第2話 死にかけました!!
「うおおおおおおおおおおおおおおお、どうなってんだこれええええええええ !」
発した光によって俺とバエルは異世界に転送された。
周りにあるのは青と白と光のみ。
そう、俺達は空中に転送され落下中なのだぁぁぁ。
「うわああああああ!! なんて事してくれたのさ! このばかばかばかばかマスター!!」
落下中だというのにバエルに胸ぐらを掴まれ罵倒される。
「私の引きこもり生活がっ!! こんなニートマスターのせいでっー!」
面白い程取り乱したバエルにやいやいいわれながら俺の目に入ったのは教会のような建物を中心にオレンジの屋根で統一された建物、綺麗な円を描いた城壁に囲まれた街だった。
「すげぇ」
あまりの美しくさに心奪われる。
まさにファンタジーの世界、これは俺が思い描いていたような街並そのものだった。
俺ってば、本当に転生しちゃったんだな……
「じゃなくて! 何も大丈夫じゃねー! バエル! 何とかしてくれよ! このままじゃあ俺死んじゃうよ!」
ここは頼みの綱のバエルさんに頼るしかねぇ!!
「あああ!! もう! そんなの知らないよ! 私にもどうする事も出来ないんだから!」
「は!? この悪魔無能過ぎんか!? なんの為に連れてきたと思ってんだ!?」
互いに罵り合い、共に川に落ちて言った。
「ぶぼっ!」
川の深さは見た目より深く、バエルのいう通り死にはしなかったが、身体中に叩きつけられたような激痛が襲い、体が痙攣し動けなくなってしまった。
川の水も大量に飲み込んでしまい、息もままならず、意識が遠のいていく、ははは、転生して数分で死んでしまうのか……
視界が朧げになり、闇に包まれていった。
「……か!?」
声が、聞こえる。
「っ !!」
直後、驚くほど柔らかな感触が唇に包まれた。
何だろこれ。
朦朧とした意識で目を、開けた。
「大丈夫ですか!?」
とろんとしたタレ目、黒茶色の長い髪はゆるふわにカールされたハーフアップで胸元にリボンをついている村娘! という感じの服を着た可愛い女の子が俺に呼びかけていた。
女の子の顔はこちらを心配しているような、どこか不安そうな顔をしている。
「ゴホッ! カハッ」
そんな彼女の顔を見て大丈夫、と言おうとすると飲み込んでいた水を吐き出してしまい喋ることが出来ない。
くそ、彼女を安心させたいのに、たった一言喋ることすら出来ないのか。
「無理しちゃ駄目です。落ち着いて、ゆっくり息を整えてください。」
焦る俺を落ち着かせるように少女は優しい声で背中をさすってくれる。
その呼びかけのおかげで落ち着き、息も整えることが出来た。
改めて、少女の顔を見る。
「目が覚めてよかったですー」
心の底からほっとしている彼女の顔をみる。
その瞳は慈愛に満ちており、表情は明るく、お日様のように暖かな雰囲気を纏っている。
「あ、その、助けてくれてありがとう」
頭を下げながら心のそこからお礼を言った。
「いえそんな! お礼を言われることなんて! こちらこそありがとうございます!」
「いや、何で助けた側がお礼言ってるんだよ」
「あ、そっか、そうですね」
えへへと笑う少女。
その笑顔はまるで桜の花のような、暖かい気持ちにさせる不思議な力があった。思わず、その笑顔に見惚れてしまう。
いかんいかん、あまりじっと見ていると気持ち悪がられてしまうな。
「くしゅん!」
くしゃみをしてしまった。
流石にずぶ濡れの状態では気温が高くてもこうなってしまうか……
「服がずぶ濡れですね、ちょっと待ってください。」
えいと言いながら少女が指を振ると暖かい風が体を包み、瞬時に服が乾いていった。
「おお! すげぇ! 今の魔法なのか?」
うおおお!! やっば!! これが魔法!? は、初めて見た。
寝る前にベッドの中で想像していたものと同じようなものだった。
さすが異世界、期待を裏切らないねぇ。興奮するのも仕方ないよね。男の子なんだもの。
「へ? は、はい。そうですよ。初級魔法なんですけどね」
俺の反応が予想以上に大きかったのか少女は驚きながら話す。
「初級魔法とかそんなの関係ないって! 君の魔法のおかげで助かったよ! ありがとう。」
「えへへ、そんなに感謝されるとなんだか照れちゃいますね」
少女は両頬を少し赤らめて照れくさそうに笑いながら言った。
可愛い過ぎんだろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
(あー、お楽しみ中悪いんだけどさー聞こえる?)
