第26話 夢を見ました!
夢を見ている。
燃え盛る村に向かって走って行く少女の姿が映し出される。その表情はまるで世界が終わりを迎えたような絶望した顔だった。
火傷を負いながら、そんなことはまるで気にも止めない様子で村の中を駆け回る。
生存者がいるかもしれない、そんな期待を抱いているかに見えた。
しかし、そんな期待を潰すかのように、燃えている村の中央には村人達の生首が棒にくくりつけられていた。
その生首のなかには自身の母のものもあった。それを見た少女の顔には感情がなかった。
まるで壊れてしまったようにその場に座り込み、自身の母親の首に両手を差し伸べていた。
「あれ? ここは………」
目を覚ますと長いテーブルと椅子が置かれている真っ白な部屋にいた。
なんかここ来たことあるぞ。
「これは、これは、お目覚めですカナ ?」
ちゅっとシルクハットと尖った耳、高い鼻異常にしゃくれた顎、大きな口をしたまるで悪魔のような顔が目の前に現れた。
「ぴぎゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃ !!」
そのあまりにも不気味なビュアルに思わず、驚きで人生で発したことがないような悲鳴をあげながら椅子から転げ落ちてしまう。
だ、誰だよ!! いきなり出てきやがって!!
「アハハ、面白い人ですね、今のまるでチンパンジーのようでしたよ」
愉快そうに笑っている男は風船のような体型をして紳士服を着ている。
「申し遅れました、ワタクシ、原初の悪魔の一柱であるアガレスと申します。この度はある警告をするために貴方をお呼びしました」
ま、また悪魔? しかもバエルと違ってすごく悪魔っぽいな。
「あ、ちなみにあなたとご友人の3人をあの世界に転生させたのは私ですよ」
まじかよ!! お前だったんかい!!
「それと貴方のことはいつも見ていますが、だめじゃないですか。朝はちゃんと起きないと。不健康ですよ?」
「やかましい。不健康な体してるお前に言われたくないわ」
「ひ、ひどい」
そう言いながら、ちゃぽん、ちゃぽん、ちゃぽん、ちゃぽん、ちゃぽん、ちゃぽん。
と紅茶に角砂糖を入れている。
いや、どれだけ角砂糖入れるんだよ。そんなんだからこんな身体になるんだ。
「どうかしましたか?」
「………いや、何でもない。今の映像はアガレスが見せたのか?」
前の前に置かれているショートケーキを食べる。
うん!? こ、これはっ!
「このショートケーキめっちゃうまい。」
「え? あ、そうでしょう!! 苺から私が育てているんです! それにスポンジの生地とか生クリームとか色々とこだわっているんですよ」
アガレスがとても嬉しそうに色々と語り始めた。
「え、これもしかしてお前の手作りか?」
「そうです! 美味しいと言ってくれたのはイツキさんが初めてです」
………マジかよ。
「あ、すいません。先ほどの質問の答えですが、その通りです。」
我に帰ったのかこほんとわざとらしく大きく咳き込んだ。
紅茶を飲み、カップを置いて間をあけアガレスは再び俺に語り始めた。
とある一人の少女は可愛い笑顔が特徴的なごく普通な女の子でした。
その子はある大事な大事な使命を抱えていました。
それはとても辛いものでしたが、自身の大切な人を居場所を守るために笑顔で必死に頑張っていました。
しかしある日、悪い悪い魔物達に大切な人たちを居場所を壊されてしまいました。それと同時に彼女の心は壊されてしまったのです。
周りの人たちのおかげでなんとか立ち直ることが出来ましたが、その日以降、彼女は心から笑えなくなり、作り笑顔しか出来なくなってしまいました。
彼女は、自分がどうやって心の底から笑っていたのか分からなくなってしまったのです。
いえ、もしかしてあの時、失くしてしまったのかもしれませんね。
「……何が言いたい?」
「あれは決められた運命、避けられない悲劇。もし、気になるのであれば勇者の村に向かって下さい」
決められた運命? 避けられない悲劇? さっきからこのデブは何を言ってるんだ?
それに
「勇者の村って………」
「明日、勇者の村とネルトが魔王軍に攻められます。あなたが本当に彼女の笑顔を守りたいのであれば決断しなければならないでしょう」
「は? どういう意味……」
「それは彼女が答えてくれますよ」
アガレスは俺の前にポンと扉を出現させた。……扉の先に行けってことか。
俺は静かに立ち上がり、扉を開けた。
その先には城にある様な大きなベッド、ソファにテーブル、シャンデリアなどの家具に大きなベランダとまるでお姫様が使いそうな部屋があった。
ポテチなどお菓子の袋やコーラ、食べカスなどが散乱している。これじゃあ汚部屋じゃねぇか。
「あ、マスターいらっしゃい」
大きなベッドの上にはバエルが携帯ゲームをしながらポテチを食べていた。
いらっしゃいじゃないんだよな〜ここはバエルの部屋なのか?
そんなことを思いながら慣れた足取りでスイスイーとバエルが寝転ぶ綺麗なベッドに向かった。
「バエルこの部屋汚すぎない? 掃除しろ掃除を」
「えーマスターだってレイアちゃんに手伝ってもらいながら掃除してるじゃん。ていうか9割くらいしてもらってるじゃん」
「そ、そうだったけ? まぁこの件は一旦おいといてだな。アガレスって言う悪魔に連れてこられたんだが」
「あー多分、指輪の件だと思う。以前にその指輪の力は全悪魔に絶対命令が下せるって言ってたのは覚えてるよね?」
「ああ、そんなこと言ってたなぁ」
転生してからこの指輪使ってなかったからすっかり忘れてたわ。
「実はそれだけじゃないんだよ。この指輪は全72体の悪魔の使役や悪魔達の能力を全て使うことができたり、悪魔を創り出すこととかできる……つまり全知全能の力を手に入れることができる指輪なんだ」
「……マジ?」
それチート過ぎません? そんなことなら最初から使っておけばよかったっ!!
「マジ。でも指輪の力を使うには代償がいる。その代償は記憶かもしれない。腕かもしれない。五感かもしれない。命か、もしかしたら存在そのものを悪魔達に持っていかれるんだよ」
「え……」
つまり記憶、命……双葉イツキという存在が消える。
リリスやユウヤ、ソウスケ、キョウヘイ、レイア、ラクス、ギルドのみんなから俺という存在が消し去られる。誰も俺のことなんか覚えていないってことだ。
そんなの……本当に俺はひとりぼっちになってしまうじゃないか。払わなければいけない代償が大き過ぎる。
ふとソロモンの言葉を思い出した。
『貴方は決断しなければならないでしょう』
「マジかよ……」
決断ってこれのことなのか? だとすれば俺はー
「まぁ、指輪の力を使う使わないはマスターの自由だからさ。そんな深く考えなくてもいーよ? あ、こんな力もあるんだぁ。たまげたなぁくらいの気持ちでいいと思う」
バエルが俺の顔色をみて気負いしないように言ってくれた。
「まぁ、今すぐ決めろって訳じゃないからさ。ゆっくり考えなよ。その指輪を使ってしまうともう後には引けなくなるからさ」
気を使い、優しい声色で言ってくれたバエルにこくりと頷く。
そして俺は夢から覚めた。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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