第163話 ツバサ旅団
水の都オルティシア。
キャメロット王国・ボードウィン王国と並ぶ大都市。
まるでイタリアの都市ヴェネツィアを彷彿とさせる美しさでこの世界でも屈指の観光都市で有名らしい。
複数のカフェや船上市場、公園、闘技場。一説に寄ればこの都市は一度もモンスターの被害を受けたことがなく、神様に加護されている神都とも言われているそうだ。
資源などが豊富なため、現在はボードウィンに次ぐ、貢献度や支援を受けているとエレナが言っていた。
そんなオルティシアに着いた俺はもちろん。
「んあ〜んあ〜」
ベッドでぐーたら過ごしていた。
「マスターマスター皆んなが汗水垂らして頑張ってる中一人だけふかふかのベッドでぐーたらしてる穀潰しのマスター」
「おっと、勘違いしないでいただきたいが。こちらは好きでぐーたらしているわけではないぞ」
共にぐーたらしていたバエルの唇に人差し指を刺す。
そう、今まさに水都オルティシアの大闘技場で大魔闘演舞の予選が繰り広げられている。
1000人にも及ぶバトロアをして、本戦へと進む強者を選ぶ。らしい。
本来であれば俺も参加しなければならないのだが、免除された。
「今回の大魔闘演舞の大目玉は長年謎に包まれていた5大ギルドのグランドマスターの戦い……だっけ? マスター肩書きだけは立派だもんね」
「黙れ!」
ご主人である俺を小馬鹿にしてくる悪魔の頭をぐしぐししながらベッドから立ち上がる。
「あ、そろそろだっけ。マスター人生で最後のデート」
「最後いうなし。それにデート……なのかな? これ。まぁいいか……行くぞバエル」
「ういーそれじゃ、タイミングが来たらまた呼び出してね」
ボサボサ髪のバエルはあくびをしながら俺の中に入っていく。
……さて、行きますか。
気合いを入れ、部屋を開けてホテルのエントランスに向かう。デート相手と合流するために。
デート相手は超高級ホテルのエントランスに着くとすぐ見つかった。
鏡を見ながら髪を整えているレイアの姿。白のワンピースを着込んで、かなりお洒落に気合いが入っている。
「うーん……」
こちらには気がついてないようだ。
「悪い。待たせたか」
「うわ!? い、イツキさん!? び、びっくりしたー……も、もしかして見てた?」
前髪を念入りに整えていたところを見られて恥ずかしいのか、レイアは目を逸らしながら頬を赤くする。
「大丈夫、今日のレイアは可愛いから。その服、似合ってる」
「っ!? あ、ありがと……い、イツキさん。なんか今日……というか最近なんか大人びたというか……変わったよね?」
「ふ、男っちゅうもんわよぉ……色々な経験を積んで、成長していくんすわ」
「あ、やっぱりいつものイツキさんだ」
なんでや……
ひとまず、ホテルを出てゴンドラを使って移動する。
ここオルティシアの主な移動初段は小舟だ。
オルティシアには港地区・闘技場地区・街場地区・観光地区など。いくつかの地区に分かれている。
環状線のように周回しているゴンドラに乗って各地区に移動する。逆にゴンドラを使わないといけないところもあるそうだ。
移り変わる景色を見ているレイアを眺める。その表情は見えない。
俺は、海風を感じらながら自身の気持ちを確認する。
覚悟は決めた。後は進むだけだ。
俺とレイアはオルティシアの観光地を巡った。その最中に雑貨屋や紅茶専門店などレイアが興味ありそうな店に寄ったり、まるでデートみたいな時間を過ごした。
「あ、イツキさん。今日水上レストランの予約してくれてなんだっけ」
「ああ、と言っても時間はまだあるから……ちょっと寄っていきたいところがあるんだけどいいか?」
「うん! もちろん!」
レイアの許可をいただき、向かったのは中央にある大広場。
確か……ここだったはず。
「あっ……!!」
見覚えがある巨大宿泊馬車を見つける。
そしてその近くには小さな劇場とその中で何かを準備している大きな体のダンディなおっさんの姿が。
間違いない。あのあったけぇ背中は!
