいですね〜」
そんないつも通りの俺とバエルのやり取りを見て紅茶を一口飲みながら言った。
「え、ちょっと、やめてよ。」
アガレスの言葉を聞いてバエルがめっちゃくちゃ嫌そうな顔をする。
そんなマジトーンで言わなくていいじゃん。めっちゃ傷つきんですけど。
「そんな……前はイツキ大好き!! ずっとそばに居たい! 私と付き合ってって言ったじゃないか!」
「いや、盛りすぎ!! あれは忘れてよ!! なんかあの時は変なテンションだったの!」
バエルとわーぎゃー!しているとアガレスはおっほんと大きくそしてわざとらしく咳払いをした。
「さて、貴方の指輪に対する代償についてなんですが」
どきりと心臓が一気に高まった。
きたか……あの力の代償。俺は一体何を
「今回はなんと、大サービスで無しにしてあげます」
「「えっ!?」」
俺とバエルは驚きのあまり一斉にソファーから立ち上がった。
「ほ、本当にいいのか!?」
う、嘘じゃない? え? だ、大丈夫!? さ。詐欺か何かなのかこれは?
「その顔……全く信じていませんネ? 本当ですヨ。ついでにぼろぼろだった身体も戻してありますから」
「ま、マジかよ……え? どうしたの? サービス良すぎない?」
なんかここまでいくと感謝とか、嬉しさを通り越して恐怖しか感じないんですけど…… それに戻すという言い方に少し違和感を覚えた。
「うーん。その顔、疑っていますネ? そうですね……その条件として私と一つ約定を交わしましょう」
「約定?」
「ええ。もし次にその指輪の力を使うことになった時、貴方は人間を捨て、私達の主……即ち悪魔の王となってもらいます。貴方にはその素質がある」
悪魔の王……人間を捨てる。
「もし、貴方が悪魔の王になった場合もうあの世界には存在できません。生命体という枠をこえ概念の存在となるからです」
「ちょっと待って、ごめん話の規模がデカすぎて頭の処理ができないよ」
えっと、要するに次、指輪の力を使うと俺は人間から悪魔の王という概念に進化する。
それによってあの世界にはいられなくなり、みんなと永遠のお別れをしないといけなくなるってことだよな?
でもそれってもう指輪の力を使わなければいい話だ。それに条件を飲まなければ俺は今回の代償を払わなければならない。あ、これ実質選択肢は一つしかないやつだ。
「……わかった。その条件を飲むよ」
そう言った瞬間、アガレスの瞳はひどく歪んだような気がした。
まるで俺が悪魔の王になる事が確定したように。
「では約定の証を」
ソロモンは小指を差し出し、俺はそれに答え、二人で指切りをした。
「あ、そうだちなみに俺がいない世界だったらどんな未来になってたんだ?」
まぁ、あの夢の通りなんだろうけど、俺はあくまでも一部分だからな。
「そうですね。私が見せたあの世界では、勇者の村は魔王軍に降った黒鬼をはじめとする鬼神族とドワーフ達に崩壊され、村人は夢のように虐殺、勇者パーティは聖剣が覚醒していなかったために敗北し、最高幹部戦は人類の敗北に終わり、勇者の心は壊れてしまいまス」
「めちゃくちゃバッドエンドじゃねぇかよ」
鬱展開まっしぐらじゃねぇか。
「ええ、だから、そんな未来を変えた貴方はすごいのですよ。その才を含め、私の思わず惚れてしまいました。なんとしても貴方を手に入れたいと強く思いますよ」
ぽっと赤らめている頬を恥ずかしそうにアガレスは両手で隠した。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。勘弁してくれ、いや勘弁してください」
体の震えがと、止まらねぇ!!
そんな俺を愉快そうに見ながらアガレス紅茶を再び飲み、言葉を続けた。
「イツキさん、貴方にはこれからも期待していますよ。貴方はソロモンでさえ成し遂げらえなかった王に成られるお方なのですから」
「…………」
アガレスの言葉を聞き、バエルはただ黙って俺の顔を見つめていた。
どうした? と聞きたかったがこの様子だと訳を聞いてもはぐらかされる。そんな感じだ。
「さて、そろそろお時間ですね」
扉が現れ、アガレスが立ち上がりその扉を開けた。
「では、改めまして。引き続き良い旅を」
バエルが隣に立ちいつものだらけた顔で俺を見上げた。
「さて、行きたくないけど、行こっかマスター」
「おうとも」
俺とバエルは扉の向こうへと歩いて行った。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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