第171話 待ち人
「………………」
リーシャに勝った後、俺は決勝戦の舞台である決戦場でぽつんとぼっちしていた。
だけど、先ほど海が傾くんじゃないかというくらいの地震が発生した。
そして、まるで俺を閉じ込めるかのように海流が決戦場ごと包み込んでいる。
まるで、海の台風の目の中にいるようだ。
闘技場地区は他の地区に比べて南へ離れており、ここ決戦場は闘技場地区からさらに南へ離れた普段使われない特別なところにある。その上、この海流……完全に孤立させられた。
「……わ、すごいね。これ」
おーと感心しながら周りを見渡すリーシャ。
「……リーシャさん? なんでこんなことろにいるんですか?」
「え、なんかどこに行くのか気になって……ついて来た」
「……まじかよ」
呆れていいのか、感心していいのか……
「それに、ついて来た方がいいのかなって。思ったから」
「………………そうか」
「私に出来ることある?」
「ああ、悪いけど、頼んでいいか?」
俺はリーシャに頼み事をした後、悪魔の力を使ってリーシャを決戦場の外へとテレポートさせた。
「さて、バエル・アガレス・ウェサゴ・カミジナ」
俺は原始の悪魔を召喚させる。
「この状況は多分、霊王以外が引き起こしていると思っているんだけど、みんなはどう思う?」
「マスターのおっしゃる通り、この災害を起こしたのは霊王ではないでしょう」
俺の問いに答えたのがカミジナ。
「……霊王ともう一つ。やべーやつがいやがる」
「正直、今まで戦って来た魔王幹部が可愛いくらいだねー」
ウェサゴとバエルがいうもう一つの存在。
普通に考えれば霊王と同じ八王だと考えるのが妥当だろう。しかし、この感じは……おそらく幹部である八王以上の存在である可能性が高い。
「アガレス、お前らが言ったら勝てそうか?」
「……多分、私達全員でも戦況は五分五分だと思う」
アガレスが考え込みながら言った。力を制限されているが、原始の悪魔総出で五分五。想像以上にやばいかもしれない。
「……マスタ? どうされますか」
カミジナはじっと俺を見つめ、答えを待っている。
いや、カミジナだけではない。バエルもウェサゴもアガレスも。
「全員、災害の原因の方を相手してくれ。バエル、お前の能力は俺に気にせずフルスロットルで使ってくれていい」
「わかった」
ぐしゃぐしゃ〜と乱暴にバエルの頭を撫でてやると鬱陶しそうに手をはたかれた。
「……ふ」
「……はは」
いつものようなバエルとのやりとりをして、何もわからない関係に互いに笑った。
「こほん」
わざとらしく大きなせきを込むカミジナとジトっとした目で見てくるアガレス。
「……そ、それじゃ、お前達。頼んだ」
原初の悪魔達は姿を消した。
さて、俺は俺の役割を全うしなくては……
そう思っていた瞬間、轟音が聞こえた。
「すまない、待たせた」
「……」
そこには猛々しい炎を身に纏った北条ユウヤの姿があった。その眼光は青く光っている。
「イツキ。約束の時だ」
「……俺が待ってたのお前じゃないし、お前の相手は俺じゃない」
「……クク、そう冷たくあしらうな。感動的にするために一芝居打ってやったのだ」
愉快そうに笑うのはユウヤではなく、霊王。
霊王はヒロムとカナの命を人質にして、俺から勇者パーティ、グランドマスター、第一王女エレナ・フォン・キャメロットを引き剥がした。
そして、今度はレギス・チェラムから引き剥がし、最後にバエル達を引き剥がした。
「……ここまでして俺を一人にしたいらしい」
「ああ、そうだ。双葉イツキ、お前は多くの者に囲まれすぎている。だから、少しずつ、少しずつ、剥いで言ったのだ」
「…………」
「そしてレギス・チェラム最強の戦士の体で貴様に挑み、戦闘不能にして魔王様に献上する。全ては概ね筋書き通りだ」
ユウヤの体に乗り移ったのも、俺を戦闘不能にするだけの火力が必要だった為。おそらくソウスケでも、キョウヘイでもよかったのだろう。
こいつは俺の弱いところを的確についてくる。こいつは俺が何もしないことを知っている。
「さて、イツキ。始めようか。約束の大喧嘩だ」
邪悪な笑みを浮かべながら霊王ザラフは大剣を構えた。




