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第173話 魂がそう言ってる





「……はは、予想以上に上手く進んで笑みが止まらないな」




何度、こうして地面に打ちのめしただろうか、地べたを這いつくばるイツキを見ながら霊王はぼんやりとそんなことを思う。



霊王ザラフと双葉イツキの戦いは一方的なものだった。


ザラフはユウヤの体を使い、イツキへの猛攻を仕掛けた。


それはまさに嵐のよう。絶え間なく降り出される重撃にイツキは防いでばかりで一度も反撃はしなかった。防ぎきれぬ一撃をもらい続けた結果。



双葉イツキは満身創痍のボロ雑巾状態。



「う、あ……」



口の中は血でぐちゃぐちゃで、全身は火を吹いているように熱くてたまらない。


腕が震える。地面が支えに立ち上がろうとするも力が出ない。


それでも、なんとか絞り出してやっと立ち上がる。


襲いかかる激痛。肺が痙攣し、呼吸困難に陥る。


酸素不足で意識が飛びそうだ。


しかし、その瞳は依然と炎を宿している。



「賢王を倒し、竜王を再起不能にまで追い詰め、騎士王に認められた男が……この程度だったとは……戦って少しがっかりしている自分がいる。まぁ、予想外だったのは思てたより硬いというくらいか」


「……はは」



霊王の言葉にイツキは血を吐きながら、笑う。



「……何がおかしい?」


「……何も分かってねーな。間抜け」


「……なに?」


「言っただろ。俺が待ってたのはお前じゃないし、お前の相手は俺じゃない」


「ほう、であれば。私の相手は一体誰だというのだ」


「お前の相手は……北条ユウヤだ」


「は、あははははははは!! 何をいうのかと思えば!! ただの自身の願望だったか!!」



 霊王ザラフはイツキの言葉を嘲笑う。



「くだらぬ。現実を見ようとせず、自身の都合の良い幻想へと逃げ出す。なんともまぁ、愚かなものよ」


「……いつものユウヤの力なら、俺はとっくに意識を無くしてた」


「………………」


「俺がまだ。こうして立っていられるのは、ユウヤが力を抑えてくれているからだ……俺が死なないように、乗っ取られないように抗って……戦ってるからだ」



だから、自分がここで力尽きるわけにはいかない……親友が戦っているのに勝手に諦めるわけにはいかない。


双葉イツキを突き動かしている感情はそれだけだ。



「ユウヤ!! 分かってるからな!! まだ、戦いは始まったばかりだろ!? ここだ!! 俺はここにいる!! 戻ってくるまで叫んでやる!! 道標になる!! お前言ったよな!! 俺の隣には自分が居るって!! だったらお前の居場所はそこじゃない!! 俺の隣だ!! そうだろ!? 親友!!」



「もういい、終わらせよう。その子供じみた言葉は聞き飽きた」



霊王は終わりの一撃を放とうと、イツキに近づく。


そして、大剣を大きく振りかざし、こう言った。



「最後に聞いておこう。なぜ、そこまで北条ユウヤが抗っていると吠えられる?」


「俺の魂がそう言ってる!! お前の魂もそうだろ!! 北条ユウヤ!!」



霊王ザラフの振り下ろした大剣はーーーー



イツキの顔面寸前で止まった。



「な、に?」



信じられない光景に動揺する霊王。


ありえない。体が動かない。北条ユウヤの体の制御が……できない!?


こんなことは一度もなかったことだ。霊王に乗っ取られたものは、再び目を覚ますことなく、支配され続ける。


はずなのに……



「すまない、待たせてしまったな」



双葉イツキが間違えるはずがない。その言葉は紛れもなく北条ユウヤのものだった。


「……ほんとだよ。全く」



ボロボロのイツキは力なく笑った。



北条ユウヤは小刻みに震えている自身の手のひらを見る。


霊王ザラフはいまだに自身の中にいる。直感でそう思った。


そして、今この瞬間でも乗っ取られてしまう可能性だってある。一瞬の油断が命取りだ。


だからこそ、北条ユウヤは決断した。



「イツキ……離れていてくれ。霊王とケリをつける」


「……ああ、勝ってこい」



イツキの言葉にユウヤは微笑み、大剣を地面に突き立て、神器の力を解放した。



「不知火」



ユウヤは激しく燃え盛る火柱を自分自身に解き放つ。その猛き炎は天まで届き、焦がし、雲すら焼き切るほどだ。


その圧倒的な熱量は近くにいるイツキさえも呼吸が難しくなる。空気が痛い、少し動くだけでも身体が痛む。肌を焦す熱さ。



その圧倒的熱量の中でユウヤは笑い、自身を奮い立たせるために叫んだ。



「火加減はなしだ!! 霊王!! 俺とお前どちらが先に倒れるか我慢比べと行こうか!!」



(ほ、北条ユウヤ!! 貴様ぁぁぁぁぁ!!)



うちなる霊王が叫び出す。その焦りの証拠としてユウヤの体は悲鳴をあげていた。絶え間なく襲う炎に焼かれる激痛。



しかし、それは北条ユウヤが立ち止まる理由にはならない。


北条ユウヤにとっての痛みとは心にささり、大切なものを失い苦しみ続ける事。


負ければ、命が終わってしまう。


これがどういうことか、ユウヤは痛いほど理解していた。


自分の命より大切なもの。


それは自分の大切な人たちの命。


だから、負けない。負けられない。誰にも、自分にも。



(自身を焼き尽くすなど!! 正気とは思えん!!)



「これが、今俺ができるベストの選択だ!」


(チ、チィィィィ!! 愚か者がぁぁぁ!! これ以上は付き合ってられん!!)



その瞬間、ユウヤの身体から黒い靄のようなものが解き放たれた。


それはすなわち、霊王ザラフが北条ユウヤの身体を諦め、手放したということ。



「……ユウヤ!」



不知火を解き、倒れそうになったユウヤをイツキが支えた。



「すまない、もう少し支えて貰っていいか」


「気にするな……俺はいつもお前らに支えて貰ってる」







「本当に忌々しい!! もはや貴様たちに!! 奥の手を使うことになるとはな!!」



「「!?」」



轟音と唸らせながら舞い降りてきたのは、男だった。


長い髪が特徴的で、髪の色は真っ白。なんらかの皮で作られている無骨な白いコートを身につけ長いまつ毛に病弱そうに見えるが、放たれている魔力は尋常じゃない。


そして、その瞳は青く光り、尾を引いている。



「さぁ、引き締めろ。双葉イツキ、北条ユウヤ。最終局面はここからだ」



新たな肉体を手にした霊王ザラフは不敵な笑みを浮かべながら言った。



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