第146話 ナノ・セカンド
「わかってねぇな、天使様。俺たちはここからが強いんだよ」
カラカラに乾いた舌を動かす。
生きた心地など一分もない。
もうあと数十分後には力尽きるこの体は本来なら立ち上がることすらできない。
それをバエルに頼んで無理やり動かしている。
身体中が悲鳴を上げている。
「ふ、強がりはよせ。双葉イツキ。いや……悪魔の王と呼んだ方がいいか?」
頭の中が警告音が鳴りっぱなしだ。
右手はない。
左手は紐で縛って剣を無理やり握っている。
バエルの力で無理矢理動かしても握れなかったからだ。
最早剣すら握れないこの体。
でも、俺にしかできないことが残ってる。
リリス・ルイ・リン・ユメの勇者パーティ。
リンカ・ウェサゴ・チユ・ユウさん……グランドマスターのみんな…
ソウスケ・ユウヤ・キョウヘイ。
そして
エレナ。
この場にいる全員がまだ諦めていない。
なら、俺がやるべきことはただ一つ。
こいつらを勝たせることだけだ!
「リンカ! フォロー頼んだぞ!!」
「う、うん!!」
「!!」
ウリエルは俺が何をするのか勘づいたのか力を展開しようとした。
知っている。
ウェサゴから聞いた力だろう。
自身の望む未来を選択し、その結果を現実にする。
全てを無に帰す。
まさにチート能力。
発動されたらまず勝てない。
対策をしていなければ。
「精霊王オリジン!!」
リンカはウリエルが未来選択の力を発動させるより速く召喚した。
精霊王オリジン
大精霊よりもさらに上の存在。
いわば精霊界の頂点に立つ精霊の王。
召喚できる召喚士は存在しなかった。
リンカが現れるまでは。
その力は遮断。
この世とは隔離された世界。
精霊王オリジンに守られた者達はこの瞬間のみこの世界の理の外れる。
それはたとえ神であっても例外ではなく、まさしく最強の守り。
ゆえに今の俺たちにはウリエルの未来選択の影響は全く受けない。
「!! 精霊王だと!! しかし、そう長くは待つまい!」
ウリエルのいう通りだ。
いくら召喚できるからと言ってもその魔力消費量は大精霊以上。
持って3分とくらいだとリンカは言っていた。
それで十分だ。
聖剣を高らかに突き出し、召喚の儀を始める。
「異能を司る悪魔よ。契約者によって命ずる。我が呼び声に答え、今ここに大いなる力を与えよ!! 第3位の悪魔ウェサゴ!!」
その名を叫んだ瞬間、コウヤさんの体を乗っ取ったウェサゴが後ろにあわられ言った。
「仰せのままに我が王よ」
ウェサゴの能力は空間を作り出し、その空間でのあらゆる異能の無効化。
単純に能力だけを無効化するのではなく、身体能力の強化・再生・魔力も封殺。
正確には無効化ではなく、「能力の自壊」である。
つまり、能力が強いほど、それに反比例するようにどんどん弱体化する。
しかも、それは俺が敵だと判断した者のみ適応する。
まさに対能力者最強の力。
「ぐ、おおおおおおお!! おのれぇ……双葉イツキ!! 貴様!! 私の力を自壊させたな!!」
苦しみと憎しみと怒りがこもった顔でウリエルは胸を押さえ、俺を睨む。
なるほど、能力が自壊するのって痛いんだな。
だけど、まだ残ってるな。
おそらく10%くらいは……ウリエルの能力を完全に無効化するのはまだ少し時間がかかるようだ……
しかし
俺の残り魔力量的に待っている余裕はない。
多分この状態で、全員で戦って五分五分だろう。
「説明は後回しだ! あいつを俺たちの土俵まで引きづり落とした! 今なら勝てる!! だけどこの状況の長くは持たない!!」
振りき返らず全員に言う。
「だからこのまま一気に片をつける!! 後ろは任せた!!」
そう言いたいことを言い終わえて後ろを振り返ってみんなの顔を見る。
そしたらみんな「しょうがないなぁ」って顔して頷いてくれた。
もう力なんて残ってない癖に剣を握る手に力が入った気がした。
生きた攻撃ができるのは全員が一回ずつ。
それは俺を含めて。
「……みんな、頼りにしてるぜ!!」
俺は地を蹴り、一直線に敵を討ちに迫った。
「舐めるな!! この残された力で十分だ!!」
俺たちと天使の最後の勝負が始まった。