「バエル!?」
突然バエルの声が聞こえて驚き、周囲を見るが姿が見当たらない。
(今はマスターに憑依して体内にいるよ。これは心の声、テレパシーっていう方が分かりやすいかな? マスターもやってみて)
え? そんな、ジャンプしてみてよみたいなノリで言われても……テレパシーなんてした事ないんですけど。
バエルのテレパシーに戸惑いながらも一応やってはみる。
(えっと?こんな感じかな?)
(そうそう、いいね。才能あるんじゃない?)
(え? そうかな? へへ……)
(ごめん、今の適当に言っただけ、契約した人間なら誰でもできる)
(なんだぁ? テメェ)
(この近くに街があるっぽいよ。その子に案内して貰えばいいじゃん。ついでにこの世界のことも聞いてみたら?)
(なるほど、確かに今は少しでもこの世界の情報が欲しい、流石バエル! 頼りになる! )
(どやぁ)
バエルが自信満々でドヤ顔をしているのが目に浮かぶ。
そうとなったら早速聞いてみるか、この子なら色々話してくれそうだ。
「あ、あの大丈夫ですか?」
突然黙ってしまったからか、少女は心配そうに話しかけてきた。
いかん、出会って早々変人だと思われてしまうところだ。こんな可愛くて優しい子に邪険に扱われてしまう日には俺の心が壊れてしまう。
「あ、ごめんごめん大丈夫、えっと、この近くにある街に用があるんだけどさ、良かったら案内してくれないか?」
「ああ、他所から来た人だったんですね。私でよければご案内させていただきます!」
少女は俺のお願いを嫌な顔一つ見せず、むしろ笑顔で快諾してくれた。
はぁ、この素直さと優しさをどこぞのロリ悪魔にも分けてやってくれぇ。
(ねぇ、今失礼なこと考えてない?)
(えっ? そ、そんなことないよぉ?)
「では、行きましょうか。」
その言葉に頷き、少女の後を追いかけて行く。
先ほどまでは余裕なんてなかったから気が付かなかったが、周りには広大な草原が広がっていた。限りなく駆け抜ける風が心地良い。
少女の説明によるとこのあたりは出現する魔物も弱く、比較的安全なところらしい。
街の名前はネルト、治安も良く水道や道路といったインフラも整備されているとの事だ。
まさに俺のような駆け出し冒険者にはうってつけの街ということか。
「それにあの街にはギルドもありますよ」
「おお! ギルドが!」
ギルドという名前を聞いてまたまたテンションが高まってしまう。
これから俺はギルドに行って冒険者になり、モンスターと戦って経験値を貯めて成長して行くんだ。
そしていずれは高難易度のクエストとかにも挑戦したり、冒険の最中で可愛い女の子とのラブロマンスも……いや、なんならこの子と……くそ〜ワクワクが止まらないぜっ!
(バエル!! ギルドだって! ギルドだってよ!! ははっ。)
(うっざ!! え、何? これからこんなウザいテンションで話しかけられるの? たまったもんじゃないんですけど)
(どうしてそんなこというの?)
「あ! そういえば、まだお互いの名前知らなかったですね」
ふと気付いたようにぴたりと少女が立ち止まった。
言われてみれば確かに、俺たちまだお互いの名前を知らない……
「私、リリスっていいます!」
「おお、これはどうも私、イツキと申します」
改めて、自分の名を名乗り、頭を下げ合う。
「なんだか改めると照れちゃいますね」
リリスが照れくさそうに言った。
そんな感じ言われたらこちらも意識してしまう。
俺も照れ臭くなってしまい、照れ隠しのように顔を背けた。
そんな会話をしているとあっと言う間にネルトの城壁のそばに着いた。
「おお、これが」
落ちている時は分からなかったが、間近でみるとあまりの存在感と高さに面を食らってしまう。
「すごく高いですよね! 高さは確か……40mくらいだったかな?」
「40m!?」
目をギョッとする程驚く。
(……具体的にはどれくらいの高さなんだ?)
(ウ○トラマンくらいかな?)
(ま、まじかよ……)
城壁の周りを歩いていると大きな門が現れた。
門は開かれていていつでも街を出入り出来る様になっている。
「それじゃあ、私はここで」
私の村はあっちにあるのでと、東方面を指さした。
え? そんな、てっきりネルトの人かと思ったのに。ここでお別れなんて……いやだい! いやだい! クッソかくなる上は。
(……俺もリリスの村の住民になろうかな?)
(何言ってるんだろこの人)
まぁ、冗談は置いといて本当に名残惜しいけど、別れの時だな。
「リリス、ここまで連れて行ってくれてありがとう。」
「いえいえ、困った時はお互い様です!」
リリスは笑顔でそう言った。
本当に心からそう思っているような笑顔だった。
思わずその笑顔に再び見惚れてしまう。
「それでは、よい旅を。」
リリスに見守られながら俺はネルトの大門を潜った。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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