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第154話 最高の未来



双葉イツキの目が覚めて1週間が経った。


今は大広間では勇者リリスをはじめとした勇者パーティー・北条ユウヤ達レギス・チェラムの3人・グランドマスター・国王イリエ・そして第一王女エレナ達がパーティを行っている。


そう、あの夜イツキがエレナにやりたいと言っていたパーティだ。


大広間に運ばれたテーブルの上には色とりどりの料理が並んでいる。

一般的な料理もあるが中には王族料理も含まれている。

立食式の食事会で先程のメンツが顔を合わせている。


そんなちょっとした懇親会をイツキは大広間の端で1人眺めていた。

すると同じグランドマスターであるチユがイツキの元へ来る。


華やかなドレスを着込んだ彼女は見惚れてしまいそうなほど美しい。



「ん」



そんなチユは何食わぬ顔でイツキに向かって手を差し伸べる。



「……?」


え? 何? とイツキは差し出された手を凝視する。


手、顔、手、顔と交差に繰り返し見ていると



「リードするから……早く」



チユの言葉を聞いて彼女の意図を理解したイツキは照れ臭そうに笑った。



「ああ、そうだったな……」



手を取り合って2人は踊る。



「……チユさんや体の調子は大丈夫かい?」


「なんですかその言い方は……まぁ、おかげさまで。あなたの方はどうなんですか? 私は慣れていますが今もある程度の痛みを感じるはず」


「……結構きつい。けど、こうしてチユが他人とまた触れ合えるようになったんだ。後悔はしてねぇよ」


「……バカ」



滑らかなチユに比べカチコチに硬い動きをしながら踊るイツキをみんなは笑いながら見ていた。



「はぁー!!もう……疲れたー!!」



何とかチユとの踊りをやりきり、疲れた様子でイツキはテラスに出て夜風を浴びる。

エレナやリリス達は楽しそうに雑談をしているし、ユウヤたちは相変わらず女子メンバーに尻に敷かれている様子。


ユウやイリエなどの大人組はワインで乾杯してとても愉快そうだ。


みんなどんちゃん騒ぎでこのままでは本当にいつの間にか眠りについて朝大慌てしてしまいそうで。


イツキはそんな光景を見て唇を緩める。


ああ、半端なく最高の時間だ。

なんか、目の前でみんながずっと楽しそうに笑っていてそれが本当に幸せだった。


熱くなくても、かっこよくなくても、適当だったとしても双葉イツキは生きていけるだろう。

何ならきっと1人でも生きていける。

でも、そんな生き方じゃイツキの欲しいものは手に入らないのだ。


そんなものばかりが彼を取り囲んで幸せにしている。



「っ!! きた……か」



心臓が握り潰されるような痛みがイツキを襲った。

思わず、心臓を押さえる。

咳が出る。そこから血が出る。


わかっている。


双葉イツキに残された寿命じかんは残り少ない。



「…………」



痛みが引き、手すりに体を預け夜空を見上げる。

三日月に照らされた城下町見ながら浸る。


そんなイツキの背中をエレナは見つけてテラスに向かう。

王族料理を皿に乗せてテラスに出てイツキに声をかけようとする。


しかし、エレナは声をかけずただその背中を見つめていた。

彼女の頬が少しばかり赤く染まっているのは彼女自身も気づいていない。



(……ウリエルと戦った時も思ってたけど、イツキさんの背中……あんな大きかったけ?)



これまで何度も見ているはずの彼の背中、見ていてどうしてか鼓動が高まる。

少し、深呼吸をして



「ーーイツキさん、こんなところにいたんですね」


意を決し声をかける。



振り向いたイツキの顔を見てドキリと鼓動が高鳴る。

ああ、まただ。とエレナは心の中で苦笑した。


かっこよく見えるのは正装して髪を整えているからだとそう思うことした。



「……? どうした? なんか顔赤くない?」


「き、気のせいです! それよりこんなところで1人になって何してたんですか?」


「……あーあれだ。この雰囲気と自分に酔ってた。エレナこそどうした?」


「あなたが1人だったのでつい……これ私のおすすめです」


エレナはイツキに王族料理が盛り付けられた皿を差し出す。

そこには彼が見たことないような料理が並んでいた。

この食事会中イツキを見ていたが、彼はあまり料理を食べていなかった。



「ほら、あーんして?」


「お、おお……」


イツキは羞恥心のためか誰にも見られていないことを確認してからおずおずとエレナに料理を食べさせて貰う。


頬赤くしながらもぐもぐしながら食べるイツキの姿をくすくすと微笑みながらもエレナは見守る。

その姿が少し愛らしいなんて思っても絶対に言わない。



「……ごちそうさまでした。うまかった」


「そうでしょう?」



そう言いながらエレナはイツキのぴたりと隣にくっついて大広間を見つめる。

そんな彼女に距離が異様に近くないかと思いながらも何も言わない。

2人は何かを噛み締めるようにテラスからみんなの様子を見つめていた。



「あなたがいなければ、この景色を見ることができませんでした。ありがとうございます」


「……ありがとう。はこっちのセリフだよ。俺もいっぱい助けてもらったからさ」



そう言ったイツキ笑顔がエレナの碧眼に映し出させる。



「……そう思うのなら……褒めてください。よく頑張ったなって」



彼女は言っていて恥ずかしいと感じたのか顔を伏せる。

そんなエレナを見て驚きながらも言葉を紡いだ。



「あ、ああ……えっと……うん。よく頑張った。えらいぞエレナ」



そういながらエレナの頭を撫でようと手を動かすが、その手を止まる。



(あぶな、思わず撫でそうになった。どうせ髪が乱れるとか言って怒るだろうし。やめとこ)



イツキはぷんぷんと怒るエレナの姿が思い浮かべる。

それはいつも通りの光景なのだが、食事会は始まっただかりだ。それにこんな日にまで怒られたくはない。


しばらくするとちらっと何かを期待しているような目をしながらイツキを見上げる。


「……あの」


「何だよ。ちゃんと褒めただろ?」


「〜っ!! もういいです!! 右手貸してください!!」


そう言いながらヤケクソ気味にエレナはイツキの右手を掴んで自身の頭に乗せた。


「……髪が乱れるから、頭を撫でるのやめてほしいんじゃないのか?」


「……意地悪言わないでくださいよ……今日くらいは……」



「そうか……うん……それじゃあ……オラオラオラ!!」


エレナの言葉が嬉しかったのか、照れ臭かったのか、或いは両方か、イツキはいつも以上にエレナの頭をくしゃくしゃに撫でた。



「ちょっと!! だから! 何でこんなにくしゃくしゃってするんですか!? もっと丁寧に撫でてください!!」


「え……だって今日くらいはって……」


「それにしても加減ていうものがあるでしょう!? ああもう!! 髪がくしゃくしゃじゃないですか! この下手くそ!!」


「おまっ!! もっとくしゃくしゃにしてやろうか!?」



大きな声で言い争っていたが、2人ともその顔はどこか楽しそうだった。









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