第17話 戦う理由
「なるほどな。勇者でもない、勇者の従者でもない、王族でもない。ただの人間か」
黒鬼との鍔迫り合いの中、身体中に激痛が走る。俺の体はすざまじいスピードで腐蝕している。身体中が破壊させれている感覚がする。呼吸をすることさえ激痛を伴った。
しかし、それと同時に体中の熱がマグマのように湧き上がり、力がみなぎってくる。以前のラクスとの戦いの時のように自身の固有スキルである本気出すが発動しているようだ。
「どこで手に入れた? その剣は貴様が持っていいものではない」
「この剣はズングリットが持っていたものだ。それがどうかしたか?」
「なるほど……持ち去られていたか。どうりで見つからないわけだ!」
鍔迫り合いあ合いが解かれ、双方自らの刃を振り下ろした。渾身の打ち込み、弾かれる。黒鬼の斬撃を剣元で弾く。お互いの最短の間合いで剣と刀を振り続けた。
互いの刃が弾かれ、互いに数歩後退し、射程外に出る。
「これはどうだ!」
まるで俺を試すような様子で黒鬼は背中から噴射している血の翼を振り下ろしてきた。
あれは腐蝕の呪いの塊、触れば終わり
「だからどうした!!」
剣を手放し、振り下ろされた血の翼を掴んだ。
じゅううと手の腐蝕が激痛と共に加速していく。つんと鼻にくる腐臭が手から放たれた。
この結界に入った瞬間から腐り始めてるんだ!! どうってことないんだよ!!
「あああああああああああああ!!」
「何っ!?」
翼を掴み、繋がっている黒鬼の体ごと振り回し勢いをつけて上下に振り下ろし、地面に向けて叩きつけた。
「がはっ! ははっ」
受けた衝撃によって地面に亀裂が走る。
黒鬼は血の翼を解きながら楽しそうに笑った。
「腐蝕の呪いを受けながらここまで動けるとはな。翼もまさか掴んで来るとは……正直に言おう。この結界がなければ勝負の行方はわからなかった。それにくらべ」
黒鬼は後ろにいるリリスの方に視線を移し、ため息をついた。
「哀れだなリリス・アリスタ。よもやただの一般人に助けられるとは……」
黒鬼は心底呆れている様子で後ろにいるリリスに言い放った。
哀れ? どういうことだ? こいつは一体何を言ってる?
意味が分からず困惑していたら俺の感情に気づいたのか黒鬼はははっと笑い出した。
「お前、まさかこの女の正体を知らないのか? ははっそれは傑作だな。教えてやろうか? お前が守ろうとしている女の正体を」
ふと、後ろを振り返るとリリスは口を震わせ俯いていた。
そんな姿を来て改めて思った。
「興味ねぇよ。俺にとってのリリスって女の子はどこにでもいる笑顔が素敵な普通の女の子なんだ。俺はそれでいいんだよ」
それに……リリスが一体何者でも
「俺にとって大切なことはリリスの笑顔が大好きで、そんなリリスを辛そうな顔をさせているお前は叩き潰すべき敵だってことだ」
ただそれだけでいい。それが俺の揺るぎない信念であり、戦う理由なんだ。
俺は剣先を黒鬼に向け言い放った。
奴はまるで意味が分からないと言った顔でこちらを見つけている。
「笑顔? そんなもののためにお前は自身の体が腐蝕するなか、命をかけて戦ってるのか?」
「ああ、そうだよ。俺が俺である為に」
リリスの笑顔は誰であろうと奪わせねぇ。
剣を握る力を強めた。バエルにある程度呪いの進行を収めてもらってるが、限界が近い。
それに俺の固有スキルの本気出すがいつ解除されるか分からない。
ここからはもう出し惜しみはしない。ここで残っている力を最後の一滴まで絞り出す。
黒鬼の姿をじっと黙視する。
オーラを纏った刀を構え、領域を展開させ、ただ最後の時を待っているように見えた。
最後の勝負を仕掛ける為、俺は黒鬼の領域に踏み込んだ。
その刹那、再び刃が交じり合った。
剣戟の衝撃と火花が途切れなく生まれ、周囲の空間を火花と轟音で満たしていく。
本能的な連続攻撃、一合剣を交えるたびに痺れるような衝撃が手元を襲ってくる。
回数を重ねるごとに強まる衝撃、速まる斬撃、もはや息をすることすら許されないほどの激しい打ち合い。
視界が灼熱し、脳の回路が焼き切れてしまうと思うほどの集中力と速度で俺は剣を振るい続ける。
双葉イツキ!! お前の後ろには何がある!? 俺はお前が命を代えても守ると誓ったモノだろうが!!だったら手を止めるな!! 緩めるな!!
俺の斬撃は最後の加速をし、勝負を決めに行った。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
最後の加速をした互いの刃が互いの体に斬り込んだ。
瞬間、奴の背中に血の双翼と地面からムカデのような触手が生えてきた。
黒鬼は勝利を確信したような顔をした。
「双葉イツキ、お前は強かった。」
刀、双翼、触手が同時に俺の体を切り裂くために向かってくる。
「イツキさん!!」
後ろから聞こえるリリスの心配そうな声が聞こえた。
声が震えてる。多分、辛そうな顔をしてるんだろうな。
また、心が締め付けられるように痛くなった。
そうだ。体が腐り落ちても、どんなに痛くても俺は、リリスの辛そうな顔を見ている方が辛いんだよ!! 痛いんだよ!!
歯を食いしばり、剣を両手で力いっぱい握り、残り最後の一雫を振り絞り、誰よりも早く、全てを置き去りにした速さで刀を弾き、双翼も触手も切り裂いた。
「っ!? 馬鹿なっ!?」
黒鬼は信じられないものを見たように驚愕した。
「届けぇぇぇぇぇ!!」
俺の、最後の一撃を!!
裂泊する気合いとともに黒鬼の心臓目掛けて渾身の突き技を放つ。
「っ!? 舐めるなぁぁぁ!!」
蒼鬼もすぐさま刀を振り直し、右手で刀を握り、最短の距離、最速で俺の心臓目掛けて突きを放った。
互いの刃が互いの体を貫通した。
俺の剣は黒鬼の心臓を貫き、黒鬼の刃は俺の心臓からほんの少し右にそれていた。
「ば、ばかな。俺は……魔王軍幹部、鬼王になる鬼……俺は……とくべ」
そう言い残して、黒鬼は息を引き取った。
そしてそれと同時に俺の視界は暗転した。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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