第31話 レギス・チェラムのギルドマスター
「ラクスがやってくれたぞ!!」
「このまま勢いに乗るぞ!!」
「いけぇぇ!! 押し込め!」
ラクスが赤子を倒したことにより、ここにきてレギス・チェラムの士気は最高潮になった。
しかしその直後
「ウォォォォォォォォォォォ!!!」
空から地面が揺れる程の咆哮が鳴り響いた。
空を見上げると、穴みの中から、細身で筋肉か剥き出したような褐色の身体、胸のあたりと肩から背中まで牙のような発光した突起物と下顎を覆い隠す程の長い牙をした禍々しい巨神兵が現れた。
全長はネルトの城壁とほど同等の高さを誇っている。
「………あんなのどうやって勝つんだ?」
巨神兵の圧倒的な存在感にレギス・チェラムは息を呑む。
「なるほど、村の奇襲は失敗を終わったか。しかし、あの結界の中に勇者の村の人間が避難しているようじゃのう。」
はるか上空、声が聞こえた。一同は空を見上げると巨神兵の左の掌には何かを乗せていた。
注意深く見ているとそこには目の様に多い皺、焦茶色の肌、まるでミーラのような顔をして高僧が纏うような豪奢な法衣を纏う杖を持った老人が居た。
高僧はほうと呟きながらレギス・チェラムを見下ろしている。
その高僧を見た瞬間、レギス・チェラム全員の体に寒気が襲った。温度が一気に低くなった感覚がした。
ゾワっと心臓を握られたような緊張が走る。
全員が何かドス黒い、全てを塗り潰してしまいそうな魔力を感じ取っていた。
この高僧はまさに死だ。死を体現している。
初めてみる。だけど放つ魔力で否応にもわかってしまった。
「……魔王軍幹部」
ラクスはそう呟いた。
「驚いたぞ。あの赤子をも倒すとはな。あれは1体でも並のギルドを潰す事が出来るほどの力を持っていたのだが、レギス・チェラム……さすが5大ギルドと言ったところか」
おっと、何かを思い出したかのようにトントンと杖を叩いた。
「自己紹介がまだじゃったな。わしは魔王軍幹部、賢王ミスト。そしてこれは我らが作り出した都市殲滅兵器・巨神兵じゃ。光栄に思えよ。これを持ち出すの王都侵攻以来初めてじゃ」
賢王の言葉に全員が絶望した。
魔王軍最高幹部? 勇者パーティですら勝てるかわからないと言われるほどの怪物……自分たちが勝てる相手ではないと。
「小手調と行こうか」
賢王がそう言いながら右手を上げる。それは何かの合図のように見えた。
「ヴァァァァァァ!!」
その直後、命令を受けたように巨神兵は右手に雷の槍を創り出した。
その作り出された魔力の力に全員が震える。
雷の槍が放たれれば確実に辺りが更地になり、地図が書き換えられてしまうだろう。
ネルトの結界も破れてしまうかもしれない。
全員がそう確信した。止めらければ、ネルトは消える。頭では理解していた。
しかし、身体が恐怖で動かなかった。ただ一人ラクスを除いて。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
ラクスは飛び出し、雷の槍を一人で受け止めた。
「がああああああああ!!!」
(い、いてぇ!! 身体に裂けるような激しい痛みが走ってる)
あまりの痛みに気を失いかける。倦怠感が全身がを包み込む。視界が霞み、意識も朦朧としてきた。すざましい眠気がラクスを襲った。目蓋が重たい、目を閉じて眠って仕舞えばどれほど楽なことか。
そんな中、ふと思い出した。
ユウヤ達が王国を出る前のあの昼、彼らからギルドを任された事、これがたまらなく嬉しかった事。
彼らの言葉がいまだに心に刻まれていた。
―ラクスはどんな時でも自分を持ってるからね―
―ラクス……俺たちがいない間、もしもの時が起こったらこのギルドを頼んだぞー
―君が、ギルドマスターとしてのみんなの心を奮い立たせるんだー
(………そうだった。俺は! あの人達からこのギルドを任されんだ! 俺を信じて! ならその信頼に応えなきゃ糞すぎるだろ!!)
