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第157話 勇者




あのパーティーから3日が経った。

リリス達勇者パーティは明日キャメロット王国を経つらしい。

リンカ達グランドマスターも昨日自分のギルドへと帰って行きそしてユウヤ達も今はレギス・チェラムに戻っていた。


俺は……あまりにも体がボロボロすぎて城で安静している。


今日もベッドで寝て、ご飯を食べて、寝てを繰り返し、また眠るために瞳を閉じる。これを繰り返して体を少しずつ癒していく。


だんだんと意識が遠のきそうになった瞬間、ギシッと誰かがベッドに乗ってきた感覚がした。


「……ん?」


誰かにまだがれたような、重みを感じる。不思議に思い、ふと目を開けると



「あ、起こしてしまいましたか?」



リリスが俺の体の上にまたがっていた。


……え。



「おはようございます。イツキさん」



そう、耳元でボソっと呟くリリス。

思わず、体が跳ね上がる。


リリスはそんな俺の様子をくすくすと笑いながら見ていた。


なんか、今日のリリスはこう……いつもと違って小悪魔みたいな……そんな感じがする。



「ああ、えっと……どうかしたか?」



あまりの衝撃展開にこんなことしか言えない。



「イツキさんの姿を見ておきたくって……でも、ダメですね。こうして目の前にいると」


リリスは俺の頬を両手で触れ口を開いた。



「テレポート」



その瞬間、視界が一変した。どうやら、リリスの魔法で城下町まで転移したようだ。



「イツキさん。今から私と……デートしませんか?」



彼女は月明かりに照らされながらそんなことを言い出した。


いきなりデート?

なんでテレポートなんか使ったんだ?

今日のリリスは少し様子が変だ。


さまざまな疑問、困惑した思い、たくさん溢れる。


でもまぁ……



「うん!! する!!」



細けぇことはどうでもいっか!!


今、重要なのはリリスとデートができるということ!

それ以外は心底どうでもいい!!



「あ!この道具屋さんっていつも割引きしてくれておまけだよって回復薬とか新商品とか色々とくれるんです。」


「そうか」



小道具屋をみたり、ふらふらと気の向くまま夜の城下町を歩く。


今はここは同い年の女の子が店番していて仲が良いとか、いつもご飯の食材はここで買っているとか既に閉まっているお店の情報を色々楽しそうに、懐かしそうに話してくるのに対して相槌を打ちながら聞いていた。



「………」


「どうした?」


「もうっ! イツキさん! さっきからそうか、そうだなばっかりじゃないですか!」


「そうか?」


「そうです! ちゃんと聞いてくれてますか?」


「ああ、聞いてる聞いてる。この道具屋さんは同い年の女の子が店番して仲が良くて、ここはこのお店は割引きとかおまけしてくれるんだろ?」


「違いますけど。なんかごっちゃになってませんか?」


「「……………………………」」



リリスのジトっとした目が刺さる。



「……あ、あの雑貨屋まだやってるな。のぞいていかないか?」


「もう少しマシな話題逸らしはできなかったんです?」


「………そうだな。」


「もう!それわざとやってるでしょ!!」


「そうか?」


「もー!!」



プンスコプンスコとリリスが牛の様に怒っている。でも雰囲気は悪いどころか柔なく、どこどなくリリスも楽しそうだ。


なんというか、子供っぱいというか……今まで見てこなかったリリスの意外な一面を見れている気がする。



雑貨屋にはガラスのコップやティーセットなどオシャレなデザインのものがたくさんあった。値段のわりに中々良いんじゃないのだろうか?


ふむ、何か自室用に買っておこうかな? 主に使うのはレイアになりそうだが。



「………………」



気がつくとリリスは少し離れたところにある指輪を食い入るように見つめていた。



「……この指輪がどうかしたのか?」


「うわ!?」



後ろから話しかけるとリリスは面白いくらい身体をビクっとさせた。

そ、そんなに驚かなくても……よほど集中していたのだろうか。



「この指輪……ママがはめていた結婚指輪と形が似ているなって思って……」



気のせいだろうか? リリスの表情がどこか寂しげに感じたのは……まるでもい二度と会えないような、そんな悲痛さを感じさせる。


そんなリリスに「どうしてそんな表情をするんだ」とその言葉が喉の奥につっかえてなにも言えなかった。



「勇者じゃなくて、普通の女の子だったら……」



ボソッと本当に小さい声でそう言った。



「あ、ここ二階もあるみたいですよ? ちょっと行ってみませんか?」



悲しそうな笑顔をしながら階段を上がっていく背中はとても小さく、なんだか寂しそうに見えた。



2人で雑貨屋を出たあと、公園に向かった。


なぜ公園に向かったのか? 

