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第140話 満天の世界




クォーツが所持していた細剣は神器の一つである命締剣ダインスレイフ。

その力は使用者を中心として無数の光の刃が同心円状に広がり、相手に向かって一斉に解き放たれるというもの。


そしてその光の剣その一つ一つが巨大。たった一本でも大地に亀裂を走らせるのには十分すぎる。


エレナは思った。

この力を凌げるのは現時点で聖剣の解放しかない。


しかし、時間が足りない。

この力を解放しても発動するのはあの無数の光剣が放射された後。


それじゃ間に合わなー



「エレナ様、聖剣をお使いください。あの神器は私が破りますが私の力を反転して自身の力に変える可能性があるので」



エレナの考えていたことを跳ね除けるようにチユは言った。

中指にはめている指輪には赤い光が宿っている。


エレナはその指輪を見て理解した。呪いの魔剣を使う気なのだと。



「それではチユさんがー」



エレナの言葉に首を振った。

その表情は困ったような、どこか憎めないような人を思い浮かべているような、そんな顔で言ったのだ。



「大丈夫ですよ。どこかのお節介な男が、半分引き受けてくれましたから」



その言葉を聞いてエレナは赤のジャージを着た少年を姿を思い出した。


そしてチユは無数の光剣に向けて天を仰いだ。


前面に突き出した指先が焼ける。

放出する魔力が指輪の中で衝突し、弾き合い、魔剣を形成していく。

その熱が指を容赦なく灼いていく。

血流が焼けるような感覚。



「これで終わらせよう」



光の剣は一斉に解き放たれた。

乱打する剣の群はまるで裁きのように降り注いだ。

数秒後に待っているのは確かな死。


そんな空を見てチユ・セルシアは懇願する。


初めて懇願する。


大嫌いな魔剣……力を貸して。


大切なものを守るために。

やりたいことがたくさんあるんだ。

これから……大切な人たちと。

諦めたくない、諦めたくない。

だからお願い。



「力を貸して!魔剣レーヴァテイン!!」



それは使うたび破滅に向かう呪われた魔剣。

昔は使うのが怖くて嫌でしかたなかった。

だって痛かったから。使うたびに痛みが増したから。

全身に痛みが走り意識を失うから。


でも今は少し違う。


今も嫌いだけど、以前のような恐怖はない。

だって、お節介で身勝手な男が……一緒に背負ってくれるから。


指輪から万物を破壊する赤き魔剣が姿を表した。



壊れる。

溢れ出す魔力は、もう抑えが効かない。

魔力が猛り狂う。

だが構わない。

後はただ目の前の全てを破壊すればいいだけなのだから。



「……な!?」



クォーツは予想外の出来事に驚きを隠せなかった。

驚愕は目の前に奔る魔力の流れに対してか。それとも出せるはずがないと思っていた赤き魔剣に対してか。



(そうか……私たちが預かりしらぬ所で使えるようになっていたか……情報量の差から防ぐことが出来ない手)



色濃い緋色の光を纏った魔剣をチユは両手でクォーツに向かって思い切り真横に薙ぎ払った。

赤き魔剣が吠える。

振り抜かれた剣線は弧を描き、描かれた弧は円になって禍々しい光を放つ。


魔剣VS無数の光剣


勝敗は語る必要はない。

魔剣は万物を破壊する力。

赤き魔剣は無数の光の剣を蹴散らした。


そのまま、万物を破壊する力はクォーツを破壊するかのように空へと昇っていく。

解き放たれた力に対してクォーツは回避する術はない。

もはや何人たりとも覆らない死の未来。


されど


それを覆してこそ双王……!


