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第156話 リリスの告白



パーティーはまだまだ続いてるが、俺は一足先に抜けることにした。それはリンカからもう休むよう言われたからだ。


実際、今の調子はよくないし、リンカみたいに心臓を押さえているところを他の人に見られたくないからな。


みんなで掴んだせっかく最高の未来。

心の底から楽しんでいるパーティーが台無しになる。それだけは避けなくてはならない。



「……どこ行くんですか?」



惜しむように、大広間を出ようとした俺の手をリリスが掴んだ。


なんだか今日はやけに絡まれるような気がする……リリスの方から声をかけてもらえるなんて飛び跳ねるほど嬉しいのだが、状況が状況だった。



「……ちょっと疲れたからさ、一足先に部屋に戻ろうと思って」


「あ、そうなんですね……! 私またヨームゲンの村みたいに1人でどこかに行くのかと……」



ヨームゲンの村か……懐かしいな。あの時も心臓の調子が悪くなって抜けたらリリスに見つかってしまたんだっけ。


……なんか今と流れが同じだな。



「えと、その……」



リリスは何か言いたげな表情をしている。言う勇気がないというより、迷惑をかけるかもしれないという遠慮からくる表情だった。


多分、俺が疲れて部屋に戻ると言ってしまったせいだろう。


リリスとはここしばらくゆっくりと話とかできていないし、話くらいなら大丈夫かな。


それに、俺が明日生きている保証なんてない。



「……よかったら、ちょっと話すか?」


「……!! はい!!」


リリスは満遍の笑顔でそう答えた。



「あ、ベッドにでもかけてくださいね」


「お、おう……」



王城にあるリリスの専用個室に案内され、ベッドに腰をかけた。周りを見渡すと勇者の部屋であるからか、結構豪華だ。第一王女であるエレナの部屋なみの待遇である。


灯りをつけずとも月夜の灯りだけで十分だった。リリスがエントランスの扉を開けると気持ちのよい夜風が吹いてくる。


ヨームゲンの村で2人で見た満天の星を思い出すかのような綺麗な星空を俺たちは黙って見上げていた。



「……実は私……その、蘇生魔法の影響でイツキさんの過去を覗き見たんです」


「えっ……」



俺の過去って……もしかして



(マスターの生前の記憶だよ……中学の修学旅行から引きこもりになった所まで……多分一番キツイところ)


(……まじか。絶対に見られたくなかった所じゃん)



「あーはは。これはこれは……お見苦しい所を見せてしまったー」


「見苦しくなんてないです!!」



予想外のリリスの力強い声に驚き、ついつい彼女の顔をみる。その声はまるで何かに怒っているようだったから。



「す、すいません……」



俺の様子を見て、はっと我に返ったのか少し俯く。正直、驚いた。あの温厚で優しいリリスが怒ることもあるのかと。



「いつきさんはその……この世界に来る前は辛く……いえ、辛かったですよね?」


「……まぁ、そうだな。辛かったな。1人ぼっちは寂しいし、辛いよ」



そう思うと、今はなんて幸せなんだろうと心から思う。ユウヤ達が居て、リリスも居て、みんながいる。


そしてそんな素敵な人達が俺なんかの為に心配してくれたり、信じてくれている。


だからこそ、俺は……



「私、すごく悔しかったんです……」


「え?」


「どうして? どうしてイツキさんがこんな辛い目に、苦しい目に遭わなきゃいけないの? イツキさんは何も悪いことなんかしてないのにって……そして何より、イツキさんが辛そうにしている時にそばにいなかったことに……」


「それは、あの時はリリスと出会ってすらなかったんだし、しょうがないことだろ?」



 俺がそういうとリリスは困ったように笑った。



「頭では理解しているんですけど……心が納得していないんです。だからこそ、私は……イツキさんには絶対に幸せになってほしいなって」


「……それなら安心してくれよ。俺はみんなが」


「私が、幸せにしたいんです」



……え?


リリスは俺の言葉を遮るように強く言った。その言葉には強い意志が感じ取れる。



「……リリス?」



リリスの顔が少し赤い? どこか緊張しているようだし、何かあったのだろうか? もしかして、この前の勇者だと教えてくれた時のように何かを俺に打ち明けようとしてくれている?



『好き……』



なぜかはわからないが、あの時のリリスの告白を思い出した。いや、何を都合の良いことを思い出しているんだ。バカか俺は。あれはきっと親愛の好きであって、恋愛的な好きではない。



「この前は逃げてしまってごめんなさい。イツキさん……」



リリスのあまりの真剣な表情に身体が固まる。息遣い、表情、目の瞳孔、ぎゅっと握られた手。それらは俺の鼓動を高まらせるのには十分だった。



「私は貴方が好きです」



リリスの言葉を噛み締めながら深呼吸をする。


嬉しい。めちゃくちゃ嬉しい。


でも、それ以上に……


ああ、俺の命が残りわずかでなければなぁ……と強く思ってしまう。



「………………」



リリスの顔をみると目が潤っており、頬を赤くさせ、どこか不安げな表情だ。


当然だ。告白とは自分の思いを伝えること。受け入れるか、拒絶されるか。相手しだい。怖くないはずがない。



だから、その想いにきちんと向き合わなければならない。


寿命が短いとか、そんな理由で目を背けてはいけないのだ。


だから



「……俺も、リリスのことが好きだ」



俺は自分の気持ちを伝えてくれたリリスに対して自分の気持ちを伝えた。



「!!」


リリスは俺の提案に口元を抑え、涙を流し、今まで見たことのないほど素敵な笑顔で頷いた。



(さいてーだね。マスターは)


(ああ、最低だな……俺は)



わかっている。わかっているのだ。自分が一番。

リリスが魔王を倒して自分の使命を果たした時には、自分はもうこの世界には居ないと。


きっと、リリスは俺なんかよりもずっと良い男を出会って、幸せな家庭を築くだろう。


だから、自分の気持ちを伝えることしかできない俺を許してくれ。



そう強く願った夜だった。



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