「だんちょー!!」
「ん? おお! お前は! イツキ! 久し振りだな! シュンから話は聞いていたが、見にきてくれたのか?」
「はい!」
「はは! ありがとな! これはいつも以上に気合いを入れないと! おーいみんな!」
団長が声をかけると次々とツバサ旅団のみんなが姿を表す。
「あー! イツキくん! 元気してた!?」
「マリー副団長、お久しぶりです。元気モリモリですよー」
元気ハツラツの副団長のマリーさん。
相変わらず、可愛いし、おっぱいがでかい。
「おーイツキっちーおひさー」
「ユッキーおひさ!」
厚底メガネの黒髪少女のユッキーとハイタッチを交わす。俺の見立てによると眼鏡を外すと美少女だ。オタクプロである俺がいんだから間違いない。
三人と楽しく談笑していると不意にツンと後ろから小指で突かれた。
振り返るとぷくと頬膨らませたレイアの姿が。
「……レイアさん? なんか機嫌が悪くないですか?」
「…………別に? そんなことないもん」
オロオロする俺とそっぽを向くレイア。そんな俺たちの姿のなにが面白いのかマリー副団長とユッキーはニヤニヤ顔だ。
あ、そういえば……モナ……あのガキの姿が見えないな?
はー! この俺様が会いに来てやったのに挨拶一つ来ないとは! はー! ガツンと言ってやらなきゃいけんかー!
「んー? あぁ、モナならシュンさんと買い出しだよ〜もうすぐ帰ってくるんじゃないかな?」
厚底目がめをくいくいしながらユッキーが教えてくれる。
「へ? あ、そうなんだ……いや別に? あんなやつどうでもいいし?」
「その言ってる割には当たりをキョロキョロとしてますケド?」
「げっ……」
あーその失礼極まりない声は……
「おうおうおう久し振りだなクソガキ。お前の醜態を見にきてやったぜ?」
振り返り、荷物を持った不機嫌そうな子供に言ってやる。
茶色いポニテ、鋭い眼光。間違いない。モナだ。
「はん。お前こそ、相変わらずの間抜けズラだな」
「あ?」
「お?」
「はっは……相変わらず仲がいいねぇ」
そんな俺たちを茶化すようにモナの隣にいたシュンさんが笑う。
「仲良しちゃいます。シュンさんもあのあとは大丈夫だったか?」
「おう。胃液まで吐いてすっからかんにしたから大丈夫だ」
そうか、それはよかった。俺と同じだな。
「それはそうと……イツキ少年、隣のお嬢さんは……」
ハッと何かを察したような表情をし、諭すような表情で俺の肩をポンと叩く。
「イツキ少年……その、お金で彼女を雇うのはちょっと……」
「違う違う違う!!」
いや、彼女じゃないから違わないけど!?
「わかってる。わかってる。いや、俺も悪かったよ。ちょっとした冗談のつもりだったのに、イツキ少年を追い込んでいたんだなぁって」
「あ、あの!」
レイアが顔を真っ赤にさせながら俺の腕を取り、抱きつくように体を寄せてきた。
「つ、付き合ってます……から! ちゃんと!」
ふぁ!? 俺たち付き合ってたのか!? いつの間に!?
「……まじなやつじゃん。なんだよイツキ少年〜彼女いるんじゃんーやるね〜あんな可愛い子が彼女とか憎いね〜このこの」
「え、あ、お、おう」
全く身に覚えがないが、とりあえずレイアのナイスフォローに身を委ねるべきだ。
「ふぅんー……なるほど、ね」
意味深そうにレイアの顔をじっと見るシュンさん。
「それじゃ、イツキ少年も見にきてくれたし! 張り切っちゃおうかな」
シュンさんがニヤとキメ顔でそう言った。
なるほど、これは楽しみだな。