第143話 死闘
「レギス・チェラム……ふむ聞いたことがない名前だ」
ウリエルは顎を触り考えるように言った。
その言葉は矛盾している。
四大天使はこの世界の全てを把握している。
この世界の人間の名も能力も。
それは魔物・転換者であっても例外ではない。
「まぁ、よい。威勢の良いことを言ったからには、見せてみよ……貴様たちの力を」
ウリエルは純白の翼を展開。
空高く飛翔しエレナたちを見下ろした。
「全ての光を収束する」
ウリエルの右手に光が集まりそれは巨大な剣となった。
その剣はたった一振りで大陸ごと切り裂いてしまうほどの巨大さを誇っている。
間違いない。
この大陸……いや、この世界ごと切り裂く気だ。
「潰れるんじゃないぞ。出なければ暇つぶしにもならん」
ウリエルはそう言いながら極光剣を世界を断ち切るように叩きつける。
壮絶な速度で振り下ろされる極光剣は世界の終わりを告げるようだった。
大地が振動する。
その振動の余波で大地が土塊が乱れ飛ぶ。
しかし、ウリエルが振り下ろした極光剣が大地を切り裂く事はなかった。
「ほう……この剣を受け止めている……か」
ソウスケとリンが大結界を張り、残り全員で二人に魔力を送っていた。
そうでなければ大地ごと両断される。
少しでも気を抜けば押し切られてしまいそうだ。
圧倒的な力の前にヒビが入る。
それは大結界の崩壊を意味していた。
全員の額に汗が滲む。
「さっさと、あの剣を斬ってしまって!!」
「っ!! ここは私が!!」
リンの叫びと共にグランドマスターのチユが魔剣を発動させながら極光剣に向かって跳んだ。
「せぇぇぇぇい!!」
チユは吼える。
魔力が暴れ出す激痛から意識を保つ為。
指輪から万物を破壊する赤き魔剣が禍々しい力を放ちながら姿を表し極光剣と衝突する。
純白と真紅が混交したスパークが振り撒いた。
赤き魔剣は万物を破壊する。
その言葉に恥じぬように極光剣を粒子レベルまで破壊し尽くした。
「破壊の魔剣か……面白い」
自身が作り出したの極光剣の破壊され、笑みをこぼすウリエル。
その表情は面白いおもちゃを見つけたようだった。
ウリエルは光の弓を生み出し矢を引く。
限界まで引き絞った光の弦はエレナ達を全滅させる為、より力を増していた。
ぎしっと指が狙いを定めた。
「さぁ、これも破壊してみよ!!」
咆哮を上げながらその聖矢は放たれた。
ウリエルが放った聖矢は全てを貫かんとこちらに飛んでくる。
チユは魔剣の呪いで動けない。
その体は激痛に耐えるので精一杯だ。
この威力……ただの結界で防げるかー
「これなら、なんとか……ね」
グランドマスターのユウ・ハイゼンベルグが聖矢の射線上に出る。
迫り来る聖矢を睨む。
時間が止まる。
秒にも満たない空白、全身に魔力が疾走し、集まった魔力は左目に。
緊張と恐怖はない。
だた、自分がしくじればそれは全員の命が危険に晒される。
そう思ったら熱くなった。
左目が熱い。
ゼロ秒後の死が視えている。
それを覆すために魔眼を発動させた。
左目を青く光らせたその瞬間、ウリエルの放った聖矢が消滅した。
ユウの左目は他人または物質を特殊な空間へと転移させる能力。
ウリエルは攻撃の手を緩める事はせず、翼撃を繰り出した。
烈風により、大結界が完全に崩壊する。
極光剣の時点で既に崩壊寸前だったのだ。なんら不思議なことではない。
ウリエルは大結界を破壊したのを確認し頭上にある天輪から無数のホーリーブレスを放った。
無数に放たれた閃光は容赦なく降り注ぎ、引き裂く様な轟音と共に大規模な爆発を起こす。
重き一撃で沈まぬのなら怒涛の連撃で沈めるまで。
爆煙でエレナ達の姿が見えないがウリエルはダメ押しにもう一手加えることにした。
「ジャッチメント・ノヴァ」
神々しい光が曇天を切り裂きながら上空へと当てまっていく。
天光が満ち、神の雷となってエレナ達を襲う。
これで終わりだとウリエルがそう思った瞬間
「撃ち墜とす!!気炎万丈!!」
爆煙を切り裂き、ユウヤは神の雷に対抗する為に祈りの大剣および、自身に残っている全魔力を業火に変えて天へと向けて放出した。
