第148話 蘇生魔法
ああ、また……あの夢だ。
背中が遠くなる。
だんだん遠くなる。
こちらに振り向きもせず、あの人は前に前に進んでいく。
……どこにいくつもりですか?
ねぇ……イツキさん。
なんでこっちを向いてくれないの?
行かないで。
行かないで。
「……あ」
目が覚める。
すると目の前には見慣れた王城の天井が見えた。
するとすぐさま、ウリエルとの戦いがフラッシュバックした。
ああ、そうだ。
私たちは双王と戦って、勝って……それで四大天使であるウリエルが、私を殺そうとして……だから必死に抗って。
そしたらイツキさんが来てくれて……それでー
「っ!! イツキさん!!」
どこにいるんだろう?
どんな状態なんだろう?
無事……だよね?
ベットから起き上がり、足もおぼつかないけど関係ない。
ふらふらと体を大きく揺らしながら私はイツキさんを探しに部屋を出た。
廊下を歩く。
ああ、もう……どうしてさっき見た夢を思い出すんだろう。
どうして姿が見えないだけでこんなに泣きそうになるんだろう?
不安になる。
不安がどんどん膨らんでいく。
ああ、あの時のリリスさんの気持ち、わかった気がする。
「!? エレナ!? お前! 目が覚めたのか!?」
お父様が驚いた様子で私の元に駆け寄ってきた。
「お父様……!! イツキさんは!?」
まるで縋るようにお父様に抱きつき、イツキさんの安否を聞いた。
きっとお父様の口から『大丈夫』とか『もう目が覚めてる』とかそんな言葉を聞けたらこの不安はなくなるだろう。
だから、お願い。
大丈夫だって言って。
もう目が覚めてるって言って。
いつも見たいな子供っぽいその笑顔を早く私に見せて。
でもその願いは打ち砕かれるようにお父様は何も言わず、苦々しい顔をした。
「……そうだな……ひとまず着いてきてくれ」
お父様について部屋を入ると皆さんが居た。
全員、無事のようだけどの表情はどこか緊張した様子だ。
そこにはイツキさんとコウヤさんだけが居なかった。
ああ、それでわかってしまった。
「全員揃ったな……よろしく頼む」
お父様はユメちゃんの方を向いて発言の主導権を彼女に渡した。
「イツキくんの容態だけど……ごめん。もう治癒魔法では助からない」
きっと、聖女であるユメさんも懸命に尽くしてくれたのだろう。
その表情で分かる。
だけど、それでもどうにもならなかった。
「心臓の鼓動も、無理やり動かしてたっぽいからな。もう立ち上がれないはずの体で戦っていた。まさに奇跡と言えるだろう。これが当然の結果なのかもしれん……」
お父様は苦々しい顔をしながら言った。
だけど、入ってこない。
いまだにユメさんの言葉が飲み込めない。
「だけど、手がないこともないんだよ……だってまだ……イツキくんは死んでいない……心臓の鼓動こそ弱くなっているけど、まだ生きてる」
ユメさんの言葉を聞いてなぜそうなったのかは分からないけど、私は四大天使ウリエルの言葉を思い出していた。
『どうして……か。近い未来貴様は我が主を討つかもしれない男の命を救うからだ』
私が殺されかけた理由。
ウリエルが言っていた男って……もしかしてイツキさんのことではないだろうか?
そう思った瞬間、何かが繋がった。
「蘇生魔法……!!」
思わず、そう口に出した。
蘇生魔法・リザレクション。
治癒魔法では助からない生と死の狭間にいる命を繋ぎ止める魔法。
死者の蘇生は出来ないが、今のイツキさんなら……きっと助けられる筈だ。
リザレクションが出来るのは……王家の……
「多分、それしかないと思う……います……」
ユメさんが頷きながらそう言った。
「……私、やります。お父様、いいですよね?」
「…………ああ、死なせるわけにはいかねぇからな。まぁ色々と面倒なことにはなるが、気にするな。俺がなんとかしよう」
よかった……
お父様の許可も降りた。
あとは、少しでも成功率を上げるために……
「リリスさん」
「は、はい!」
「リザレクションは光魔法に属する魔法なんです……だから、リリスさんが協力してくださったらイツキさんの生存率も上がります……なので、どうか」
「わ、私にできることなら、なんでもします!」
協力してもらうように頭を下げようとする前にリリスさんはそう言ってくれた。
よかったと思うと同時にその返答は予想通りだった。
だって、恐らく彼女は……
いいや、今はそんなことどうでもいい。
そこから、急いで準備が行われた。
王城の一部屋を借りて誰も入らないように鍵をかけて、厳重な警備を配置する。
警備は勇者パーティやグランドマスターの皆さん、ユウヤさん、キョウヘイさん、ソウスケさんもいるという最強の布陣。
3人くらい平気で川の字で寝ることができるほどの大きなベッドの真ん中でイツキさんを寝かせてほぼほぼ準備は整った。
この部屋にいるのは私とリリスさんとイツキさんの3人のみ。
「この魔法は……とても長いものとなります。少なくとも1週間はかかるかもしれません。それに常に魔力を消費してしまうので魔力枯渇にも注意しなければなりません。今回は私をサポートするような形でお願いします」
「はい! がんばります!」
リリスさんはやる気が満々というか、とても気合いが入っていた。
「では! 始めましょう! リリスさん! まずは服を脱いでください!」
「はい!!」
「はい?」




