第165話 本気の約束
「これが明日の本戦の組み合わせがこれだ」
「んー……うん。特に問題なく予選は終わったぽいな」
「まぁ、アクシデントと言ったらリーシャが開始30秒前まで姿を現さなかったことくらいだな」
「リーシャさん、相変わらずっすね」
夜も更けた頃、俺はユウヤに今日の予選の結果を聞いていた。残ったのは北条ユウヤ、神崎ソウスケ、一ノ瀬キョウヘイ、ヒロム、リーシャの5人。
そしてシード枠である俺を含めると合計6人だ。
……国の一大祭りであるはずが、だたの身内の闘技大会になっちゃった。
バルコニーで夜風を感じながら組み合わせ表を見る。
大魔闘演舞の本戦は1日で行われる。1回戦から3回戦の勝者が決勝に上がり、最終戦は三つ巴状態になる。とのことだ。
ただし、それは通常通りに行ったら……だが。
ルールは場外になるか、相手が気を失うか、相手が負けを認めたら決する。
まぁ、スタンダードなルールだな。
「キョウヘイも言っていたと思うが……俺たちはなにもしなくていいのか?」
ユウヤも今の状況に疑問を抱いている。しかし、正しく状況を理解していない。それは当然のことで、正しい情報を持っているのは俺だけだからだ。
今、どうゆう状況なのか、正確に把握できているのは俺だけ。呪いのせいで他言することは許されない。
霊王の狙いは……おそらく俺。だろう。
以前リリスが言っていたように、魔王軍のターゲットが勇者ではなく、俺に切り替わった。
正直、この大魔闘演舞に出させた意図も……俺と勇者パーティやグランドマスターたちを引き剥がす為くらいしか分からない。
ヒロムを人質に取られている以上は俺は霊王に従わざるおえない。
霊王は俺の弱いところを的確に突いてきてる。
「……まぁ、オルティシアに来る前にも言ったけどお前達にはこの状況を楽しんでほしい……かな。せっかくの旅行なんだし」
「……わかった。お前がそういうのなら、従おう。俺たちが無理に動いて状況を悪化させるのだけは避けたいからな」
なにも把握していない状態で無理に動けばかえって邪魔になってしまうと考えたのだろう。ユウヤはこれ以上の言及を避けた。
「大丈夫だ。ちゃんと覚えてる。俺の隣にはお前が……お前達がいる。どんな時でも」
「……そうか」
「ま、とりあえず明日は純粋に楽しもうぜ」
そう言いながらユウヤと二人で夜の空を見上げる。
そういえば、そうして二人でゆっくりとするのは随分と久しぶりな気がした。
……そう、随分と。
「正直にいえば、少し楽しみにしている自分がいる」
ユウヤの言葉に俺は目を丸くした。
「……ユウヤがそんなこと言うなんて珍しいな」
「ふ、そうかもな……」
そう言って、普段のユウヤには想像がつかないほど、無邪気で子供のような笑みを浮かべる。
ユウヤの妹……花蓮ちゃんが言ってたっけ、たまにだけど……心の底からワクワクしていたら、子供みたいに笑うって。
「……………」
「……ん? どうした?」
「いや……まぁ、俺たちがこうしてぶつかり合うのも珍しいことだからな」
「ああ、だからこそ……高揚している自分がいる。本気でお前達とぶつかりあえる。それが楽しみでたまらない……それにリベンジもできるからな」
「リベンジ? ……もしかして俺に?」
「もちろんだ」
俺とユウヤは前世に一度だけ、本気で喧嘩したことがある。
男と男の本音と本気のぶつかり合い。
俺はあの時の喧嘩は決して勝ったとは思っていないけれど、ユウヤにとっては違うらしい。
「……まぁ、勝ち上がれば、の話だがな」
ユウヤの顔が少し険しくなる。
それはユウヤが対戦相手のことを心から強敵だと認めている証拠だ。
俺も、あいつのことは強いヤツだと認めているし、ユウヤの戦いは決して楽にはならないだろう。
互いにプライドと、想いのぶつかり合い。激戦になることは間違いない。
だけれども、同時に楽しみな思いもある。
「……そろそろ戻る。明日は決勝で会おう」
ユウヤが俺の胸にコツンと拳を置いた。
「ああ、決勝で……決戦場で待ってる。俺とお前で喧嘩しよう。本気のぶつかり合いだ」
俺はお返しとばかりにユウヤの胸に自分の拳を置いた。
こいつは……北条ユウヤは俺みたいなやつのことを本気で大切にしてくれている。
だからこそ、俺もこいつを本気で大切にしたいと思ってる。
これはガキみたいで、くさいかもしれないけど、本気だと認め合う。男と男の約束。
俺たちの熱は確かにここにあった。