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第16話 命に代えても




覚醒した黒鬼の姿はただそこにいるだけで圧倒的な威圧感を感じる。

これは駄目だと心の警告音が鳴り響いている。


逃げなくては。殺される。目の前にあるのはまさに死、そう感じた瞬間、指先が凍ったように冷たくなった。


それでも、私は、勇者なんだ! ここで逃げてしまったら、負けてしまったらママや村のみんなや友達や私の大好きな人達の未来は終わりなんだ。


そんなこと、絶対にさせない。


守る。絶対に守ってみせる。だから恐るな!! 前を見ろ!!



「はぁぁぁ!!」


震える両手で聖剣を握りしめ、私は黒鬼に向かって駆け出した。



「ほう。死の恐怖を振り払うか。いいだろう」



黒鬼はそう言いながら背中から血を翼のように噴出させこちらに向かって放ってきた。


間合いがとんでもなく広い、あまりの動きの速さに目が追いついていない。感覚だけで避けている。


抜けろ。抜けろ。抜けろ!! 抜けた!!


血の翼の範囲攻撃を抜け、黒鬼の目の前まで来れた。


渾身の一撃を叩き込む



「!?」



聖剣を振り上げた瞬間、強烈な衝撃が走った。気がついたら、聖剣は黒鬼の刀を受け止めていた。


……全く見えなかった。受け止められたのもたまたまだ。


先程までとは比べ物にならない重さと衝撃、そして速さ。たまたま黒鬼の刀の軌跡に聖剣があった。


地面から大きなムカデのような触手が4体生えてきて襲ってきた。


まずい!! おそらくこれも黒鬼の腐蝕の力がこもったモノだ。



「ホーリーライト!!」



太陽の如き神聖なる閃光が結界の中と包んだ。



「!!」



一瞬、黒鬼と触手の動きが止まり、その隙を突き、その場で回転しながら地面に生えている翼を斬り伏せた。

再び、動き出した黒鬼の斬撃を直感で受け流す。


先ほどまでとは比べ物にならないほど激しい剣戟が幕を開けた。

もう、黒鬼の剣筋さえわからない。全て直感だけで凌いでいる。酸素が足らない、頭がくらくらして手が痺れてきた。


これだけ凌げているのは奇跡に近い。


だけれども、段々とこちらが押され始めてきている。まずい、このままでは押し切られちゃう。



「ふん」



今度は黒鬼が力を溜め、身を反らせて刀を振りかぶってきた。



「っ!?」



完全に聖剣で受けきるが、あまりの力に大きく後ろに吹き飛ばさせてしまう。



「かはっ!?」



世界樹に叩きつけられ、強烈な衝撃が全身を走った。



「…………」



黒鬼は何もせずこちらをじっと見つめている。

意図がわからないけど、助かった。

呼吸を整えて、聖剣を構え直し、再び踏み込もうとした時



「なるほどな」



と黒鬼は納得したように頷き、そして心底つまらなさそうな顔をした。



「もういい。終わらせるか」



私ではなく族長のおじいちゃんの元にムカデのような触手を4体生み出し襲わせた。



「−ッツ!!」



その時、私の頭の中には何もなくて。ただ……体が勝手に動き出していた。

距離は約30メートル。間に合うか間に合わないかギリギリの距離、剣で斬っている時間はない。抱えて避けないと!!


族長のおじいちゃんを抱えている瞬間に触手は数ミリ前に迫っていた。


どうすると考えるより先に族長のおじいちゃんを庇っていた。


触手を受けると私は腐蝕の呪いを受けてしまう。絶対にあってはならない事なのに。

それでも、目の前の人を見捨てるなんて選択肢は私の中には存在していなかった。


触手の攻撃を受けた瞬間、腐蝕の呪いが私の全身を駆け巡った。



「そうなるよな。勇者様は守るものが多いから」



おじいちゃんは無事だが、発狂してしまう激痛が襲いかかるあまりの痛さに顔が歪み、涙がでる。

体が腐っていく、頭ではもう駄目だと、あとは死に向かうだけだってそう理解していた。


だけど



「……た、た……くちゃ。立たなくっちゃいけないんだ!!」



たとえ、激痛が体を蝕んでも、私がここでここで諦めたら全部終わりなんだ!! 

だから、だから、そうだ。私は勇者だから、最後まで下は向かない。



「ふむ、目をうるわせながらも立つか。しかし無駄だ。お前、聖剣の力を完全に使いこなせていないだろう」



黒鬼の放った一言は私の心を抉った。



「……え? な、なんで?」



「本来の力が使えるのであればそもそも俺の作り出す呪いの結界などとうの昔に破壊できている。さらに決定打は距離を離しても聖剣の真骨頂である神級魔法を使ってこない。」



半端の者だな。勇者としてもと吐き捨てるように黒鬼は私に言った。


その通りだ。私は聖剣の力を完全に使いこなせていない半端者だ。

他のみんなは自分の力を使うこなせているのに私だけ、できていない。みんな前に進んで私だけがいまだに進めないでいる。


勇者なのに、私がちゃんとしなきゃいけないのに……でもだからこそ、今頑張らないといけないんだ!!

だから、立って!! 動いて!! 勇者としてここで頑張れなかったら誰も私の傍に来てくれない!! だから動け!! 立ち上がれ!!



「半端者はここで死ね」



迫ってくる触手を見つめる事しかできない無力な自分を心底嫌いになった。

思わず目を閉じる。そして世界は真っ黒になって……







「死なせねぇよ。俺が!」







……え?


声が聞こえた瞬間、触手の斬れる斬撃音がした。


目を開けて顔を上げるとそこには触手を斬り伏せ、赤い服をたなびかせながら剣を持っている双葉イツキがそこに立っていた。


「よ。大丈夫か? リリス」


「な、なんで? ここに?」


ここは腐蝕の結界の中なのに、どうしてイツキさんがここにいるの?


イツキさんをみると身体中が腐蝕し、痛々しく見るに耐えない状態になっていた。

顔を見ると右半分が腐っており、目は充血し、血が流れている。


ま、まさか……生身の状態でこの結界に入ってきたの?

そんな!? この激痛の中一人でここまで?



「イツキさん……か、体がっ」



私なんかを助ける為に。

声が震える。

私の……せいだ…私が力不足だから、守れないから……


「ご、ごめんなさ」



謝罪しようとした瞬間、イツキさんは座り込み、私の頭を優しく、まるで泣いている子どもをあやすように撫でた。



「そんな顔するな。大丈夫だ。俺が命に代えても守ってやる」



「あ……え?」



予想してなかったその言葉で、ずっと緊迫して力んでいた体が一気に解かれた。


イツキさんが立ち上がり、振り向いた瞬間、黒鬼が一気にこちらに駆け出し、刀を振るってきた。


イツキさんはそれを受け止めて鍔迫り合いになる。


響き渡る鈍い音と衝撃がお互いに一歩も譲る気はないことを物語っていた。



「その剣、お前……何者だ?」


「俺は5大ギルドレギス・チェラムのギルドマスター双葉イツキ。お前を倒す男の名だ。覚えておけ」














「面白かった!」


「少し笑ってしまった」


「続きが気になる、読みたい!」


「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」


と思ったら


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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


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