周囲の領域全てを灼き尽くす超絶規模の衝撃波を巻き起こし、領域にいる全ての生命体の視界を完全に白にするほどの閃光と共に音すら消し去った。
勝負はこの一撃で決まったと思われた。
だが
「ウィンドカッター」
大ダメージを負って頭から血を出しながらソウスケは風の初級魔法を唱えた。
ここで初めて防いでばかりだったエレナ達が攻めに出た。
ウリエルは巨大な球体の絶対真空に閉じ込められてその中で無数の風の刃で切り刻まれる。
本来、ウィンドカッターとは対象の周りに風の刃を発生させ敵を切り刻む初級魔法である。
しかし、ソウスケのウィンドカッターはウリエルの周りを巨大な真空空間に閉じ込めて無数の風の刃で切り刻んでいた。
これは魔王軍幹部でも受けてしまうと決定打になり得る大魔法。
しかし
「ふん、真空空間か……くだらん。こんなもの少しの時間稼ぎにしかならんぞ」
ソウスケのウィンドカッターを容易く打ち破られた。
四大天使に取ってそれはわずかな時間稼ぎにしかならなかった。
「それで十分さ」
そこには血だらけの一ノ瀬キョウヘイがいた。
神々しさを感じさせる純白の光を身に纏い、腕につけているブレスレッドは青白色の光を放っている。
「その力、神の心臓か!!」
閃光のように放たれたキョウヘイの蹴りを受けめる。
衝突する神の蹴りと天使の拳。
叩きつけられる剥き出しの魔力。
それは両者の拮抗状態を表していた。
「……だが使いこなせていないようではただのガラクタだな。人間ごときに使えこなせるわけがないか」
そう落胆しながらキョウヘイの右脚を弾き、左拳を放った。
音を置き去りにしながら飛んでいくキョウヘイ。
「見えているぞ。エレナ・フォン・キャメロット」
背後からその隙を突こうと聖剣を振るう死に体のエレナを見ながらウリエルは言う。
聖剣と光の剣が交差する。
エレナの一閃とウリエルの一閃は重み、衝撃、疾さがまるで違う。
止めた筈だと思った一撃が弾かれる。
そして無慈悲にもウリエルの光の剣は横殴りにエレナの体を一閃した。
「っ!! づぅぅぅ……!!」
身を捻って躱すも、薄皮一枚とはいかない。
即死に至らない傷痕はいずれ致命傷となっていくだろう。
「……なるほど」
ウリエルはすぐ近くにある膨大な魔力を感じ取り視線を移し、見た。
リリスは黄金色の瞳をしながら光輝く聖剣を掲げている勇者リリスの姿を。
「神級魔法か……」
「エンシェント・レクイエム!!」
収束する光。
太陽と月と星の光を濃縮させた光に世界が色を失った。
それは文字通り光の線だった。
敵を例外なく切断し、消滅させる光の刃。
しかし、それでも
「届かない」
ウリエルは無慈悲にエンシェント・レクイエムを粉砕した。
淡くそしてどこか暖かさを持つ黄金色の粒子が拡散する。
「……まじかよ」
思わず、ソウスケは言った。
「これで終わりか?」
ウリエルの緩やかに地上に降りていく姿は余裕の現れだった。
目の前にいる敵は全員が重症。
彼女らの切り札である神級魔法は一切通じなかった。
エレナの神級魔法はまだ使えない。
そもそも使えたとしても結果は同じだ。ただ、ウリエルに粉砕されるだけ。
勇者リリスは重傷の上に力を使い果たしてふらふらだ。
しかし
「ほう……未だ誰一人心が折れていないか。むしろ全員が逆転への一手を必死に探っている」
エレナ達の心を読むかのようにウリエルは言った。
パチパチとその姿を見てウリエルは拍手を送った。
「先程の拍手はその称賛によるもの。貴様らが心折れる未来が存在しないことの……な」
そして両手を広げたからかに宣言した。
……ウリエルは私たちを嘗めている。
慢心している。
勝機があるとすれば、その慢心をついて彼の想像を超える一撃を与えなければならない。
そうエレナ・フォン・キャメロット含め全員が思った。
ウリエルはそんなエレナたちを見て笑った。
まるで心を見透かしたように。
「ああ、これは慢心ではない。貴様達では私には勝てないこれはだたの事実だ。それを今教えてやろう」
ウリエルは右手を前に出した。
「私の真の力によって」
その瞬間
全員が
全くの同時に
致命傷を負って倒れた。