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第166話 イツキvsリーシャ



大魔闘演舞・本戦日当日。


1回戦が始まろうとしていた。


俺は今、闘技場にへ続く大門の前にいる。


この先は戦場。


今まで、色々な戦いを繰り広げてきた。だけどそれはあくまで敵との戦い。


今からやるのは認め合っている仲間たちとのぶつかり合い。


その純度は極めて高い。


さぁ、行こうか。おそらく対戦相手も間違いなく俺のことを待ち侘びている。


……なんせ、寝坊しちゃったからな!!


約30分オーバーの遅刻。完全にやからしたが、大丈夫。30分なんて誤差だろ。うん。それにきっと俺の対戦相手も遅刻してるだろう。


あいつも遅刻魔だからな。


そう神様にお願いしつつ俺は前に進んだ。


沸き上がる歓声に空気が、体が、震える。そしてこの上なく、体が熱い。


人の歓声というのはこれほどまでに力があるのか。


声の半分くらいが遅刻したことへの罵倒だが、気にしないことにする。


そして、俺を待っていた対戦相手……リーシャ・ミカエルが少し不服そうな顔をしながらこちらを手招きしていた。


何でこんな時に限ってちゃんと時間守ってるんだよぉ。



「……おーい。遅刻ー」



リーシャは珍しく、驚いたように大きく目を見張って俺を見つめ、心底嬉しそうに微笑んだ。



「大遅刻だよ。マスター」


「いや、悪い悪い」


「ほんと、待ったよ……めっちゃ」


「……? そんなに待たせた覚えはないんだけどな」


「ううん。ずっと、ずっと待ってたよ。1万年くらいは待った」


「いや、大袈裟だろ」


「えー……」


「……なんか良いことでもあった? テンション高いな?」


「……あー確かに、今めっちゃテンション上がってるかも。わかるんだ」


「なんとなく」


「へー……あのさ、我慢できないかもしれないから……ちゃんと受け止めてね」



今まで見たことないような笑みを浮かべながら、リーシャはそういった。


そしてその瞬間、試合開始の銅鑼が鳴り響く。


互いの初撃は無数の火花を生んだ。


リーシャがしかけて、俺が弾く。鋭い切先から白い閃光がほとばしる。



「……!」


「……っ!」



そこから始まる剣戟は俺たちの戦いが始まる狼煙だった。剣戟による火花は途切れることなく生まれ、強烈な金属音が闘技場に鳴り響く。


俺たちの打ち合いを見て観客が沸き始める。



「ほんとはさ! マスターとちょっと遊んで降参しようと思ってた!」


「そうか、だったら今すぐ降参してくれないか?」


「あーごめん。それは無理。だってさ……」



リーシャは一瞬で俺から距離を取り、微笑んだ。



「もったいないもん」



剣を納めて、両手の甲の俺に向けて組み合わせ、三角形を作る独特な構えを見せる。


リーシャが今から何をするのかなんて分からない。しかし、俺の中の何かが危険だと訴えている。



「神域・展開」



穏やかな波のような声でそう言った。


この決戦場はリーシャの領域と化し、彼女の瞳は黄金色に変わっている。



「……何だよその力。名前からしてヤバそうじゃん」


「簡単にいうと、この世界、私の支配下になったから。全部」



リーシャはそう言いながら空へと浮遊し、右手を掲げる。


それを合図に海水を巨壁の如く聳え立たせ、巨大な津波を生み出した。


……おそらく、リーシャ・ミカエルは海を支配し大災害を引き起こそうとしている。


観客の歓声は悲鳴へと変わる。逃げ出そうとしている人々、もみくちゃにされてる人々、諦めて動かない人々。



「ねぇ、見せてよ。かっこいいところ」



リーシャが生み出した巨大な津波が闘技場……いや、水の都オルティシアを飲み込もうとしていた。



襲いかかる大災害。


生み出した本人は俺に向かってこんなの余裕でしょと1ミリの疑いのない表情で見てる。



「随分と重たくてバカデカい期待だな、リーシャ」



(その期待に応えなくちゃな……じゃないと大惨事だ)



「……アガレス」



俺は原始の悪魔の名前を呼んだ。


原始の悪魔であるアガレスの力は支配。森羅万象を支配する力。なんの偶然かそれはリーシャと同じ力だった。


災害には同じ災害をぶつける。


風を、気流を、両手に集中されて力を圧縮させる。心臓の鼓動に合わせるように風を渦巻かせる。


風は力を溜めるように渦を巻く。



目の前には押し寄せる大津波。



それを引き裂き、無に帰すほどのエレルギー



「これでいいか!? リーシャ!!」




研ぎ澄ませ、溜め込んだ力を暴風にして津波へとぶつけた。


二人が引き起こした災害同士は互いの存在を消し去るためにぶつかり合う。


激しい衝突の末に海と風は消散し、青空から振る雨のように闘技場へと降り注ぐ。


すると虹の背景にリーシャは無邪気な笑顔で笑う。



「楽しいね。いっくん」


「それ、二人きりの呼び方じゃなかったのか? ミカ」


「んーどうでもいいよ。今は」



リーシャは右手を銃の方にして、俺に向かって指さした。



「出し切ろうか、お互い」



リーシャの魔力が白い光の球体となって、指先に収束していく。


眩い純白の光を放つリーシャの力。


その光にあれだけ騒いでいた観客は黙った。


みんなリーシャの生み出す光に見惚れているからだ。


あまりにも神々しく、美しい光。しかし、その光は問答無用で全部消し去る力。



「私の思い、受け止めろー」



リーシャの思いが俺に向かって放たれようとしていた。



「なら、お返しに俺の思いをぶつけてやるよ!!」



対抗するために俺はバエルの力を使って、三叉槍を生み出す。


トリシューラ。


バエルの力の一つ破壊。その力のシンボル。


この槍はバエルの力を極限にまで込められたもの。いわば、最強の技。



「行くぞ」


「いくよ」


互いに、相手に向けて自身の思いを放つ。


ぶつかり合う、俺とリーシャ思い。閃光が爆発する太陽のように瞼を焼いた。

その凄まじい衝突は引き荒れる烈風を生み出し、空気と海と大地が悲鳴をあげ、大振動を生み出した。


力と力の奔流の終わりは眩い光で捉えられず、自身が放った力の感覚で感じ取った。



「あちゃー……私の負けか」



終わりを告げるようにリーシャが言った。

光が鈍った目でリーシャを見ると彼女は地面に立ち、背伸びをしている。



「なんか、負けたって言ってる割に嬉しそうだな」


「え? あーまぁ……私にとってマスターの存在の大切さが再確認できたし、本当に久々にワクワクしたし……楽しかった」


「……そうか」


流石に今回みたいなものは二度とごめんだけど



「ていうか、リーシャ! 何なんだよそのデタラメな力は!」


「大丈夫、そう遠くないうちにわかるよ」


「おい、意味深なこと言いながら流そうとするんじゃない」


「ふふ……バレたか。まぁ、今回は負けを認めるから、それで許してよ。私のことは全部終わってから、話すから」


「……全部ってことは魔王軍との戦いが終わったらってことか?」


「イエス」


リーシャの表情を見る。


この表情は今までに何回か見たことがある。何を言っても言う事を聞いてくれない時の表情だ。



「……わかったよ。そんじゃ、今回は俺の勝ちってことで」


「うん。おめでと、マスター」



互いに健闘を称えるように手を握った。


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