第161話 緊急会議
「皆さん。今日は緊急で集まって頂き、ありがとうございます」
円卓に座っている俺達に対して一礼し、エレナは座った。
今、俺たちグランドマスター全員緊急でキャメロット王国に集まり5大ギルド会議を開いている。
その理由は
「最前線に突然発生した大規模な結界のことについてですよね?」
この場全員が考えていたことをチユが言ってくれた。
「あれはおそらく、霊王の仕業だろうね〜」
無精髭を触りながらユウさんは言った。
魔王軍幹部と面識があるユウさんがいうのならほぼ間違いはないだろう。
この前、カナの体を乗っ取り、俺とヒロムに呪いをかけた魔王幹部の一人。霊王ザラフ。
今のところ、結界による被害、魔王軍の侵攻も止まっているようだ。
『貴様が私の指示に従っている限り、私は誰も傷つけないし。魔王軍の侵攻も止める』
霊王の言葉は真実だった。
「ユウさん。何か対策案はないんですか?」
「う〜ん……エレナ姫の期待に応えてあげたいんだけど……残念ながら不可能なんだよねぇ」
ユウさんはお手上げと右腕ばかりに両手をあげる。
「……あの結界は魔法じゃねぇ。呪いだろ」
両足をテーブルに乗せたままコウヤさんは言った。
「その通り〜呪いっていうのはね。発動するには条件が必要な代わりに絶対的な力があるんだよ。例えばあの結界、自分たちが俺たちに対して攻撃をしないっていう条件のもと出来ているのなら僕たちには破壊出来ない。例え、聖剣を使った「神級魔法」を使っても破壊された瞬間再生するから突破はまず不可能だ」
あ、ちなみに魔剣の力でも……とチユに念を押す。
「えっと……つまり、リンカ達は今は何も出来ないってこと?」
「そういうことになるかな〜」
会議室が沈黙に包まれる。完全にお手上げ状態だ。
しかし、俺は知っている……霊王の意図が。
それを呪いのせいで言葉にすることは出来ない。俺だけじゃなく、ヒロムの命がかかっている。
「ユウさん。霊王の目的はなんだと思う?」
ただ、霊王は話すなと言っただけで、バレるなとは言っていない。そこに打開する隙がある。
ここはみんなで考えて答えに行き着いてもらうしかない。俺にできるのはその誘導だけだ。
「う〜ん。そうだな……彼は結構裏でこそこそするタイプだしこの結界には何かしらの意図があるに違いないんだけど」
よしよし、流石ユウさん。霊王のことを理解しているようだ。
「霊王が狙ってるのは勇者パーティなんだよな?」
そこで俺がキーワードを放つ。
「で、でも今の状態じゃ霊王は何も出来ないんだよね……?」
それに呼応するようにリンカが首を傾げた。
ここで俺の視線はエレナを捉える。
すると自然に彼女と目が合った。
ほんの数秒、見つめ合う。
こいつとの仲であれば最低限、俺がして欲しいことが伝わるだろう。
「ということは……霊王の狙いはリリスさん達ではないのでしょうか? 例えば……魔王軍にとっての危険人物がリリスさん達ではなく、他の誰かになった……とか?」
エレナは俺の意図を理解し、俺が出して欲しかった次のキーワードを出した。すると全員が少し考えこみ、俺の方を見る。
「……彼という可能性は?」
俺の顔を見ながら言ったチユの言葉にユウさんは賛同する。
「……有り得るね。賢王の討伐、竜王・騎士王の撃退となると勇者と同等……いや、それ以上に警戒されていてもおかしくはない」
よし!! いい感じだ……!!
「……呪いっていうのは魔法と同じで種類が多い。当然その中には殺すための呪いもあるんじゃねーのか?」
コウヤさん……もといウェサゴの援護射撃もあり、全員が一つの可能性を考え始める。
「ある条件を満たしたら死んでしまう……そんな呪いも」
「あるだろうな」
エレナとウェサゴの言葉に空気が変わった。
「なるほど、なら下手な真似はできないってことですね」
チユはあえてユウさんの見ながら言った。
「そうだね……もし、呪いがかかっていればね」
ユウさんは自身の考えに確信を得たらしい。チラリと俺の方を見ながら言った。
ユウさんの後を追うように全員が俺を見る。
「……………」
それに対しての俺の答えは沈黙。
すると、全員が俺の身に何かが起こっていると察し始めた。
俺は勢いよく立ち上がり、ばっと手をあげる。
「はいはい! 俺!! 休みが欲しいです!!」
「……へ?」
「だって、だってさ!? 俺双王戦めちゃくちゃ頑張ったじゃん!? MVPじゃん!? 霊王が何もしてこないこの状況! ちょっとくらい休んでも良くない!? こう! バカンスとかさぁ!! 水の都とか!! うちのギルドメンバーを連れて!! ゆっくりとしたいんですけど!?」
俺の必死な叫びの前にウェサゴをのぞく全員がポカンとし、会議室が妙な沈黙が生まれる。
エレナは驚きながら俺の目をしばらく見つめると何か考え込むように一点を見つめた。
「……イツキさん。その休暇旅行の先は水の都オルテシアじゃないとダメですか?」
「だめだ。俺はオルテシアに行きたい」
「……レギス・チェラムの皆さんで?」
「ああ、ぼっちは辛いし、俺は人見知りだからレギス・チェラムのやつらじゃないと!!」
「……そんなに今、行きたいんですか? 私たちにこの状況を丸投げしてででも?」
「ああ、今! 行きたい!!」
エレナは俺の目をじっと見つめ、考え込む。そして長い沈黙を得て、こくりと頷いた。
「……なるほど、わかりました。確かに、この前の戦いでイツキさんは誰よりも頑張ってくれていましたし。この機会に羽を休ませていただきましょう。みなさん異論はないですか?」
エレナの言葉に全員が首を縦に振る。
これは、ここにいる全員がエレナ同様『双葉イツキがギルドメンバーを連れて水都オルテシアに行かなければならない事情がある』と察してくれたことを意味していた。
「……ふぅ」
緊急会議が終わり、ひとまずミッションを成功させることができた俺は達成感で椅子にもたれかかっていた。
「……ちょっと」
そんな俺に話しかけたのは俺と同じグランドマスターであり魔剣の使い手チユ・オルテシアだった。
その様子は少し挙動不審でやけに周りの目を気にしている。
「……少し、あなたに話があるんですが」