第139話 愚者の復活
「おやおや……ユウ殿はそちら側についてしまったか」
砂煙の中から片腕を失ったクォーツが現れる。
灼けつく傷、肉も削がれて骨が見え、人間ではればまず生きてはいない状態だった。
それでもなお、その表情は崩れない。
しかし、確かにユウ・ハイゼンベルグの神器・霊槍ロムルスはクォーツに損大なダメージを負わせていた。
「うーん……さすが双王。神器だけじゃ削り切れないか」
できればもう少し、ダメージを与えたかったのにとユウは霊槍を手にしながらため息をついた。
神器を使ってしまえば、魔眼が一定時間使用不可能になるからだ。
一撃必殺系統の神器の解放はそれまでに魔力を消耗する。
即座に二回目を解放できるのはイリエ王くらいであろう。
(だからせめて、瀕死まで持っていきたかったなぁ)
「仕方ない……少し、本気を出そう」
ここで初めて、クォーツから笑みが消えた。
クォーツは手のひらをエレナ達に向けた。
「ネガティブ・イグニッション」
クォーツの前方に闇の魔法陣が展開され、そこから全てを黒く塗り潰さんとする禍々しい闇のレーザーが照射される。
「セイクリッド・イグニッション!」
エレナはネガティブ・イグニッションに対抗するため光の魔法陣を展開させ、全てを照らし輝かせる様な光のレーザを照射させた。
全く同位の光がネイティブ・イグニッションを受け止めた。
お互いに一歩も譲らない光と闇のぶつかり合いに大気は震え上がる。
凄まじい衝突。
吹き荒れる烈風は大地を薙ぎ払う。
両者の力は今のところは互角。
拮抗している間にクォーツの隙を突こうと2人は駆け出す。
そんな2人の姿を確認したあと急にクォーツはネガティブ・イグニッションのを解除し始めた。
「なっ!?」
その行動にエレナは僅かに呆気に取られた。
その結果エレナのセイグリッド・イグニッションがクォーツに放たれるが
「使われてもらおう」
クォーツは自身にセイグリッド・イグニッションが届く前に両手を前に出し、光のレーザーを魔力の反転を使い、治癒と自身の強化した。
クォーツの力はあらゆる現象・力の反転。
それは魔力でさえ、その限りではないのである。
クォーツの狙いこちらからわざと魔法を放ちエレナに魔法を出させて、魔力反転を発動させるためだった。
一発でクォーツの片腕が再生する。
(……回復量と強化度を上げるため、威力を高めたネガティブ・イグニッションを放ったんだ)
エレナはそう確信した。
そしてすぐさま、クォーツは迫り来るチユに手を向け、その位置を反転させた。
「!!」
それにより、あと10メートルほどだったクォーツとチユの距離が500メートルほど離れる。
(私との距離を近いから遠いに反転させてこの距離に強制的に移動させたのか!!)
離された距離を取り戻すように駆けながら
「すまないが、逃すわけにはいかない」
ユウを狙った理由は一つ。
クォーツはユウが神器発動後は魔眼の発動ができないことを知っていた。
ユウは魔眼のない自分であればすぐに片をつけられるとクォーツに判断させれたのだと思った。
(でもそれは、無傷の場合なんだよね)
懐に入られまいとするユウと細剣を放ち間合いを詰めようとするクォーツ。
息もつかないクォーツの連撃をユウは捌く。
直線的な細剣の豪雨はユウの心臓を貫かんと繰り出される。
両者の戦いは周囲の空気を巻き込み、近づけばそれだけで切り刻まれそうだった。
互いの距離は縮まらない。
明らかに細剣をキレが落ちている。
霊槍のダメージが残っている証拠だ。
そうユウは確信した。
その刹那
ダン!!とクォーツは右足を前に力強く踏み込んだ。
ユウはそれを強烈な一撃のための踏みだと思った。
細剣に意識を集中させた。
反応が少しでも遅れたら、それは死。
「!! 違います!! 離れてください!」
チユの声と被るようにクォーツは地面から複数の魔法陣を展開させそこから闇の鎖を生み出し、ユウを完全に拘束した。
「っ!!」
その踏み込みは魔法を発動させるための踏み込みだった。
まずい、とユウは思った。
この鎖をちぎる前にクォーツの細剣が自身を貫く。
そう確信した。
ユウ・ハイゼンベルグの魔眼はまだ発動できない。
エレナとチユとの距離はまだ遠い。
「っ!! スパイラル・フレア!」
チユは螺旋のように渦巻く炎弾をクォーツに向けて放つ。
スパイラル・フレアは魔力を込めた分だけ、威力と発射速度が上がる炎の中級魔法。
クォーツはそれを予知していたかのようにスパイラル・フレア喰らい、魔力を反転させ、自身の傷を完全に回復させた。
そう、これもクォーツによって撃たせられた魔法。
その隙をついてユウは鎖を引きちぎり、大きく後ろへ後退した。
エレナ・チユ・ユウが双王クォーツとの間を開ける。
「さて……復活の時が来た」
その声はクォーツと思えないほど、低く、重く、圧を感じさせた。
クォーツに鬼気が迫る。
あまりの殺気に3人が息を忘れた。
そしてこの魔力量。
ここで勝負を決めにきたと理解させられたのだ。
そしてクォーツは裁きを下す審判者のように宙の舞い、見下ろし、言った。
「神器・解放」