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第145話 最後の切り札



私達全員が致命傷を負いながらも、魔力が尽きかけようとも立ち上がり武器を握り、抗おうとしている。



そんな光景を見てウリエルは初めて驚愕する表情を見せた。

それは心の底から理解できないいう感情。



「……理解できないな。その傷で、その有り様でなぜ戦える?」


「なんで……だろうな。ただ、僕たちはあいつが来るまでは絶対に諦める訳にはいかないんだよ」



ソウスケさんが血を吐きながら言った。

息も乱れており、いつ意識が落ちてもおかしくない状態だ。


ああ、ソウスケさんの言っているあいつ。誰だかわかる気がする。

多分わかるのは私とリリスさんとレギス・チェラムの3人だけかもしれないけれど。



「ああ、確かに、彼なら来そうだね」



そうキョウヘイさんは笑った。



「ふ、来るならもうすぐなんじゃないのか?」



ユウヤさんは空を見上げる。

何もない青空を。

まるでこれから何かが起きることを予見しているように。



「あいつ? 私を倒すのなら原始の悪魔と終焉の聖剣を持って……なるほど、双葉イツキか」



ウリエルは納得したように頷いた。



「お前たちは双葉イツキを待っているのだな? 確かに、やつならばこの状況を打破できるやもしれん」



しかしとウリエルは首を振る。



「それはない。絶対にない。奴は騎士王との戦いで重症を負い。意識不明の状態だ。それも今も変わらない」



まるでその姿を見たかのように言う。

いや、もしかしたら千里眼の類の力を使って実際に見たのかもしれない。

イツキさんの今の状況を。



「奴は戦うどころか目を覚ますことすらできない。奇跡でも生きない限りな」



四大天使のウリエルはそう断言した。

その言い方はまるで奇跡なんか起きるはずがないと言いたげだった。


絶対の前に奇跡なんてないと。



「そんな都合のいい奇跡なんて信じてないけれど、彼なら来るよ」



そんなウリエルに対してキョウヘイさんは断言する。



「ほう、知ったような口を聞くではないか。未来でも視ているのか?」


「未来なんか視なくたってわかる」


その問いにソウスケさんが答えた。



「あいつはなぁ、魔力がもう尽きたとか、致命傷を受けてしまったからとか、力が入らないからとか、武器が握れないとか、そんな理由で終わるような奴じゃねぇんだよ!!」


ソウスケさんは吠える。

その言葉はとってもまっすぐだ。

まるで本当に来るかもしれないと心の底からそう思わせるような力があった。



「俺達がここに立っている。だから来る。これ以上の理由なんていらない。双葉イツキはそういう男だ」



そう言いながらユウヤさんは刀身に業火を灯した。


なんだろう。

この絶対的な信頼感は。

あの3人はイツキさんが来ることを微塵と疑ったりしていない。

その声色は全て確信を持っている。

なんでだろう。それが私にとってはすごく羨ましかった。

だって、それってユウヤさん達が一番彼の近くに居るってことだから。



「信頼か……くだらん」



収束する光。

それは敵を例外なく切断し、消滅させる光の刃。

その力は見たことがある。


その輝きは敵の存在を許さない無慈悲なる光。



「これはただの真似事だ。神級魔法を真似ただけの、何も宿らぬ出来損ないだが、死に損ないのトドメには十分のようだ」



まるでリリスさんの神級魔法エンシェント・レクイエム。

ウリエルは私達を力の奔流で叩き潰すつもりだ。



「貴様らの思い描く未来はどこにも存在していないと言うのに」



無慈悲に降ろさせるのは神の断罪。

全員が力を負わせて結界を張ったけど、あっけなく砕け散る。


今度こそ私達の体もー



「ああ、そうだな……確かに俺たちの思い描く未来はどこにも存在していないのかもしれない」



その声はとても聞きられた声だった。

聞いていて心に熱が生まれてくるようなそんな声。

なぜか、目頭が熱くなる。



(来れないはずだ)


来てくれると思っていた。


(今来たことろでどうしようもない)


きっとなんとかしてくれる。



矛盾した思いが溢れた。



そんな思いと共に黄金色の業炎が光の刃を灼き尽くす。



「だから、俺たちは自分達で創る」



振り返るとそこにはグランドマスターの正服である白い軍服にグランドマスターの紋章があるマントを身につけた片腕のイツキさんが立っていた。


左手に黄金色の業炎を纏った剣を持って。

そしてその瞳は黄金色に輝いていた。



「……どうして? ここに……そんな体で」



声が震える。

泣きたくないのに、涙が止まらない。

ああ、どうしてこうも安心するんだろう。

まるで緊張の糸が切れたかのように座り込んだ。



「約束したからな。お前が最後まで諦めず必死で生きて、俺と一緒に同じ未来を追いかけてくれるのなら。俺がお前の最後の切り札になってやるって」



「っ!! ばか……」



「エレナ」



イツキさんは、前を見ながら私の名前を呼んだ。

そして彼は振り返って確かに言った。



「心配すんな。必ず最高で理想的な未来を見せてやるから」



そう笑って前へと進んだ。

その足取りは明らかに不自然で、挙動が不安定。まともに歩けすらできないことを表していた。

動けない体を無理矢理動かしているようなそんな感じがする。


けど、あれ?


イツキさんの背中ってあんなに大きかったっけ?



「え、エレナ様……大丈夫……ですか?」


「り、リンカさん!? 来てくれたんですね」


「は、はい……イツキくんのふ、フォローとみんなの傷を治しに」


そう言いながらリンカさんは治癒の召喚獣を使って皆さんを癒してくれている。

私の傷も少しずつ治してくれている。


「驚いたぞ……まさか聖剣と共に来るとは思わなかった。いや……そんな未来などなかった」


「聖剣……?」


同じ聖剣使いのリリスさんが驚いたように声を出した。

驚いているのは私も同じだ。

そういえばイツキさんが持っている剣、同じものだけど少し違う。

刀身が解放され、黄金色の業炎を纏っている。



「黄金の炎……まさか!! それは終焉の聖剣!?」



王家の書で呼んだことがある。


リリスさんが持っている原始の聖剣は太陽と月と星の光を集め濃縮させ、神の力に変え、自身が敵と認知した者を完全に消滅させる。


ゆえに刀身は黄金。


私が持っている繁栄の聖剣は太陽と月と星の光を集め濃縮させ、神の力に変え、世界を作り変える。


ゆえに刀身は白銀。


終焉の聖剣は神の世界を灼き切ったと言われ、神を討ち取った討神の剣と言われている。

唯一書いてあったことはその剣は黄金色の業炎を纏っていると言うことだけ。

それ以外のことは書いていなかった。

それはどこにあるのかわからなかったから。


そういえば前にドワーフの村長に貰ったとイツキさんが言っていた。


まさか、ドワーフが持っていたなんて……



「しかしその服はひどい傷を隠すものだな。右腕がない。左手は紐で縛って剣無理やり握っている。そうじゃないと剣すら持てないのだろう」



そんなイツキさんを見てウリエルが失笑した。

ウリエルはイツキさんの持っている聖剣を警戒しているけど、イツキさん自身には警戒してなかった。

その姿を見て、必要ないと判断したのだろう。

しかし、イツキさんは笑う。



「わかってねぇな、天使様。俺たちはここからが強いんだよ」






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