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第176話 喧嘩






誰もいない崩壊しかけている決戦場で、俺とユウヤは拳を握る。


互いに満身創痍、呼吸もまともにできていない。立っているのがやっとでいつ倒れてもおかしくはない。


この喧嘩には意味なんてない。

ただ、どっちが強いか証明したい。

負けたくない。

白黒はっきりつけたい。


そう、これから始めるのは個人的なただの喧嘩だ。


なぜそんなバカみたいなことをするのかって?


プライドと意地張り合って、本気の生き様を見せ合って、深い所まで繋がり合うバカ達だからだ。


ユウヤもわかってる。


今からするのは子供みたいな馬鹿げたこと。


だけど


俺たちはそんな馬鹿げたことを全力で楽しみたいんだ。


そうだろ?



「ユウヤぁぁぁぁ!!」


「イツキぃぃぃぃ!!」



自身を振るい立たせるために雄叫びを上げながら拳を握った。


互いの拳が互いの顔面目掛けて放たれ、その顔は苦痛に歪められていた。


互いの拳が互いの顔面を捉えていた。


頭に響く重たい一撃、なんとしても勝利を勝ち取るという硬い意志を互いに感じる。


互いの瞳には自分に勝つために必死に目を見開き、歯を食いしばりながら拳を振るう相手の姿が映っていた。



「うぉぉぉぉ!!」


「あああああ!!」



殴って、殴られて、蹴って蹴られて、もう相手の攻撃を避ける気力すらなかった。


相手の攻撃を耐えて、今度はこっちが攻撃する。そんな喧嘩だった。


魔法も、激しい剣戟もそこには一切存在しない。


まるで子供のような喧嘩。互いの顔は腫れまくり、全身泥だらけ、不恰好なものだった。



「あああああ!」



ユウヤは声を枯らして叫びながら拳を振る。


普段の彼とは想像がつかない大振りで、素人でも簡単に避けられる不恰好なパンチ。


思考はユウヤの拳を回避ることで一杯になった。


しかし、俺の体は動かない。


とうの昔に限界なんて迎えているのだから。



「ぐっ!!」



鈍い音とともにユウヤの拳が顔面を捉える。


何かが軋む音がする。



「いったいんだよぉぉぉぉ!!」



俺は怒号を上げながら、ユウヤの顔面に頭突きをかます。

拳が上がらない。指先の感覚がない。多分麻痺してる。



ユウヤは顔を歪めさせながらよろめいた。


俺はそのまま勢いでユウヤに向かって飛びかかり馬乗りになって拳を握り顔面へと放とうとするが……




ユウヤは砂を掴み、俺の顔面目掛けてなげた。



「あっ!?」



土が目に入る、痛い、目が……くそ、何も見えない。目が開かない。


やっとの思いで目が開き、視界が回復した俺の前に写っていたのはこちらに向かって追撃をしようとしているユウヤの姿。



「うおおおおお!!」


「ちぃぃぃぃ!!」



今度は俺が砂をユウヤに向けてぶちかます。



「っ!?」


ユウヤがよろめいている間に体勢を整える。



「…………」


「…………」



腕が鉛のように重い。

互いにもう生きたパンチを放てる力すら残っていない。



「あああああああ!!」



ユウヤは俺の顔面目掛けて頭突きをぶちまけていた。


視界が一瞬真っ白になって怯んだ。ツーンとした痛みと鼻から何か垂れている感覚がする。


踏ん張れ! 意地を見せろ!! 死んでも倒れるな!!


歯を食いしばって踏みとどまり、俺はユウヤの顔面に向けて頭突きで返した。

ユウヤの顔面にも鼻血が出る。



「……………………」


「……………………」



無言のまま互いを見つめ合った。


声を出す力すら残ってはいない。


立っていることさえままならない。


意識が飛ばないように必死で争っている。


以前、腕は鉛のように重たいまま、指先の感覚が麻痺している。


力が入らない。


だけど俺たちは意地でも拳を握る。


無言のまま震えた拳で、最後の一撃を放つために腕を上げる。



…………なぜかは分からない。



互いの拳は互いの顔面へとは向かわず、互いの拳を突き合うように。


コツンと当たった。



「……ふ」


「……はは」



そして微笑みながら二人同時に前のめりになってぶっ倒れた。



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