第167話 キョウヘイvsソウスケ
大魔闘演舞2回戦。
神崎ソウスケと一ノ瀬キョウヘイは闘技場にて互いを見ていた。
「……なんか、派手にやったぽいね。イツキとリーシャ」
「そうみたいだね……観客の歓声と悲鳴がこちらにも聞こえていたよ」
若干、顔を青くさせながら答えるキョウヘイにソウスケはヘラヘラ笑った。
「全く、笑い事ではないんだけどな」
「ああ、悪い。なんか昔を思い出したんだよ。僕とイツキがなんかやらかす度にキョウヘイが同じような表情で僕たちを止めていなかった」
「……そうだったね」
キョウヘイは昔を思い出すかのように笑う。それはまるで大切な思い出だと言わんばかりの優しい笑みだった。
「……………………」
「……何だよ?」
じっとこちらを見つめるキョウヘイに問いかけるソウスケ。
「……俺の相手が君だと知った時、珍しく感情が昂ったんだ。初めて君と本気でぶつかり合えるって」
この二人がこうして戦うのは初めての事だった。
「……それはこっちも同じだよ」
双葉イツキが何かを隠している。
しかし、二人は分かっていた。
イツキは自分たちがいることを理解している。だから、助けを求めてこないと言うことは隠しごとがバレたら自分だけではなく、他の誰かにも被害が及ぶ可能性があるのだと。
本当に危ない時は必ず助けを求めてくるはずだ。もし、また一人で抱え込むようなことがあれば、自分たちが居ると駆けつければいい。支えればいい。
そのために、自分たちはこの世界に来た。
だったら、今は双葉イツキが言っていた『全力で楽しんでほしい』という言葉を実行するだけだ。
「……僕さ、キョウヘイにだけは負けたくないんだよね」
ソウスケは思っていた。
キョウヘイは自分にないものを持っている。
状況を整理して、可能か不可能かの分析をする。その言葉に忖度などありはしないし、常に冷静を保ちながら自分たちをも守っている。
そんなキョウヘイだからこそ、双葉イツキは頼っているし、「こいつがいれば大丈夫」だと全幅の信頼を寄せている。
そしてそれはソウスケ自身もだった。
「奇遇だね……俺もソウスケにだけは負けたくないって思ってた」
キョウヘイは思っていた。
ソウスケは自分にはないものを持っている。
彼はイツキと同じ側の人間で、自分が作った線を、限界を、限界をいつだって超えていく。
天使の戦いの時に、イツキが生命力を使おうとしたのを止めたのはソウスケの熱の籠った言葉。
だからこそ、一ノ瀬キョウヘイは神崎ソウスケに憧れを持っている。
「…………」
「…………」
巡り巡ってきたこの戦い、二人の感情は昂っていた。
二人は抑えない、己の中に渦巻いている感情を……全てはこれから放つ魔法・技に込めるために。
「悪いけど、勝たせてもらうよ。ソウスケ」
「やれるもんならやってみろよキョウヘイ」
互いの瞳に互いの姿を映し、開始の合図が鳴り響いた。
魔導書と杖を構えたソウスケの瞳に映ったのは構えたまま動かないキョウヘイの姿。
おかしいとソウスケは思った。
本来であれば、魔法使いは魔法を使う前に潰すのが上策。誰でもわかることだ。
しかし、キョウヘイはそれをしない。
キョウヘイは時を待つ。
ソウスケが最初の魔法を放つ時を、じっと待つ。
これは戦いではなく、互いの全力をぶつける大喧嘩。最善の手ではなく、正面から、正々堂々と目の前の相手を倒す。いや倒したい。
そこには理屈はなく、合理性もかけらもない。
あの、一ノ瀬キョウヘイが感情のままに戦っている。
その事実にたまらなく嬉しくなったソウスケは思わず、ニヤリと笑った。
「……待たせたな。キョウヘイ。この魔法が僕たちの喧嘩の狼煙の合図だ!!」
無数の岩砲弾を宙に浮かせながら、キョウヘイに向かってぶちかました。
襲いかかる岩砲弾に向かって不敵な笑みを浮かべながらキョウヘイは力を足の爪先に集中さて、一気に爆発させ、大地を蹴り上がる。
まるで雷鳴がなったかのような音が決戦場に響き渡った。
無数の岩砲弾をかわしながら一瞬で距離を詰めるキョウヘイ。彼の硬く握られた拳がソウスケを捉えた。
瞬間、パン!! と避けたはずの岩砲弾が破裂した。
(魔法の掌握か!)
炸裂した岩をキョウヘイが防御し、ほんの一瞬の時間を稼いだ。
「グレイブ」
その一瞬でソウスケは次の土魔法を唱えた。
グレイブとは敵も足元に大地を掘り起こし、槍のように突き上げる初級魔法である。
しかしソウスケの放つグレイブは大地を震わせ、地割れを起こしそこから躍動するかのように巨岩を噴き上がった。
まるで大地の怒りのように無数の噴き上がった岩塊にキョウヘイは身を固めるがあまりの威力にはるか上空へと吹き飛ばされてしまう。
この程度でキョウヘイがダメージを負うはずがないことは理解していた。
だから、次の一手のために杖に魔力を込める。
しかし、ソウスケは見てしまった。
見上げた空に輝く、白光が。
その光は、一ノ瀬キョウヘイが神器・神の心臓を使用した証だった。
「いきなりフルスロットルかよ!」
思わず、結界を展開したソウスケ。
その顔は汗が流れていた。
その汗は緊張による汗だった。
「いくよ。ソウスケ」
舞い降りてくる剣のように光の奔流となったキョウヘイがソウスケを襲った。
「っ!!」
轟音と共に闘技場の地面に亀裂が入り、地盤が崩壊し始める。
キョウヘイの蹴りはまさに大地を断つほどの威力を誇っていた。
砂煙が晴れた先には
「はぁ、はぁ」
血を流しながら杖を使ってなんとか立ち上がる満身創痍のソウスケが。
「はーっ!! ぐっ!」
そしてキョウヘイも神器を使った代償として苦痛で顔を歪ませるキョウヘイ。
しかし、だからと言って動かないキョウヘイではない。
追撃を……いや、トドメの一撃を刺すためにキョウヘイはソウスケに近づこうと一歩前に進んだ瞬間、ソウスケは再び結界を張った。
次の瞬間空が光った。
「……ライト……ニング」
天から闘技場を覆うほどの雷柱が神の裁きのように降り落ちてきた。
観客全員雷光に目を瞑り、一瞬何が起こったのか理解できなかった。
雷光が消え、再び闘技場を見ると、結界を解いたソウスケと。
ソウスケの全力のライトニングを喰らったボロボロのキョウヘイが気を失いかけながら立っていた。
喰らったのはたった一発、しかし、互いに満身創痍だった。
神器で受けた深刻なダメージを全力で放った魔法で返す。
これが、この世界の最高戦力同士の戦い。
互いに見つめるその瞳は燃えていた。