第24話 勇者の帰還
「……へごっ!?」
馬車が止まった衝撃で目が覚める。
「勇者さま、着きましたよ。王都です」
運転手さんの声が聞こえた。
あ、そうか。寝ちゃってたのか……
ぼーとしていた頭を覚醒させて、運転者さんにお礼を言い馬車を降りる。
夕暮れ時で日が沈もうとしていた。
「たまたまとは言え、勇者様をお運びすることができて光栄でしたよ。大変でしょうが魔王軍との戦い頑張ってください。これから砦に資源を届けに行ってきますんで!」
「ありがとうございます。勇者リリス頑張ります!」
私はリリス・アリスタ、世界に3本しかない聖剣に選ばれてしまった勇者である。
剣聖、賢者、聖女であるとても頼りになる仲間達と一緒に魔王軍と戦っている。
笑顔を作って手を大きく振りながら馬車を見送った。
他の街や国にいく馬車、防衛ラインである砦に食料や治療のためのアイテム、修理のため資材を運ぶ馬車などたくさんの馬車がでは入りしている。
「さて、行こう」
それは決意するために自然にでた言葉だった。
ここ、王都は魔王軍との数ある都市の中では最も魔王軍との最前線に近い都市だ。
この都市には私達勇者パーティーや王族、各地から集まった強い人たちが暮らしている。
最前線である砦に一番近い都市だからだ。
そしてこの王都より最前線にある砦とは魔王軍と衝突している第一防衛ラインだ。
以前、魔王軍幹部である暴王を勇者パーティのみんなと王族の方々と協力して倒した。
その後、暴王が使っていた城を改造し、砦として使っている。
私達はこの砦を起点にして前線を押し上げつつ、次の魔王軍幹部の城を目指している。
勇者パーティとはいえ、私たちは人間だ。魔力や体力が尽きたら体が動かないし、心の負担も大きくなっていく。無尽蔵に戦い続けることは出来ない。
だからこうして砦から離れ、他の人と入れ替えり休暇をとっている。
全ての始まりである原初の聖剣をぎゅっと握りしめ、仲間達が暮らしている家に向かった。
私は1週間ほど故郷である勇者の村に居た。
聖剣の力を使いこなせず、焦っていたところを気を遣ってもらい。休ませて貰っていた。
最初は申し訳なさでいっぱいだった。それでもすんなりとみんなの提案を受け入れたのは本当に心が参っていたんだと思う。
この1週間で私は双葉イツキさんに出会い、ドワーフの故郷に行き、鬼神族と戦い、そして聖剣の力を解放させた。
勇者として自信を持てた私は予定より早くこの王都に戻ってきたのだ。
久しぶりに会うことに緊張しながら勇者パーティ共同で住んでいる家へと向かう。
「リリスちゃん!?」
ふと声の方向に向くと女の子が驚いた表情をしていた。
ぱっちりとした吊り目が見開き、桜色ボブカットの髪は風で靡いている。
前髪に付けているヘアピンと髪の後ろについた白のリボンは彼女のこだわりらしい。
彼女は勇者パーティの一人である剣聖ルイ・オルテシア、先頭に立ち道を切り開いてくれるとっても頼もしい私の仲間だ。
「えっと。ただいま。ルイちゃん」
「っ〜おかえりー!!」
「へごっ!?」
ぱぁととても嬉そうに明るい表情をしながら抱きついてきた。
ただ、勢いが強すぎてタックルなみの衝撃が襲ってきた。
耐えきれず、思わず後ろに押し倒される。
い、一瞬息ができなかった……
「……あ、ごめん。嬉しくてつい」
あはは……申し訳なさそうに私から離れ、立ち上がり、手を差し伸ばしてくれた。
「ううん。元気そうでよかったよ」
首を横に振りながらルイちゃんの手を取った。
確かにとても痛かったけれどルイちゃんの気持ちは嬉しかったから。
「…………」
「ど、どうしたの?」
ジーとこちらの顔をみる。そんなに見られるとなんだかむず痒い。
「ううん。リリスちゃん。元気になってよかったなぁって」
ルイちゃんはほっと安堵したように笑った。頭のてっぺんにあるアホ毛は嬉そうにぴょんぴょんと動いている。
本当にどうなってるんだろう? そのあほ毛。
彼女は私が悩んでいた頃、遊びに連れて行ってくれたりと色々と元気付けてくれた。
「……心配かけちゃってごめんね。もう大丈夫!! これからも頑張っていくから、よろしくね?」
「うん。まっかせて……っこほ! こほ!」
明るい表情が一変し、ルイちゃんは苦しそうに咳をこみ始めた。
「だ、大丈夫?」
苦しそうに身をかがめるルイちゃんの背中を優しくさする。
「う、うん。大丈夫、大丈夫だから……」
乱れている息を無理矢理に整えながら笑顔で答えた。
ルイちゃんは生まれつき体が弱く、よく咳こむ。たまに血を吐いてしまう時もある。
そしてごくたまに、苦しそうに心臓を押さえ込むこともある。
その病状は未だ不明で、あらゆる国の薬を試してはいるが、一向に良くならない。
回復魔法は傷は治せるが、病は治せない。
だから、以前みんなに魔王軍との戦いを抜けることも話し合ったこともある。
だけど、本人の強い意志とルイちゃんという戦力が抜けてしまうことが致命的事実があるので無茶をしないことを条件として一緒に戦っている。
「……うん。落ち着いてきたし。大丈夫だよ。リリスちゃん迷惑かけちゃってごめんね」
かけちゃった迷惑は戦いで返すからとぎゅっと服の裾を握りしめながらルイちゃんの表情が曇る。
だから私は
「そんな顔しないで」
むにーとルイちゃんの頬を伸ばす。
「はへ?」
「私だって、ルイちゃんにたくさん迷惑かけちゃってるから……ルイちゃんも私達を頼ってよ。私じゃあ頼りにならないかもしれないけど、私も頑張るから」
だからと言葉を続けるもなんと言ったらいいか分からない。
う、どうしよう。こんな時、イツキさんならなんていうのかな?
「……うん……うん。ありがとう」
何度も何度も頷きながらルイちゃんは言った。
その表情には曇りが消えていた。
えと、上手く出来なかったけど、元気を出してくれたのかな?
「さぁ!! 帰ろう! 今日はお姉ちゃんがビーフシチューだって言ってた!」
ほらほら! と元気よくルイちゃんは走り出した。
私も彼女の後を追いかける。
置いていかれないように。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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