双王クォーツには反転の力がある。



「はぁぁぁぁぁぁ」



クォーツは魔剣の力を取り込み、自身の力に変換させた。

絶対的な死を凌駕し、さらに力を付けた。

限界などないかのように滾らせる魔力。

ぎしりと空間が軋みをあげる。



「これは……凄まじいな」


クォーツは信じなれないほどの魔力を感じとっていた。

それは自身の力ではなく、目の前にいる敵に対して魔力だ。



「神級魔法・レディアント・ロア」



そう第一王女・エレナ・フォンキャメロットが口にした瞬間。


何もかもが砕け、あらゆる物が再生した。


ー光が奔る。


眩いほどの光は壁となって境界を造り、世界を一変させた。

彼女の瞳は黄金色に輝いていた。


クォーツの目の前に広がるのは満天の世界。

空と大地が溶け合うように満天の星が輝いている。

水面がまるで天空の鏡のように満天を映し、夜空に立っているかのような感覚。

あまりにも幻想的で美しい光景に思わず息を呑んでしまった。


ここはエレナ・フォン・キャメロットの世界。

自分だけの法則を具現化させる魔法が神域に至ったもの。


新たな宇宙を創造する御業。


エレナの世界にいるのはこの世界の絶対者であるエレナ・フォン。キャメロットと双王クォーツのみ。



「……終わらせましょう。この世界で貴方を倒します」



満天の世界で、この世界の女王が敵に双王に向かって宣言した。



「ああ……いいとも」



双王は女王の宣言を受け止めた。



「はぁぁぁぁ!!」



その言葉に応じて駆け抜ける白銀の光。

エレナが裂帛の気合いとともにクォーツに斬り込んだ。

超光速の突き技と超光速の剣技がぶつかり合う。

反転により強化されたクォーツの技は速度も技もその全てが一線を画していた。

しかしそれはエレナも同じことだった。



「はっ!!」



クォーツの突きが輝点を刻み、流星のようにエレナの体を貫こうとする。



「……っは!!」



エレナはそのクォーツが放った輝点を全て弾き返す。

エレナも神級魔法のよるステータス上昇の恩恵を受けている。

この世界はいわばエレナの世界であるため、エレナの能力を遺憾なく発揮できる。

それだけではなく、自身の限界を超えさらに上へと昇ることも可能だ。


今の彼女はいわばゾーンになっている


互いの剣は相殺し、大気に火花を撒き散らす。

互いに何も考えていない。

考えれば体も心も立ち止まる。

だから前に進むだけだ。


だが、クォーツはこの剣戟の中強い違和感を感じた。



(……おかしい。この剣戟。私が押されている。おかしいのはその押され方だ。まるで動きが全て読まれているような)


(そう、騎士王との打ち合いを思い出させる)



今のエレナの動作予知は相手の攻撃を予測、予知するだけではなく


どうすれば避けられるか? 

どうすれば防げるか? 

どうすれば攻撃を当てられるか?


その答えを瞬時に導き出すことができる。


それは騎士王ジークハルトと同等の領域だった。



(こちらの方が圧倒的に分が悪い……!)



跳び退く体。

渾身の剣閃を紙一重で躱し、クォーツは更に後退する。



「逃がさないー!!」



クォーツを追撃するようにエレナは無数の小さな星をクォーツに飛ばす。

光魔法のミーティアだ。



(この魔法は知っている。これで対処可能なはずだ)



クォーツは同系統の魔法であるトリリオンで相殺しようとする。

彼の周りに数え切れないほどの凝縮した闇の塊が現れる。

これで全弾叩き落とす。

そう思っていたクォーツとは裏腹にエレナの放ったミーティアは彼の体を貫通した。



「っ!?」



体に数カ所穴が空いた。

なぜという疑問よりもまずいと思った。

どこをやられたかははっきりとは分からないが、壊れてはいけない臓器ところが壊れた。


そうクォーツは血を吐きながら思った。


エレナは自身の発動した魔法は絶対に命中するいうルールをこの世界の法則に書き加えた。

ゆえに彼女の発動した魔法は何があっても必ず命中する。

クォーツが展開すべきだったのはトリリオンではなく、魔力の纏化だったのだ。


そしてここからが神級魔法レディアント・ロアの真骨頂。



「これで……終わりです」



エレナはこの世界を宇宙空間そのものにした。

この世界はエレナ・フォン・キャメロットが絶対者であり、法則なのである。



「ぐ、ぐぉぉぉ!!」



クォーツの眼球と口腔粘膜から体液が強制的に蒸発し傷口から宇宙空間に曝された血液が沸騰を始める。

呼吸をしようとすれば肺は破壊され、体組織が崩壊し緩慢な死を迎える。

エレナ自身は特殊な結界を張りこの脅威を免れている。



(あぁ……これは……終わりだな)



ここは一つの世界。

なら逃げ道なんてどこにもない。

最早死に行く直前。

鼓動が小さくなっていく、肺はその機能を完全に停止していたからだ。

意識さえ白く浄化されていく。真っ白な時間。それは終わりが近いということ。


けど


まだ終わらない。

諦めなければ死なないかもしれない。

この空間にいる限りは死しかない。


ならば宇宙空間でも生存できるような何かに成ればいいだけの話だ。

彼にはその素質と可能性があった。

双王オキニスではなし得なかったことを双王クォーツは出来る。


しかし



(いや……このままでいい……私はもう疲れた)



双王クォーツはその意志がなかった。

弟オキニスのように生きたいという強い意志が。

たとえその素質があっても、可能性があってもそこに意志がなければそれは塵に等しい。


ゆえに双王クォーツは暗愚なのだろう。



「見事だ……ああ、さようなら」



そう言いながら双王クォーツは目を閉じた。





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