それは他ならぬリリスのリクエストだったから。彼女曰く、私とイツキさんといえば公園のブランコでしょ? らしい。



「………………」


「………………」



木のブランコに座りながら互いに沈黙する。

ただ、気まずさと言うものはなく、どこか安心するような空気感。


俺には『このリリス』に伝えたいことがある。でも、うまく言えない。どうすれば伝わるのだろうと考える。


だけど、うまく言葉が纏まらない。



「ずっと想ってたことがあるんだ」



それでも言葉にしなくちゃいけない時がある。



「今日のリリスはいつもとその……雰囲気とか違うというか……別人みたいだなって」


「…………」



リリスの目は俺を見る。



「でも、別人じゃないんだ。リリスはリリスなんだけど……こう……えと、多分、2人いるんだ。リリスが……なんというか、うまく言えないけど……今ここにいるリリスはもう1人のリリスで、ブランコで俺が1人で背負いこむなとか言って怒った勇者……だと思ってる」



リリスは心底驚いたように目を大きく見張る。声が出ないほどに。想定外、あまりの衝撃に身体が固まるとはこういうことなんだろう。



「……えと、私が2人? イツキさん? どうしました? 変なものでも食べちゃいました?」


「あれ!? 違った!?」


「そんなわけ、ないじゃないですか。もー」


困ったように、それでいてなぜかとても嬉しそうな笑顔でブランコから降りて、俺の正面に立つ。


う、うわあああアアアアアア!! めっちゃはずかしい!! なんかカッコつけた挙句意味不明なこと言ってしまった!!


こんなの黒歴史じゃねぇか……!!


時間を巻き戻したい!!


じゃああれか? さっきの表情は『何言ってるんだ? こいつ?』みたいなやつだったのか!?



「……そんなこと言う人はこうです!」


「むぐっ!?」


むぎゅっと顔面にリリスの柔らかい胸が包み込んだ。甘い匂いと心地よい感触。間違いないリリスに俺はリリスに抱きしめられている……!!



「………一つ我儘を言ってもいいですか?」


「我儘?」


「はい。もう……これ以上は戦わないでください。」



その言葉を聞いて、どうしてなのかを聞こうとしたがリリスは止めた。



「賢王の討伐。竜王・騎士王の撃退により、イツキさんへの警戒レベルが上がりました。貴方は魔王軍によって勇者より危険で最優先に消さなければいけない特記戦力。これからの幹部は勇者ではなく、貴方の削除に力を入れるでしょう」



吐き出すリリスの声が段々と震えていくのが伝わる。



「ネルトではなく、この王国で、いや、王城に何もせず、ずっと居てください。ここでなら勇者パーティや王族の皆さん、世界中から集まった強い人達がいるので安心して暮らす事ができます。だから!」


「それは出来ない」


「!! ど、どうしてですか!? これから常に命を狙われる危険があるんですよ!?」


「リリスにとって大切なものは何だ?」


「え……?」


「俺にとって大切なものはこれまで出会って、同じ時間を過ごしてきた仲間達なんだ。この繋がりは俺の体の一部となって、心の原動力になっている。」


「……………」


「みんなの為にと思う時、燃え上がるような力が体の奥から溢れてくる。だから、俺自身が無事であっても仲間が一人死ぬってことは俺にとっては体の一部が失うことと同じことなんだよ」



だから、たとえ、手足が動かなくなろうが、寿命がなくなろうが関係ない。



「俺は俺の守りたいものの為に戦う。もちろんリリスも含めて……」


「……そんな事言われたらもう何も言えないじゃないですか。」



諦めた様に、リリスは笑った。



「そろそろ私、帰りますね」


「あ、ちょいまち。これ、やるよ」


「これは……指輪ですか? これ、さっき私が……」



リリスに先ほど雑貨屋でこっそりで買っておいた指輪を渡す。



「……別に、リリスが勇者でも……俺にとっては君は普通の女の子だよ……だからまぁ……これくらいなら、俺がいくらでもプレゼントする」



「ありがとうございます……大切に……します」



リリスは宝物の様に指輪を握りしめ、微笑んだ。



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