第158話 第一王女との夜
体も快調し、俺は明日このキャメロット王国を経つ。
今日は王城にいる最後の夜だ。
なんというか、久しぶりに一人な気がする。
王城に篭ってからなんだかんだみんな俺の見舞いとか来てくれてたし、一人になることはなかった。
夜もバエルと寝落ちするまで話てたりしてたし……ちなみに今はバエルも眠っている。
なんと言うか、みんなに囲まれて充実し過ぎているから……ぽっかりと穴が空いたような感覚に襲われる。
この感じ、本当に久しぶりだ。
……ああ、いやだなぁ。
こっそり城下町の酒場でも行ってみるか……
そう本気で考えていたら突然扉が開かれた。
「し、失礼します……」
少し緊張した様子のエレナが部屋に入ってきた。彼女は白いネグリジェをきて手には枕を持っている。
おいおい、その姿はなんと言うか背伸びしてないか?
「よーどした? こんな時間に? あ、まさか……また夜這いですか?」
前みたいにからかうとエレナは即座に「違います!」とムキになって否定し
「……そうです……夜這い。しにきました」
否定し……
「……え?」
真っ赤になった顔を枕で埋めながら潤んだ瞳はこちらを見ていた。
……なるほど。これは何かの罠か?
どうせ近くで『ドッキリ大成功』と書かれた看板を持ったソウスケが近くにいるんだろう。
ここで、童貞の様にきょどってしまうと
『イツキさんその反応童貞っぽくって気持ち悪いですよ?w』
とか言われてバカにされるに違いない。
それだけは絶対にあってはならない……!!
「……まぁ、入れよ」
そういうとエレナはこくりを頷き、ベッドに乗り出し俺の横で寝転んだ。
「………………」
「………………」
なんだ、この沈黙は?
え? 何? この子何しにきたの? なんでチラチラと俺の顔を見るの?
もしかして期待してるのか? 手を出されるのを待ってるのか?
「……それにしても急だな? 何かあったのか?」
とりあえず探りを入れることにした。
「イツキさん。寂しがってるだろうなと思って。来ました」
さ、寂しがってるから夜這い!? ど、どういうことだ!? 寂しさを埋めるためにその……肌と肌を密着させるということなのだろうか?
ま、まぁ、ドラマやアニメとかでよく寂しいからヤッたみたいな話とかも見たことがあるけど
でもこれは現実なわけで……
「それに……約束したので」
「や、約束?」
「……こっちの話です」
約束って何? 俺エレナと何か約束したっけ?
身に覚えがないんだけど?
「……さ、明日も早いですし、寝ましょう? 抱き枕くらいにはなってあげますから」
…………ん? 抱き枕?
「……エレナさん。夜這いの意味わかってます?」
「む、バカにしないでください。夜、同じベッドで寝るために部屋に押しかけることですよね? わかってますよ。これくらい」
「……寝るって。睡眠ってこと?」
「それ以外に何かあるんですか?」
「いや……エレナちゃんはそのままでいておくれ」
「え? 急になんですか? ちょっと、なんで頭を撫でるんですか? 子供扱いされている気がするのですが!?」
「あはは」
「絶対ばかにしてますよね!? 子供扱いしないで下さい!!」
プンスコ怒っているエレナを見ているとたちまちその表情が真剣になってきた。
「……この前、リリスさんと2人で抜け出して何をしていたんですか?」
「なんだ見てたのか」
「別に……また一人でどこか行こうとしているなって目についただけです」
「………………ただの世間話だよ」
「その間なんですか? 絶対世間話じゃないやつですよね?」
なんだ? エレナのやつ。やけに突っかかるな。そんなに気になるのだろうか?
今までなら『そうですか……』と興味なさげに済ますのに。
でも、流石にこの間のことを話すのはちょっとな……俺だけじゃなく、リリスも関係してくる話だし。
本人の了承なしに告白されちゃったー!! なんて言えるはずない。
「イツキさんはリリスさんのことが好きなんですか?」
「……エ」
ちょっと、いきなり火の玉ストレートが来てびっくりするんですけど……
「あ、いや……まぁ……その……はい……」
なんだこれ、顔が熱いっ……!! 公開処刑かなにかなのかっ!?
「…………私とリリスさん。どっちが好きですか?」
「……は?」
思わずエレナを見ると、すごく真剣な眼差しで俺を見つめていた。
その目は冗談では済まされない、茶化しなんていらないと俺に伝えている。
無言の圧力。
ただ、答えをせかしているわけではなく、俺の言葉を待っている。
ならば、こちらも真剣に答えないとおけない。
まずは自分の気持ちと向き合う。
実際、俺は……エレナのことをどう思っているのだろうか?
大切に思っていることは間違いない。
俺は彼女が『死ぬ未来』が死ぬほど嫌で戦った。片腕を失って、心臓も体も無理矢理動かしてまで天使と戦った。
俺だって、誰でも彼でもここまでして人を助けるわけじゃない。
あれ? そう思ったら、俺エレナのこと大好きすぎじゃない?
リリスのことは確かに好きだ。あの天使のような笑顔が大好きで……あの子のおかげで少し変われた。
だけど、俺の中でリリスだけが特別な存在というわけではない。
俺の好きと大切には1番も2番もない。
「あ、もう良いです」
「へ?」
「正直、リリスさんだと即答されると思っていたので。頭を抱えるほどに悩むということは結構良い勝負してるんでしょうし。私はそれが知れただけで満足です」
「…………お、俺の考えが完全に読まれている」
「ちょっと意地悪なこと言いました。あなたはきっと好きに1番も2番もそういう順位付けとかしない人だろうから」
「………………ちょっと俺のこと理解しすぎてて怖くなって来たんだけど。なんでそんなに俺のことわかってるの?」
「……好き。なんだからじゃないんですか?」
「へ? あ、は?」
こいつ今なんて言った?
「え、エレナさん? それは、その親愛的な好きということでしょうか? それとも」
「……どっちだと思います?」
そ、その返しはずりぃよ!!
「……わかってます」
「……え?」
「あなたは自分の気持ちは伝えてくれても、きっとリリスさんや私の想いには応えることはないって」
「………………」
「イツキさん自身に私たちの知らない何かがあるのか、それとも私たちのために自分を犠牲にして何かを為そうとしているのか……その両方か」
「……まいったな。本当に……エレナは」
俺のことを理解している……悲しいほどに。
「私は……イツキさんの一番の理解者になりたい。そう思っています」
その優しい笑みが、俺の心を溶かしたのか、
リリスにも言えなかった。彼女に対してのこの先、俺がいない世界で幸せになって欲しいと言う願いにも似た想い。
気がついたら俺はエレナに話していた。
それに対してエレナはただ頷いてくれた。
そして最後に
「俺さ……」
エレナに対する想いを伝えることにした。
辿々しい言葉でなんとか彼女への想いを伝える。
そして、この先、俺が歩もうとしている未来。
おそらく、俺が思っていること。みんなには隠していること。全部伝えた。
「……だからさ、見守っててくれると助かるよ」
その上でとても身勝手なことをエレナに言った。
そうするとエレナは一瞬目を大きく見張り、ため息をつきながら困ったような顔を見せて
「どうせ、私達が何を言ってもあなたはその未来へと突き進むんでしょう? 私たちを守るために」
やっぱり、エレナには頭が上がらないな……
「……おうとも」
「ほんと、しょうがない人ですね……」
そう言いながらエレナは俺の手を握り、俺もそれに応え、俺とエレナは共に一夜を過ごした。




