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第141話 束の間の休息


背中が遠くなる。

だんだん遠くなる。

こちらに振り向きもせず、その男の人は前に前に進んでいく。

私たちを置いていくかのように。

何も言わず。


……どこにいくつもりですか?

ねぇ……イツキさー



「はっ!」



目が覚める私は涙を流しながら拠点にある建物の天井に手を伸ばしていた。

まるで届かないものを掴もうとしているような。そんな嫌な感じがした。

……差し込む朝日がとても眩しい。


なんだか嫌な夢を見ていたような気がする。


え? 今何時? ちょっと待って、落ち着いて整理しよう。

……えと。確か、双王クォーツと戦って……それで……聖剣の力を使って。

ああ、だからこんなに力が入らないのか。


神級魔法「レディアント・ロア」は強力だけど、魔力の消費が膨大な上に魔力の使用が一時的に不可能になる。

しかも、発動には時間がかかるし……発動前に潰されることが多い。

極め付けに使用後は私の意識がなくなる。


この様子だと魔力が復活するまでもう少し時間がかかりそうだ。


ベッドから立ちあがろうとすると体に激痛が走る。

神級魔法を使った影響だ。

ああ、体中がものすごく痛い。



「エレナ様!!」


「勇者さま。おはようございます」



同じ聖剣使いであり、勇者であるリリスさんが来てくれた。

双王オキニスとの戦いがどれほど激しかったものだったのか……それはきっと私なんかの想像を遥かに上回るほどだったのだろう。


リリスさんから現状の説明をしてもらった。


なんと、全員死ぬことなく双王オキニスと双王クォーツを倒すことが出来たとのことだ。

リリスさん達勇者パーティの皆さまはオキニスを倒した後、お父様が治癒の神器を使って瀕死だった体を完全に治し、転移ゲートで拠点に向かったとのこと。


転移した先に神級魔法を使って倒れ込んでいる私と同じく魔剣を使って倒れているチユさんとユウさんがいたそうだ。


ユメさんに治癒魔法をかけてもらったりと色々してもらったようだ。

そして今に至るということらしい。



「……すいません。ありがとうございました」



あまりの申し訳のなさに頭を下げるとリリスさんは大慌てしながら気にしないでください!と言ってくれた。


「……あれ? 双王の八王城は?」



拠点を襲撃されたのですっかり忘れていたが、肝心の八王城は占拠出来たのだろうか?

じゃないと私達人間の領土が広がらない。



「それは、レギス・チェラムの皆さんが私達の代わりに制圧してくださったみたいで。今こちらに戻ってきてるとのことです」



レギス・チェラム……ということはソウスケさんとユウヤさんとキョウヘイさんか……さすが頼りになるなぁ。


現状拠点にいるのは私、勇者リリスさん・賢者リンさん・聖女ユメさん・剣聖ルイさん・グランドマスターチユさん・グランドマスターユウさんの7人。


双王の城にはユウヤさん・キョウヘイさん・ソウスケさんの3人。



「それにしても……本当によかったです……ルイちゃんやリンちゃん、ユメちゃんも無事で。それにエレナさまも」


「……えぇ……その、勇者さま。私のことは様を付けなくても……その距離を感じるので……」


リリスさんは同じ聖剣を持つ者として、勇者として色々と背負っているモノがある。

勝手にだけどシンパシーを抱いているので、本当は仲良くなりたいなって思っていたけれど、なかなか勇気が出なかった。



「えぇ!? そんな! 私の方も勇者さまなんて! ですよ!」



滅相なという感じで



「じ、じゃあ……リリスさんって呼ぶので、私もエレナって呼んでください」


ちょっと恥ずかしいけど……今しかいうタイミングがない気がしたのでここは勇気を振り絞ってみた。

大丈夫かな? 変だと思われていないかな?



「え、えと……そ、それじゃあ……エレナちゃんで」


「そうして下さい……なんなら私のこと呼び捨てにする人もいるので! あ、そういえばあの人は……」



そう、赤い服を着た私のことをいつも子供扱いする人、グランドマスターの双葉イツキ。

騎士王を退けた後どうなったのか知らない。

まぁ、どうせ今ごろどこかで昼寝とかをしてるに違いない。


しかし、私がイツキさんのことを聞いた瞬間、リリスさんの顔が一気に曇った。



「……え?」


「……う、うぅ」


その瞳には涙が溜まっていた。


その顔を、その涙を見て、最悪な想像をしてしまった。

嘘……そんなの嘘だ……だって、私に最高の未来を見せてやるって言ったのはあの人だ。

なのに……



「……まだ、目が覚めないらしくて……」


……え?



