第29話 鬼神
「どうやら全員の村人の避難は行えたようだ」
ふぅと安堵の息を吐く。
「悪いな。怪我全然治ってないのに来てもらって」
イツキは未だ傷が癒えていない白鬼に向かって申し訳なさそうに頭を下げた。
鬼神族達が巻いている包帯からは動く度に血が広がっていた。おそらく傷が開いていっているのだろう。
いくらイツキであっても1万体の魔物に対して村人全員同時に守るということは不可能だった。ギルドのメンバーはネルトの防衛に回さなければいけなかったから、村人を全員守り切るには鬼神族の協力が必要不可欠だった。
「いや、気にしないでくれ、あんたとお嬢さんは命の恩人だからな。どんな怪我なんて関係ねぇよ」
ここで戦っている全員が同じこと思ってると言った紅鬼に対してイツキは少し照れくさそうにはにかんだ。
そう言ってくれる奴らがいる。その事実がたまらなく嬉しくて同時にこそばゆくもあった。
「ネルトの方も襲撃を受けている様だが、大丈夫なのか?」
ネルトの周りも村と同じく、大きな穴が空いており、そこから紅の稲妻が降っており、魔導砲の発射音などの戦闘音が村にも響き渡っている。
イツキはその様子を見て心配そうにではなく、むしろ胸を張って自信満々な顔をする。
「心配いらねぇよ。ギルドのみんななら俺が戻るまで必ず守り切ってくれるさ。レギス・チェラムはそんなやわじゃない。」
「……信頼してるんだな」
「まぁな」
白鬼は自身の刀を鞘から抜き、斬り込む為に構えた。
ふぅと気を吐き出す。目の前の獲物を屠る為、恩義に報いるため、身体中に走る激痛をものともせず双葉イツキの強靭な刃となる為、刀を握る手が強まった
「それじゃ、俺達もそろそろやりますか。おい、若頭、背中は任せたぞ!」
「任せろ大将!!」
イツキも構え、白鬼と共に大地を蹴り上げ一気に斬り込んだ。
白鬼含め、助太刀してくれた鬼神族はコンディションが最悪の状態にも関わらず、村を襲う為に放たれた魔王軍を殲滅していった。
絶望的だった戦況は一気に有利になっていく、1万対16という圧倒的だった戦力差を圧倒的な武力でねじ伏せる。
その気迫、荒々しい戦い、彼らの姿はまさに鬼神だった。そして、鬼神達はものの数分で1万体ほどの魔王軍は殲滅させた。
「えぇ……俺何もしてないんですけど」
もはや双葉イツキの活躍する間も与えないほど、圧倒的だった。
しかし、すぐさま紅い稲妻が走り、第二波が来る。第一波の比ではないほどの数の魔物が現れた。紅鬼達はそれに怯む事なく、むしろ準備運動が終わったと言わんばかりの表情で咆哮を放つ。
その咆哮は士気を上昇させると同時に第二波の魔物に対する威嚇でもあった。
その咆哮を聞いた魔物たちは完全に萎縮してしまい怯えた小鹿のように全身を震わせた。
鬼神族は一気に湧き出る敵を蹂躙し始める。その光景を見ながらイツキは呆然としていた。
魔王軍がどうして鬼神族を警戒しているのかそれは身をもって理解した。
強すぎる。戦いは数という絶対的な法則を個の力でねじ伏せて見せた。味方であることに心の底から安堵しながらイツキは鬼神族と共に剣を振るった。
数十分後、第二波も殲滅し、一息つこうとした矢先、ネルトから赤色の閃光が打ちあがった。
これはつまり、村人達全員が無事にネルトに着いたといことを意味していた。
「ふぅ……なんとかなったな。サンキューお陰で助かったよ」
イツキは共に戦ってくれた鬼神族達に感謝の意を伝え、頭を下げた。
彼らの傷の具合を配慮して鬼神族とは村人が全員ネルトに着くまで協力するというものだったのだ。
「いいのか? 俺達は最後まで付き合うぞ?」
後ろにいる鬼神族の奴らも同意するように頷いた。
このまま最後まで共にこのままネルトに向かい最後まで戦ってくれたらどれほど心強いかと頼りたくなる気持ちがイツキの心の中で溢れだす。
しかし、彼らの状態を見てその気持ちを飲み込む。傷口が完全に開かれ、包帯が完全に血に染まり、ダメージを負ってないのにも関わらず鬼神族の息は完全に上がり大量の汗をかいている。今も立っているだけでも激痛が走っているはずだ。にもかかわらず、協力してくれようとしている。その気持ちだけで十分だ。
「ありがとうでも流石にそこまではさせられないよ」
「……そうか、なら俺たちは一足先に帰還させてもらう」
イツキの気遣いを察したのか、白鬼達は大人しく引き下がり、ポケットの中から野球ボール程の大きさの透明な水晶玉を取り出した。
その水晶玉は以前ズングリットが使用していた指定した場所に転移することができる魔道具である。
「……大将、武運を祈る」
「おう」
紅鬼達は光に包まれ、一足先に戦場を離脱した。
「……さて、ひとまずネルトに戻るか」
そう地下道に戻ろうとした瞬間3度目の穴が開き、第一波より数は半分だが、紅い稲妻が走り、魔物たちが現れた。
「……やっぱり残ってもらっていた方がよかったかな?」
魔物たちの姿をみてイツキは愚痴るように呟いた。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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