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第153話 この世界の秘密



目が覚めた。

随分、長い間眠っていた気がする。


瞬間、両手を誰かに握られていることに気づいた。

右手はエレナ、左手はリリスが両手で俺の手を握っている。

まるでどこにも行かないように。



「………………」



「よぉ、寝坊助。両手に女をたぶらかしてる気分はどうだ?」



そんな俺の姿を愉快そうに黒田コウヤ……もとい原初の悪魔ウェサゴが見ていた。



「言い方!!」


「ふぎゅ!?」



……あれ?

足元になんかある?


視線を移すとリンカが俺の足を枕にしながら同じベットで寝ていた。

部屋を見渡すとリリスとエレナだけじゃない。


ユウヤ・ソウスケ・キョウヘイ。

ルイ師匠・リンちゃん・ユメちゃん勇者パーティーのみんな。

ユウさん・チユといったグランドマスターのみんな。


イリエ王までが同じ部屋で別のベットやソファーで眠っていた。


みんなが居る。

その光景に少し驚く。


「愛されてんだな。マスター」


「ああ……そうだな……そう……だな」



今、俺の周りに素敵な人達が沢山いる。それだけで本当に幸せだ。

もう、俺は一人じゃない。


そう心から思えることが嬉しい。



「……で、そんな事を言うためにここで俺を待ってたのか?」


「まさか、この前言っていた事、覚えてるか?」


「この世界の秘密……か」



俺の言葉にウェサゴはニヤと笑みを浮かべ、頷いた。

立ち上がり、テラスへ向かう。


眠っているみんなへの配慮だろうか? いや、ただ単に話を聞かれない様にする為か。

そうなると俺もウェサゴと共にテラスへと行かなければならない。

それはすなわちこの握られた両手を振り払わなければならない。


リリスとエレナの寝顔を見る。



「その手、振り解けねぇか?」



悪魔はそう言った。



「……いや、いずれは振り解かないといけない手だ」



そう言いながらリリスとエレナの両手を解くと悪魔は満足そうに頷く。



「わかってんじゃねぇか」



ウェサゴと共にテラスへと行くとそこには実体化したバエルが俺達を待っていた。



「はよー」


「おはよう」



いつも通り、バエルと軽く朝の挨拶をする。

二人で手すりにもたれかかりながら王城からの景色を楽しむ。


空が青い。

白い鳥が群れをなしてバタバタと翼を羽ばたかせながら飛んでいる。

ここからでは見えないが城下町も多分人が沢山歩いてるだろう。

活気を感じる。

いつも通りの風景、いつも通りの朝。


平和の証だ。



「……で、世界の秘密ってなんだよ?」



景色を眺めながらウェサゴに聞いた。



「ああ、まどろっこしいのは嫌いだからな。単刀直入に言うぜ」



そうウェサゴは前置きをしながら言った。



「この世界はループしてる」



……………?



「いや、うん……マスターの気持ちもわかるけど意味不明だみたいな顔でこっち見ないでくれる?」


「これから半年後くらいに勇者リリスは魔王と戦う」



ウェサゴは俺の困惑を無視するかのように話を進めた。



「結果は負けの時もあったし、勝った時もあった。しかし、勇者が勝っても戦いは終わらなかった」



負けの時もあったし勝った時もあった? それじゃまるで、いくつもの未来を見てきたかのような言い方だ。



「……というと?」



言いたいことはたくさんあったが、今のところは置いておこう。

この戦いは魔王を倒せば終わるんじゃないのか? いう意味を含めてウェサゴ問いかける。


その意図に気がついたのかウェサゴは目を細めながらも俺を見る。



「勇者リリスが勝っても負けてもこの世界の時間は巻き戻る。そして勇者リリスは最初から八王を倒し、魔王を倒し、巻き戻され……その繰り返し。回数は万を超えてる」


「万……ってならこの世界はずっと」


「ああ、同じ1年間を繰り返してる」



……まじかよ。


『俺はこの世界の未来を知っている。あらゆる可能性のな』



ふと、以前ウェサゴが言っていた言葉を思い出した。

……なるほど、繰り返されてるのが同じ未来とは限らない。

様々な可能性、様々な選択が未来を変える。

バエルとウェサゴは1万通りの未来を知っているということか。



「……まぁどうにかしようとは思ったんだけどさ〜どうにでもならなかったんだよねー」



バエルは隣で景色を見ながらも言った。



「どうにもならなかったって?」


「……勝てなかったんだよ。私たちでも」



そうバエルが言った。

その表情は淡々としていたが、声は少し震えている。



「悪魔でも勝てなかった相手って……」


「まぁ、それがわかれば苦労はしないんだけどさ……私達も『それ』が何なのかわからないんだよ……世界を巻き戻すときに記憶が一部消されてるから」



つまり、この世界が巻き戻されていることは知っているけど、誰がやっているのかはわからないってことか。

人間や魔物、精霊より高次元な存在である悪魔でさえその力の影響を受けてしまう。



「この世界を繰り返しているのは神様……とか?」



シュンさんが話してくれた御伽話の神界っていうのがあるくらいだからな。それに今回戦った四大天使、この世界に神様がいたって不思議じゃない。



「ああ、そうかもな」



俺の言葉をウェサゴは否定しない。

バエルもただ沈黙するだけだ。


2体とも俺と同じ事を考えていたのだろうか?



「ていうかさ、勝てなかったって言ったけどさ、 その時はバエル達にはマスターが居たのか?」



今のウェサゴみたいに誰かの体を乗っ取って戦っても本来の力を発揮できないはずだ。

でも、「勝てなかった」と言ったバエルの様子はそうじゃなかった。

力を100%発揮できた上で敵わなかったとそんな様子だったのだ。



「……まぁ、居たね。その子とは何回も一緒に戦ったよ。けれど一回も勝てなかった。しかもその子は私たちの力を100%引き出すことができた。すごい才能の持ち主だったよ」


「ふーん……」



…………………………



「あのさ、悪魔って……その……死体とかも乗っ取れたりするのか?」


「完全に体を乗っ取るには死体が一番楽で確実だな。生きていると宿主の意識っていうのがあるから、完全に持っとるのは難しい」


「……ということはその体は」


「ああ、この時間軸の黒田コウヤは既に死んでる」


「……もし、その状態で世界が巻き戻るとどうなるんだ?」


「……この状態で巻き戻るだろうな」



頭の中で点と点が繋がった。



「そっか……」



青空へと向けて放った言葉は力なく消えていった……





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