「あの……え? 生きてるんですか?」


「へ? はい。一命はなんとか取り留めたようです。イツキさんは今、キャメロット王国で治療を受けていると連絡がありました」



「あ……あぁ……」



全身から力が抜けた。

よ、よかった……リリスさんの反応を見て死んじゃったのかと思った。

それにしても……目が覚めないのは確かに不安だけど、泣くのは大袈裟なんじゃないだろうか?


キャメロット城には意識不明のイツキさん・グランドマスターリンカさん・グランドマスターのコウヤさんお父様の4人。


意識不明のイツキさんにはリンカさんがつきっきりで看病をしているらしい。

そういえば、あの二人は初対面とは思えないほど距離が近かったような気がする。

もしかしたら、前世で知り合いだったとか。


……むむ。なぜだろう。あまりいい気が……


!! いけないいけない。



「……体ももう大丈夫そうですし、私も皆さんに会いに行きますね」



正直、ここで一人でいるより、今はみんなの顔が見たい。

そんな気持ちが伝わったのかリリスさんはわかりましたとみんなのことろへ連れていってくれた。



「お姉ちゃん! ほんとだって!! 私! 双王も反応できない速度でズババッと!」


「わかったから!! もう! あんたその話何回するのよ!! もう聞き飽きた!」


「えー!! ユウヤさんなら何百回言ってもちゃんと聞いてくれるのにっ!」


「あんた……ユウヤに迷惑かけすぎでしょ……」



少し遠くからみんなが話をしている光景を眺めていた。

みんな、この戦いは辛いこともたくさんあったけど生きてる。

そしてこうして笑いあって、話をしてそんな当たり前を享受してる。


それを見るのがなんだか嬉しくてつい笑ってしまう。



「皆さん、お疲れ様でした。お怪我は大丈夫ですか?」



「「エレナさま!!」」



オルテシア姉妹の二人が揃って頭を下げてくれた。



「私は大丈夫です。エレナさまこそ、大丈夫そうで何よりです」


「あ、あ……えっと……わ、私も……大丈夫……です」



ルイさんは交流会後もいまだに人見知りを発動されている。

おかしい、イツキさんとはあんなに仲良くなっていたのに……なぜ私だけ。



「ユメさんはどこに? お礼を言いたいのですが」


「グランドマスターの方を外にいますよ」


リンさんの言葉にふむと考え込む。

なるほどちょうど外の空気を吸いたくなってきたところだ。

外に出るとしよう。



「では、私はユメさんを探しに外へ」



そういうと勇者パーティの皆さんがついて来てくれた。


みんなで外へ出る。

風が心地よく空は綺麗な青空だ。

目の前にはユメさんに治癒魔法を受けているユウさんがいた。

それを興味深そうに見ているチユさん。


こちらに気づいたチユさんがこっちに向かって走ってくる。

後ろではユウさんが手をフラフラと振ってくれていたのでペコっと頭を下げた。



「!! エレナ様!! 目を覚まされたのですね!!」


「ええ、チユさん。ありがとうございました。あなたが居なければクォーツを倒すことが出来ませんでした」



クォーツとの戦いでもっとも貢献してくれたチユさんに頭を下げてお礼を言った。



「エレナさま!? そんな!! 顔をお上げください!!」



ふと、私はあることに気が付いた。

……あれ? どうして神界が姿を表しているんだろう?

そう思った瞬間



「エレナ・フォン・キャメロット」



空から声が聞こえた。

その声は高貴かつ威圧を感じさせる。


聞いたことがある声。


空を見上げるとそこには天使様が私を見下ろしていた。


見た目は40歳前後の男性で圧倒的な存在感を放っていた。

輝かしい銀髪。

相手を威圧するような三白眼、金色の瞳。

純白の翼。

そして全身から立ち上る神の気配。



「ウリエルさま」


そのお方は神の使いである四大天使の一人であるウリエル様だった。



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