第25話 ずっと
ルイちゃんを追いかけ、2階建ての家が見えてきた。
私達、勇者パーティーが住んでいる家。素朴な見た目だけど、私はそんな所を気に入っている。
窓から灯りが見えており、煙突からは煙が出ている。
リンちゃんがビーフシチューを温めてくれているのだろうか?
そう考えると自然に足どりが軽くなる。早く、早くと手招きするルイちゃんの元に着くと
「お姉ちゃんただいまー!!」
勢いよく家の扉を開いた。
「おかえり。さっさと手を洗いなさい。ご飯にするから……」
そう言いながら振り返ったりんちゃんは私の姿を見て固まった。
「た、ただいま帰りました〜」
「……全く。帰ってくるなら事前に連絡をよこしなさい。お帰りなさいリリス」
言葉こそ少し厳しいが、優しい声で微笑みかけてくれた。
ルイちゃんと同じく桜色の髪色で長さはセミロングほどある。彼女とお揃いのヘアピンをしている。
彼女は賢者であるリン・オルテシア。剣聖であるルイちゃんのお姉さん。
勇者パーティの中でも一番家事が出来るしっかりものだ。あと、結構世話焼きなところもあったりする。
ルイちゃんと手を洗い、晩御飯の準備の手伝いをする。
「その顔、吹っ切れて自信がついたって顔してるわ。何かいいことでもあったの?」
「……うん。この1週間色々とあって。ご飯を食べながら話すよ」
「そう。あ、準備はルイと一緒にやるからユメを起こしてくれない? 多分2階の自室で寝てるから」
「わかった」
階段を上がってまだ寝ているであろう聖女であるユメちゃんの部屋に向かう。
扉を開けようとした瞬間、向こう側から勢いよく扉が開かれた。
「うわ!?」
いきなりだったので思わず腰を抜かしてしまった。
「リリス? 何かあったの?」
悲鳴を聞きすぐさまリンちゃんが台所から声をかけてくれた。
大丈夫と返事をするとそうとだけ帰ってきた。
「あ、リリスちゃんだ。おかえり〜」
扉を開けた張本人であるユメちゃんが笑いながら手を差し伸べてくれる。
眠たげな顔とオレンジブラウンの長髪とふわっとした毛先のおかげで全体的に柔らかな雰囲気を放つ。
「た、ただいま。ご、ご飯できたよ」
「うん。匂いがしてきてわかったよ。お腹すいたー早く食べに行こう」
差し出された手を掴み、立ち上がった。
階段を降りてリビングに着くと長テーブルにはビーフシチューとパンとサラダが置かれていた。
全員テーブルにつき、手を合わせた。
「いただきます」
声を揃えて言った。
「んーリンちゃんのご飯は美味しいねーありがたや〜」
感謝するようにぱくぱくとビーフシチューを食べるユメちゃんにリンちゃんは大袈裟ねと嬉そうに呟く。
「げぇ!? お姉ちゃん! 私のやつにんじんがたくさん入ってるんだけど!!」
これお肉以上入ってるよ!? とルイちゃんは涙目で訴えた。
「あんたが好き嫌いして野菜食べないからでしょ? あと、リリスにお願いして食べてもらうんじゃないわよ」
リンちゃんは釘を刺すように言った。
そう言われるとルイちゃんはうっ! と図星を突かれた時のように汗を流し目を逸らした。
リンちゃんはそんなルイちゃんの姿を見てほら見なさいとじとっとした目で見つめる。
「ま、まぁまぁ。ルイちゃん私のお肉とっていいからにんじんも食べよう?」
「やった!! リリスちゃん大好きー!」
ルイちゃんは目を輝かせながら私のお肉を光速で奪い去っていった。
は、早い。早すぎる。これも剣聖がなせる技なのだろうかと感嘆していたら
「リリス、甘やかしたらだめよ。全く……」
装い直すわと席を立ち、私のビーフシチューを持ってキッチンに向かっていった。
はいとお肉たっぷりのビーフシチューを受け取る。
さっきの倍の多さに驚きながらありがとうと言って受け取った。
「……で、この1週間リフレッシュできた? まぁ顔を見ればわかるけど」
「そうだよね〜なんかリリスちゃん前よりキリってなった」
リンちゃんの言葉にうんうんとユメちゃんは同意するように頷く。
「そ、そうかな……」
そこまで変わった自覚はないけど、嬉しいな……
ご飯を食べながら勇者の村に帰て起こったことを全て話した。
ドワーフと鬼神族の皆さんのこと。
そして……あの時、川で助けてそのあと再会して一緒にご飯を食べて、命をかけて助けてくれて……私に大丈夫だって言ってくれた男の子の事を。
「ずっと中立の立場を保ってきたドワーフと鬼神族と協定を結ぶなんてすごい!」
リンちゃんはとても驚いてくれた。
「う、リリスちゃ〜ん!! よがった!! 聖剣の力も使えるようになったんだねぇ〜!!」
リンちゃんと対照的にルイちゃんはどば!! と溢れたように泣いてくれた。
「ふ、二人ともありがとう……」
思った以上に反応してくれた事に若干戸惑いながら言った。
「近いうちに私たちもドワーフの村に行って挨拶とかしないとね」
リンちゃんはうーんと考え込みながら呟いた。
確かに、村長達にみんなの紹介もしないといけないし……今度王族の方々と相談しないと。
「へーそれで、最後まで話に出てた男の子って誰〜?」
ユメちゃんの一言が空気をピリつかせた。
あ、あれ? さっきまでいい雰囲気だったのになぁ〜?
