第152話 最後の原始の悪魔
「……あれ?」
目が覚めたら、病室のベッドで寝ていた。
おれはここを覚えている。
だってここはー
「おはようございます。双葉イツキさん」
白いワンピースを着た銀紫色の髪ボブカットほどの髪の長さ、そしてそのロリ容姿。
しかし、その容姿とは裏腹にかなり大人びている。
「おはよう……ございます」
えっと……誰?
「申し遅れました。私、原初の悪魔の一柱カミジナと申します」
カミジナは俺の心を読み取るように自身の名を告げた。
原初の悪魔……なんだろう。会ったのはこれが初めてじゃない気がする。
俺は……多分、前にカミジナに会っている……と思う。
思い出しそうで思い出せない。
あともうちょっとのところまで来ているのに。
「ふふ……」
考え込んでいる俺を見て、クスクスとカミジナは笑った。
何かおかしなことがあったのだろうか?
すると、強気というか、余裕のある笑みを浮かべながら俺の髪を優しく触れる。
……あ、なるほど、寝癖を直してくれているのか。
「もう、貴方は小さい頃から寝癖が酷いんですから」
その声はどこか好意を感じさせるような優しい。
まるで、ずっと会えなかった幼馴染にやっと会えたかのようなー
「えぇ、貴方とこうして会話をするのは約10年ぶりです。まぁ正しくは9年と3ヶ月ですが」
随分細かい所まで覚えてるんだな……というかさっきから。
「えぇ、貴方の心を読んでいるんです」
やっぱり、それがカミジナの能力なのか?
「まさか、これは私と貴方の繋がりの深さですよ。簡単に説明しますとマスターと悪魔は契約し、月日を重ねるか、死地をくぐり抜けるかすると繋がりが深くなります」
あーキッシー王を倒した後バエルと一緒に俺の記憶ツアーをしたやつと同じようなものか。
「えぇ、その通りです。まぁ、私は貴方の過去、秘密等全てを知っていますが」
そう自慢げに語る
カミジナはまるでバエルと張り合
「別に張り合ってはいませんよ。事実を述べただけですから」
「あ、はい」
こほんと咳払いしたのち、カミジナは俺の状態を簡単に説明してくれた。
騎士王ジークハルトと戦って退けたのはいいけど致命傷を負った俺はリンカとウェサゴに応急処置をして貰ってそのままキャメロット王国に運ばれて、それで……
「目が覚めた貴方はウェサゴから状況を聞いて四大天使ウリエルの元に行ったのです」
そうそう。
バエルに体を無理やり動かしてもらいながら、看病してくれていたリンカに協力してもらってウリエルのところに行ったんだった。
……それにしてもよくリンカも協力してくれたよな。
ぶっちゃけ断られるか、戦いに行くのを猛反対すると思ってたのに。
俺がまだ戦いは終わってないから行くって言ったら
『わかった……でもリンカも一緒に行く……!!』
って二つ返事でついて来てくれた。
それがなんだか意外で少し驚きながら頷いた。
「それはそうでしょう。よほどのことがない限り、あの子はあなたに尽くすと思いますよ?」
「……なんで?」
「それはあなたがちゃんと自分で思い出さないと。大丈夫ですよ……この場所を覚えているのなら必ず思い出せるはずです。彼女はあなたが思っている以上にあなたのことを理解していますよ?」
もちろん私には遠く及びませんが。とカミジナさんは無い胸を張って自信満々に言った。
「………………だろうな」
「おや、その様子だと思い出したのですか?」
「まぁ、だけどこれは憶測に過ぎないから、本人に聞かないとな」
もし、憶測通りならリンカは俺の……いや今はそれより
「一応聞くけど、俺は生きてるんだよな?」
「ええ、第一王女エレナ・フォン・キャメロットと勇者リリス・アリスタの蘇生魔法によって命を取り留めました。もっとも、私としてはこの状況を利用して悪魔の王になっていただいても良かったのですが」
「……また、悪魔の王か。なんかみんなアガレスも言ってたけど、どんなけ俺を王にしたがるんだよ」
「悪魔とは主人が必要なもの。私達が王を……貴方を欲するのは当然のことです」
「ふーん……そういうものか……そういえばここにはバエルやアガレスは居ないのか?」
いつも戦ったあとはアガレスに呼び出されるのが定番になっていたはずなんだけど。
「ええ、ここは私と貴方だけの世界です。だた、この世界に貴方が来たと言うことは死ぬ一歩手前だったと言うこと。それこそバエルやアガレスさえも干渉できないほどに」
「そんなにやばかったのか」
「ええ、やばやばです。が、そろそろ目覚めの時ですね」
「みたいだな」
もうそろそろ意識がさめるだろう。
自分のことだからかなんとなくわかる。
今、目を閉じて再び開くと王城の天井が見えるはずだ。
「貴方の体は十分成熟し、その才は覚醒し、悪魔達の力も馴染んだ頃です。……準備は整いました。今度お会いするときは貴方が悪魔の王になる決断をする時でしょう。忘れないでください。この世界はこの物語の結末は貴方にかかっていると」
カミジナはそう俺に言い残した。