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第149話 過去



「あ、起きた? おはようリリスちゃん」


んえ?


目の前にはクリーム色した長い髪の妖精のような幼い外見をした女の子が私の名前を呼んだ。

大きなベッドから体を起こす。

寝起きの時みたいに視界がぼやける。

そこは城にある様な大きなベッド、ソファにテーブル、シャンデリアなどの家具に大きなベランダとまるでお姫様が使いそうな部屋にいた。


ただ


ポテチなどお菓子の袋やコーラ、食べカスなどが散乱している。



「ここ……は? あなたは一体?」


「あーそっか、リリスちゃんは私のこと知らないのか……じゃあ簡単に、私はバエル。マスター……双葉イツキの召喚獣みたいなものだよ。そんでここはイツキの精神世界みたいなところ。おっけ?」


「お、おっけー? で、です」



な、なんとなくわかったようなわからなかったような……



「多分、蘇生魔法をした際に起こった現象だね……」


「あ、そうだ! 私達今イツキさんを助けるために蘇生魔法を使ってて……それで……」


「ああ、大丈夫……リリスちゃんとエレナちゃんのおかげでこのままいくとちゃんと目を覚ますよ」


「あ……そう……ですか」



良かった……一番聞きたかった言葉を聞けたのか全身から力が抜けた。



「……ねぇ? もし、イツキの過去を見られるなら……みたい?」



その言葉に鼓動が高まる。

え? それってどういう意味なんだろう?

いや、意味はわかる。

でも、質問を意図が分からない。



「それは……」



正直に言うと見たい。


だって私はイツキさんのこと何も知らない。

だから、イツキさんのことはもっと知りたい。


そうすれば、私もユウヤさんやソウスケさんやキョウヘイさん……それにエレナちゃんみたいに彼に近づける気がするから。



「あー言わなくていいよ。その顔で伝わったから〜せっかくだし、二人で見ようか」


何の説明もなく、バエルちゃんはパチンと指を鳴らした瞬間、世界が一変した。



「……え?」



目の前に広がったのは燃え盛るバスの中血だらけになりながら必死に脱出をしようと這いつくばっているイツキさんの姿だった。


その容姿は幼く、中学生くらいだろうか?


あれ?


バスや修学旅行、制服、中学校知らない単語のはずなのに意味がわかる。



「ああ、私の力でイツキがいた世界の知識を理解できるようにしてるんだよ。じゃなきゃリリスちゃん訳変わらないでしょ?」



どうやらバエルちゃんおかげらしい。

ありがとうとお礼を言うとううんーと軽く手を振る。



「バスの転落事故で、イツキ以外はみんな即死だったんだって」


「それって……」


「ユウヤもソウスケもキョウヘイも……みんな一瞬で居なくなったって言ってた」



自分に置き換えると目の前で、一瞬で、なす術もなく、ルイちゃんやリンちゃん、ユメちゃんが死んでしまったようなものだ。


想像しただけで寒気がする。

でもイツキさんはそれを理不尽に味わされてしまった。


燃え盛るバスから脱出しようと泣きながら必死に線のような血の跡を残しながら這いつくばっているイツキさんを見て思った。


独りぼっちだ。


私も、一歩間違えば同じようなことになっていたかもしれない。

いいや、間違いなくなっていた。


なぜ、そうならなかったか。

なぜ、私の周りにはみんながいるのか?


そんなのはわかりきってる。


イツキさんがいたからだ。


賢王の時も、今回も戦いも、お母さんを、私たちを、全部……自分の身を犠牲にしながら守ってくれた。



「ウリエルとの戦いに行く時、私止めたんだよ。心臓もろくに動かないのに私に無理やり動かして戦いに行くって言うからさ」


どこか悲しそうな顔をしながらバエルちゃんは言った。


「でも、イツキは言ったんだよ。『大切な人を失うような、後悔してもしきれない、そんな悲しい思いは二度としたくない。みんなにもして欲しくない。だから俺は行くんだ』って」



隣にいる大切な人は永遠ではない。

イツキさんはそれを誰よりも痛いほど分かっていた。


視界が暗転する。



『……あの子の親、まだ一回も病院に来ていないらしいわよ』


『……え? まだ? 双葉くん転落事故で死にかけて、入院して1ヶ月は経つのに……顔も出さないの?』


『それに彼が……で亡くなるかもしれないって時にも無関心だったそうだから』


『えぇ……なんだか可哀想』



暗転した先には病院にいた。

寝たりきのイツキさんに、ナースさんの話声が聞こえてくる。

本当に、心の底からは思っていなさそうな『可哀想』が私の心を逆撫でする。


まるで、自分には関係ないからどうでもいいかと、そう言う思いが見え隠れしていたから。



「どうして……? イツキさんはこんな状態なのに……死ぬかもしれないのにご両親は顔も出さないの? 本当に親なの?」


「実際、自分の子供に無関心な親なんていくらでも居るよ」



再び場面が切り替わるとイツキさんは退院時期が来て病院を出ようとしていた。

イツキさんの親は、そこにはいなかった。

たった、一人で、どこか寂しそうな背中を見つめることしかできない。


病院を出た瞬間、大勢のマスコミの人たちがイツキさんに押し寄せる。

沢山のマイクとカメラのフラッシュとビデオカメラ、初めて会った大人達による流れのような質問がイツキさんに雪崩のように押し寄せた。


まだ、12・13歳の子供に……


逃げるようにタクシーに乗り込んで家に帰っても家に張り込みしていたマスコミが待っていた。

逃げるように必死に家に駆け込む姿は見ていられなかった。


家の中には誰もいない。

イツキさんは独りぼっちだった。


マスコミが落ち着いてから学校に行ってもイツキさんの居場所はなかった。

むしろ、転落事故のせいで死神とか言われてみんなイツキさんを気味悪がっていた。


イツキさんは学校に行かなくなり、部屋から出なくなった。

きっと他人が怖くなったんだと思う。

ああ、そうか。だから、出会った時のイツキさんは知らない他人や視線が怖かったんだ。



『お前が親権を持てよ!』


『いやよ! あなたが責任持ってよ!』


『はぁ!? お前が産んだ子供だろ!?』



たまに帰ってくるイツキさんのご両親はそう言って言い争いをしていた。

まるで要らないものを邪魔ものを押し付け合っているかのように。

それを隠れて聞いているイツキは表情もなく、涙を流していた。



「……多分、お互いに別の相手がいたんじゃない? だから……互いにイツキが邪魔だったんだよ」



学校では居場所がなくて。

世間では腫れ物扱いされて。

唯一の家族にも邪魔者扱いされて。


イツキさんの唯一の居場所はユウヤさん達だったのに……それも奪われた。





どうして?

どうしてイツキさんがこんな辛い目に、苦しい目に遭わなきゃいけないの?

イツキさんは何も悪いことなんかしてないのに。


たまらなく悔しかった。



「そろそろ、お別れみたいだね」



バエルちゃんがそう言った瞬間、景色が白くなっていく。



「……うん」



二つの強い気持ちが心の中に生まれる。

イツキさんが目を覚めたら伝えよう。

この気持ちを。


そう決意しながら私は意識を委ねた。




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