第21話 紅掛空
俺とじいちゃんと白鬼の3人は黒鬼の刀の前で合掌し、頂上をあとにした。
「あ、イツキさん! 目が覚めたんですね!」
村の上層まで降りた俺たちの姿を見つけてパァと顔を明るくさせてリリスがこちらに走ってきた。
ところどころ服や体が汚れている。
どうやら先ほどまで、村の片付けを手伝っていたようだ。
「もう動いても平気なんですか?」
「おう、平気平気、なんなら今から村の片付けを手伝おうかなって思ってさ。」
ムンと両腕を上げマッチョがよくしてるポーズをして俺のやる気と元気さをアピールする。
(マスターが手伝いを? いやまてそれは心からの言葉か? つまりこれは……ブラフだ)
(は? なんだこいつ……本当にやる気満々だから、嘘じゃないから)
(どうせリリスちゃんに良いとこ見せたいからでしょ?)
(そんなっわけないだろうがっ! )
「いや、それは大丈夫だ。もう夕暮れ時だからな。あんた達も帰った方がいい」
「え?あ、そうなの?」
白鬼も言葉にガクッと肩を落とす。
(よかったじゃん醜態を晒さずに済んでさ)
(シャラップ!!)
空を見上がると確かにもうじき日が暮れそうになっている。
むー珍しくやる気になっていたのだが、時間がないのならしょうがない。
「お嬢ちゃんありがとうの〜約束はきちんと守るからの安心してくれい〜」
「ああ、こっちも結んだ盟約は必ず守る」
「あ……えっと、はい。こちらこそよろしくお願いしますね。」
リリスは困ったように白鬼とおじいちゃんにペコっと頭を下げる。
その様子はあまり俺には聞いていて欲しくなさそうな感じがする。
約束? 盟約? 俺が眠っている間に3人の間で何やらあったらしい。
リリスがこちらを気にするかのようにチラチラと見ていた。その目はあまりこの話については突っ込まないで欲しいと訴えている目だ。
そういうことならこちらからは追求はしないでおこう。
「それじゃあ、村の出口まで案内しようかの〜」
おじいちゃんはそう言ってこちらに手招きしながら階段を降りさらに下層に向かって行った。
紅鬼に手を振りながら見送られ、おじいちゃんの後を歩いた。
村の一番下まで行くとそこには驚くべき光景が待っていた。
目の前には岩の門がありその先は空が広がっていた。
それを見た瞬間納得した。確かにこれは誰にも見つからないわけだ。
この村は現在、空を浮かんでいるからだ。
おお、空中都市?いや、村だから空中村か? 天空の村?
「あわ……あわわわわ」
「い、イツキさん!? 大丈夫ですか!?」
「あ、リリス、こ、腰がっ」
あまりの衝撃に腰を抜かしてしまい、リリスに支えて貰ってしまっていた。
(だ、ダサすぎる……)
バエルの呟きに僕は何も言えませんでした。
空洞になっていた岩の門の向こう側にはいつの間にか草原が広がっている。
どうやら一種のワープ装置らしい。
門の向こう側へ歩を進める。
「また、村が復興したら手紙を出すか報告しに会いに行くからの〜」
そう言いながら手を振るおじいちゃんに手を振り返し、ドワーフの村から出て行った。
ドワーフの村の門を潜り抜けた先は勇者の村付近の草原だった。
振り返るとドワーフの村にあったものと同じような岩の門がある。
もしかしたらこれと同じものが各地方にあってそこから村に出入りしているのではないだろうか。
それで、外に出るときに鬼神族に護衛して貰っているとか。まぁ、そんなところだろう。
「悪いけどとりあえず、村に戻って地下道まで案内してくれないか?」
「わかりました。行きましょうか。」
ひとまず、勇者の村に向かうことにした。
数分で村の入り口に着き、そのまま地下道の入り口に向かう。その最中リリスはピタッと足取りを止めた。
「リリス?」
どうしたのだろうかと振り返るとリリスは何かを言いたそうな顔をしていた。
「あ、あの……」
言いたいことがあるけれど、まだ踏み出せない。そんな様子だ。
「……ゆっくりでいいよ。」
そう言った瞬間、リリスは少し安心したように頷く。
少し、間をおいて再びリリスは話始める。
その顔はまるで何かを決意したかのようだった。
「イツキさん。あの時、私を助けに来てくれてありがとうございました。その、私の事……聞かなくていいんですか?」
あ、多分ここはターニングポイントだ。
恐らく、返答によってはリリスの心のシャッターを少しだけこじ開けられそうな気がする。
本当の彼女の鱗片を垣間見れるような……そんな予感がする。
リリスとの心の距離を一気に縮めるには今しかないと思う。
だけど
「いいよ別に。言いたくないのなら言わなくても。人間なんだから隠し事の1つや2つあって当然だよ。俺にもあるしな。だからリリスが話したくなるまで待ってるよ」
今すぐじゃなくてもいい。いつかでいいから俺はリリス自身でシャッターを開けて欲しい。
俺がこじ開けるのでは意味がないと思ったからだ。
そう心から思った。
だから、ゆっくり待つこととしよう。
「待っていて、くれるんですか? もしかしたら一生言わないかもしれませんよ?」
「それならそれで別にいい」
「…………」
「それに今回だって命に代えても守ってやるとかカッコつけたくせに最後はリリスに助けられちゃってさ……ダサいよな。むしろ俺がリリスにお礼を言うべきなんだよ。ありがとな」
「そんな事ないです! あの時、守ってくれたから、手を握ってくれたから私は……少しだけ前に進める事ができたんです!」
珍しく、強い口調で言うリリスに驚いているとハッとしたようにリリスは黙り込んだ。
「リリス……もし君が」
ぐぅぅぅぅぅ!! とお腹が鳴る音が鳴り響いた。
あぁ……鳴ったのは俺のお腹だった。
「…………」
「…………」
沈黙が生まれてしまった。
「……これは、お見苦しいところを」
「……ぷっ! あはははは!!」
リリスは吹き出したかのようにお腹を押さえて笑った。
「わ、笑うことないだろ!?」
「ご、ごめんなさいっ。でもっ、その、タイミングがっ」
ふふっと笑い涙を拭き取っていた。
その様子はとても可愛いけど……払った代償がデカすぎる。
まじで恥ずい。今すぐダッシュでこの場から去りたい。
クソ! 途中まではよかったのに! 畜生! 何を言おうとしたのかも忘れち待ったしよぉ! あぁぁ、やり直しがしたい! テイク2を所望する!!
「イツキさんは、不思議な人ですね……」
「えっ? そ、そうかな?」
それって変な人って意味なんだろうか?
好意的な言葉と受け取ってもいいのか?
微妙なラインだ……
「そうだ。きっとママ晩御飯もいっぱい作っちゃってるのでよかったら、晩御飯も食べて行きますか?」
「……え? い、いいのか? 晩御飯もいただいても」
「勿論です。お礼と言ってはなんですけど」
どうしますか? と言うリリスの問いにお願いしますと頭を下げる。
するとリリスは嬉しそうにうなずいて
「行きましょう! 早くしないと置いてっちゃいますよ!」
一足さきに駆け出していった。
「あ、待ってくれよー!」
紅掛空の下、駆け出したリリスを追うために走り出した。
リリスはやっぱりまだ少し遠くて、追いつけそうになかったけれど、ほんの少しだけ近づけたような気がした。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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