「あああああああ!!」
ラクスは痛みに耐えながら、巨神兵の雷の槍を自分の魔力で相殺し消滅させた。
「ラ、ラクスさん!!」
冒険者達はボロボロになった彼の元に集まる。ラクスの身体は火傷だらけでところ所黒く焼け焦げ、血も大量に出ていた。ヒューヒューと息を吸いまともに呼吸さえできていない。立っているのがやっとの状態だと誰もがわかった。
「まだだ!!」
そんな中、一番ボロボロのラクスが叫んだ。
「勝算はねぇ!!でもここで折れたらネルトは終わりだ!! なら最後まで下は向かねぇ!!」
(絶対にブレねぇ!! わかってるよ!! 俺がこいつらを奮い立せるんだ!!)
ラクスの叫びは崩れかけていたそれを見たレギス・チェラムのギルドメンバーの心をなんとか持ち堪えさせた。
皆がぎゅっと拳を握りしめ、唇を噛み、上を見上げた。
しかし、巨神兵は次の攻めの手を準備していた。
大きな牙のある口を大きく開けており、無限に生えている口の中から砲台が姿を現し、魔力をためていた。先程の雷の槍とは比べものにならない程の魔力を感じる。
「………もう、終わりだ」
だれかが言った。
言葉には力がある。
それは使い方によっては周りに大きな影響を及ぼす。その一言は冒険者達の心を折るのに充分だった。
その隙をモンスター達は見逃さなかった。
一気に陣形は崩れ始め、冒険者達は次々と蹂躙され、モンスターの大群に塗りつぶされていく。
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」
鳴り止まない悲鳴と共にレギス・チェラムは崩壊していく。
「くそっ!」
助けに行かねば。そう思うのにラクスの体はいうことを聞かない。
それどころかばたりと地面に倒れ込んでしまう。力が入らない、逆に抜けていく、身体中の熱が引いていく、心の火が小さくなっていく。
ラクスの目蓋は少しずつ閉じていく。
なんら不思議な光景ではない。ラクスの体をそれほどまでに衰弱しきっていたのだから。
(もう、終わりなのか? 俺は。俺たちは託されたものを守れないままこのまま……)
―ラクス、今のお前は何者だ?―
ふとそんな声がした。
聞いたことのある声……その言葉はなぜかラクスの心にスッと入っていった。
(自分が何者? 俺は、ああ。そうだ。俺は……)
目を一気に開く、そして両腕に力を入れ、立ち上がろうと鉛のように重い体を動かした。
(今の、今の俺はレギス・チェラムのギルドマスターラクス・クルスニクだ! だったらこんなところで寝てられるかよ!!)
体の熱が一気に湧き上がる。心の火が燃え盛る。
ラクスは再び、立ち上がった。
「お前ら!! 何やってんだ! 俺たちはなんだ!? 5大ギルドのレギス・チェラムだろうが!! だったら最後まで諦めるなよ! 心で負けるなよ! 辛い今だからこそ武器をとれ!! 戦え!! レギス・チェラムはこのままじゃ終わらねぇ!!」
ラクスはレギス・チェラム全員に聞こえるよう大きな声で叫んだ。
言葉には力がある。
それは使い方によっては周りに大きな影響を及ぼす。その叫びは冒険者達の心に火を入れ、死んでいた目が蘇った。
「よく言った」
その言葉が聞こえた瞬間、絶望も、体の震えもまるで全てを吹き飛ばすかのように激しい衝撃と鈍い音と共に巨神兵は頭から地面に叩きつけられた。
あまりにも一瞬で……レギス・チェラムには何が起きたか分からなかった。
ただ、見上げると誰かが巨神兵の頭に剣を突き刺し立っていた。
巨神兵の右手から脱し、空中に佇んでいる賢王がその人物を見下ろしながら問う。
「貴様……何者だ?」
その男は賢王を見上げながらこう答えた。
「俺は5大ギルド、レギス・チェラムのギルドマスター双葉イツキだ。覚えておけ」
双葉イツキの眼光は賢王ミストの姿を捉えていた。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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