「……で? その男の名は?」
あ、あつがすごいよっ!? リンちゃんっ!!
ユメたんはおもしろそうにニヤニヤしてるし、ルイちゃんはただ黙って私の言葉を待っていた。
なんだか、こ、怖い。
「ふ、双葉イツキって人だけど」
「「「双葉イツキ?」」」
3人の声が重なってビクッとする。
「私、その名前聞いた事あるよ〜」
「奇遇ね。私もだわ」
「ユメちゃんもお姉ちゃんも? わ、私もあるよ!」
4人全員がイツキさんを知っている?
い、いつも間に会ったんだろう?
「あ、でも会ったことないんだけどね〜」
ユメちゃんの言葉に「私も」とオルテシア姉妹が声を揃えて言った。
そこから、3人はイツキさんについて議論を始まる。
「はいはい。私はすごく怠け者だって聞いた〜」
ユメちゃんが挙手しながら言った。
「少し褒めたらすぐ調子に乗るって聞いたわ」
ただのバカね。とリンちゃんは呆れながら言う。
「えと、ユウヤさんは後先考えず、突っ走って行く平気で無茶ばかりする人って言ってたなー」
ルイちゃんも思い出すように話す。
な、なんだか。さっきから悪口ばかりの様な? …………確かに変わった所もあるけど。
「………………」
「あれ? リリスちゃん。なんか怒ってる?」
「……え?」
ユメちゃんが放った言葉に驚いた。
あれ? 私、そんな顔してる?
思わず顔をペタペタと触りながら確認する。
「あ、怒った顔はしてないよ? ただ怒っている様な気がしただけ〜」
私のシックスセンスがそう言ってるんだよ〜と冗談気味で言った。
本人いわくユメちゃんは第六感と言うものを持っているらしい。
人の心を直感で見抜いたり出来るもので例えば、嘘を付いていたら分かるらしい。
ただ、ユメちゃんはいつも冗談そうに言うから本当か嘘かは分からない。
「ま、リリスの話も合わせて聞くと普段はダメダメだけれども、いざとなったら頼りになるって事かしら?」
「あー確かにそんな事も言っていたような……」
リンちゃんのまとめにルイちゃんはう〜んと頭を捻りながら必死に思い出そうとしていた。
「双葉イツキくんか〜どんな人か一度会ってみたいよねー」
ユメちゃんはビーフシチューを食べながら言った。
珍しい。ユメちゃんは基本他人には無関心だ。会ってみたいというのはユメちゃんの中では余程イツキさんに対して興味を持っているのだろう。
「そう言えば、双葉イツキには自分が勇者だって言ってなかったんだっけ?」
「う、うん」
リンちゃんの問いに頷くと不思議そうに首を傾げた。
「どうして? いつもは名乗ってるじゃない」
リンちゃんのいう通り、私は大抵自己紹介の時に勇者だと名乗っている。それは自身を鼓舞するためだ。
確かに私は結局イツキさんに勇者だと名乗れなかった。それどころか一生言わないかもしれないとまで言った。
どうして?
「……どうしてかは分からないけど、あの人には……私のことをただの女の子として見て貰いたいって思ったの。勇者リリスではなくただのリリス・アリスタとして」
辿々しい言葉になっちゃったけど、伝わったかな?
「……私たちは仲間ではあるけどただの友達じゃない。戦友みたいなもの。リリスの事をどうしても勇者として見てしまうから一人くらそのままのリリス見てくれる友達がいてもいいと思う」
「……リンちゃん」
リンちゃんの言葉に、その優しい顔に声に目が潤んだ。
「ただ、その対象が男っていうのが気に食わない」
「……リンちゃん」
「リリス!! 私は認めないわよ! 絶対機会があったら双葉イツキに会わせなさいよね!」
「あー出た……お姉ちゃんのリリスちゃんに対する鬼のような過保護」
ルイちゃんが呆れながら言った言葉を私は苦笑いした。
こうやってみんなとお話しする時間が私は好きだ。
これからも誰一人かける事なくずっと続きますに。
ずっと……
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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