第38話 守ったもの
魔王幹部の城
「ここまでか………」
漆黒の衣服を纏い、執事服のような衣服とマントを纏った黒髪、渦を巻いてるような紫眼の男が仰向けに倒れていた。その男の体は右半分が失れている。
その男は7体しかいない魔王軍最高幹部であり、王を冠する魔物である黒王ベルベットだ。
「はぁ、はぁ………」
激闘の末、私達は黒王ベルベットを打ち倒した。
勇者パーティーのみんなも息を切らし、満身創痍で立っているのがやっとだ。本当に危なかった……私が聖剣の力を解放していなかったら確実に全滅していだろう。
「はは、私は息絶えるが、勇者よ。お前には大きく深い傷を残してやった」
黒王は血を吐きながら、まるで悪戯が成功した子供のような笑顔で言った。
「どういうことかしら?」
パーティメンバーの賢者リンちゃんが目を細め、眉をしかめながら黒王に問いかける。
いやな予感がする。
「これは、私自身を使った策だったのだよ」
………いやだ。聞きたくない。
何か、取り返しのつかないようなことが起こってしまったような。そんな嫌な予感がする。
何もかも手遅れ……そんな思いたくもない言葉が私の脳裏に響き渡った。
「これは私とお前達の戦いだけではなかったのだよ。ここで戦っている間、最高幹部である賢王ミスト様が自身の軍を引き連れて勇者の村を襲っておいたのだ」
「……え?」
頭の中が真っ白になった。
何を……何を言っているの?
「勇者リリス。これはお前の心を折る為の戦いだったのだよ……賢王ミスト様は我ら王の中でも強い。今頃は男どもはなぶり殺され、女どもは慰め物にされ、村は地獄になっているだろうな。………あぁ、その顔が見たかった」
黒王は私の顔を見てとても満足したように酷く歪んだ笑顔で消滅していった。
私は今、どんな顔をしているのだろう?
魔王最高幹部を倒したとは思えないほど空気が鉛のように重く、闇のように暗い。
まるで深海の底に落ちたような……そんな沈んだ空気がこの場を満ちていた。
「リ、リリスちゃん」
そんな空気の中、剣聖のルイちゃんが私に気を遣って心配そうに話かけてきてくれた。
しかし、言葉が続かない。何と言えばいいのか分からず戸惑っている様子だった。
「…………」
折角気を遣ってくれたのに……何か、何か言わないと。そう頭では理解していても心が追い付かない。
言葉が何も出てこない。考える気力すらも湧かなくなってしまっている。
「とりあえず行ってみないことには村の状況は分からないんだし、リンちゃんがテレポートで村で送ってあげたら?」
聖女ユメちゃんが賢者リンちゃんに提案し、リンちゃんはそれに同意するように頷く。
……いやだ。行きたくない。怖い、怖いよ。
この想いさえも言えず、ただ黙って下を向いている私の前に賢者リンちゃんは私の前に立った。
「今の私の魔力じゃ貴方一人のテレポートが限界よ。リリス、気をしっかり持ちなさい」
そう言われて何て返せばいいのかわからなくて、何も言えないまま私は光に覆われた。
光に覆われている間、怖くなって思わず目を瞑ってしまう。
耳鳴りが消え、大地と木……自然の匂いと小川の流れる音がした。いつも感じてる心安なぐようこの感じ……どうやら村にテレポートしたみたい。
大丈夫、目を開けばいつもの村があって、みんながお話してて、ママが迎えに来てくれるんだ。
それでギュってしてくれて、こんなにボロボロになってって言いながらママの「おかえり」が聞けるんだ。
そんなママに私もごめんなさいって言いながらぎゅっとして「ただいま」を言うんだ。
意を決して勇気を持って目を開いた。
目の前にあったのは崩壊した村だった。
「……嘘」
まるで天災が起こった後のように見る影もないほど無惨な状態だ。私の希望は握り潰され、非情な現実が叩きつけられた。
「っ!?」
思わず村駆け出した。体はボロボロだけど、そんなのは関係ない。
お願い!! 神様!! 私から全てを奪わないでっ!
「あっ!!」
まともに走ることが出来ないほどに疲労していたのか何もないところで転んでしまう。痛みが走り膝には血が出ていたが、どうでもよかった。
「誰か!?誰かいませんか!?」
まだ生き残りがいるかもしれない、そう思って崩れている家の瓦礫を退かしたり、なりふり構わず一心不乱に村を駆け巡る。
お願い……誰でもいいから、お願いだから返事をしてよっ……
自分でも無駄だとわかってる。でも、そうせずにはいられなかった。
「…………ぁ」
しかし、そんな私の足もピタッと止まってしまった。
まるでトドメを刺すかのように完全に壊れてしまっていた自分の家が姿を現した。
一番見たくなかったものをみてしまった。
息が詰まり、しばらく声が出なかった。顔の筋肉は硬直し、ドクンドクンと心臓が跳ね上がる。
本当は勇者なんてなりたくはなかった。
魔物と戦うのは怖いし、痛いのも本当は嫌だ。今だに不安で眠れない夜だってある。
聖剣に選ばれただけで剣聖のルイちゃんみたいに強くはないし賢者のリンちゃんみたいにいろんな魔法が使えるわけでもない、聖女のユメちゃんみたいに傷ついた人を完全に治すことも出来ない。
私はちっぽけで、弱くって、何にもない。
そんな私がここまでがんばってこれたのはママや村のみんなを守りたいと思ったから。
私はちっぽけな人間だから大きい世界より、小さな目の前のものに心が向いてしまう。
勇者パーティーのみんなのように人類のためとか世界の為だとかそんなことの為には頑張れない。
私は、私の世界の為でしか頑張れない、戦えない。
それなのに、壊されてしまった。
「やっぱり、間違ってたんだ!! 私なんかが、勇者をするべきじゃなかった!! ごめんなさい、ごめんなさい………」
体が震える、寒い、涙が止まらない、手がだんだんと冷たくなってきて感覚がなくなっていく。目の前が暗くなる。まともに息ができない。苦しい。
私は……
「リリス?」
いつも聞いている温かい声、じんわりと心の奥に熱が篭った。
震えが止まる。手先の感覚が蘇る。世界が色づいていく、息を吸って振り向くと、そこには安心した様子のママがいた。
「ママ!!」
気がついたらコケそうになりながらも必死で走っていた。
ママに思い切り抱きつく、この暖かさ、匂い、間違いない。
「リリス、こんなにボロボロになって………おかえり」
声を震わせたママの抱きしめる力が強まる。
「ご、ごめんなざいっ。た、ただいまっ。う、うぅぅ。うわぁぁぁぁぁん!」
私とママは息が止まるほどぎゅっと抱きしめ合った。様々な感情が溢れ、まるで赤ん坊のように泣き叫けんだ。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
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