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第136話 暗愚




グランドマスターの一人であるチユ・セルシアは一人走っていた。


向かう先は第一王女エレナ・フォン・キャロット達が双王クォーツと激闘を繰り広げている拠点だ。



『違げぇだろ!! お前のそれは覚悟なんかじゃねぇ!!』


『それは諦めだろうが!! 覚悟なんて言葉で着飾ってんじゃねぇぞ!! 覚悟っていうのはどんなに辛くたって! しんどくたって!! 絶望的だとしても!! 心を震わせ、立ち向かうって意味だろうが!!』




チユは双葉イツキに言われた言葉を思い出し、涙を流す。


悔しかったのだ。


イツキの放った言葉に何も言い返せなかったことが。



(いつもは頼りなくてへなへなっとしているくせに!)



あの言葉は力強くて、その姿はとても堂々をしており、そんなイツキが放つ気迫にチユは思わず「う」と押されてしまったのだ。


悔しい。


でも一番悔しかったのは双葉イツキなら騎士王に勝てるかもしれないと思ってしまったことだ。


それは自分では騎士王には勝てないと心の底から思っていたということ。


それに。



(俺が勝手に背負う……本当に身勝手! 嫌い嫌い嫌い!!)



魔剣の媒体である指輪を見ながらチユはそう思った。

もうすぐ、拠点に着く。


剣戟の轟音と眩い魔力の衝突が近づいている。


覚悟を決めたからには生き抜いて、進み続けてやる。

そうチユ・セルシアは決めた。



(エレナ様!!)



チユが拠点に駆けつけるとそこはまさに戦場だった。

次から次へと息つく間もない猛攻が繰り広げられていた。


聖剣と細剣。

一瞬にも満たない速度の剣戟は互いの制空圏の攻め合いに近い。

それは達人同士の打ち合いと言っても過言ではない。

クォーツの残像さえ霞む高速の鋭突。

一撃ごとにエレナの斬撃を弾き、押し留めているクォーツの細剣は一刺しでさえ必殺と言えるだろう。

チユは同じグランドマスターであるユウ・ハイゼンベルグの言葉を思い出していた。


(あれのどこが暗愚……!!)



「っはー!!」


「っー!?」



繰り出された一撃は、先程の鋭突よりさらに加速した。

そればかりか鋭さ、威力も際限なく上がっていく。

息もつかぬ苛烈な連撃を捌くことは決して容易ではない。

エレナは今の所は全弾撃ち落としてはいるがこのままだといずれ……


チユ・セルシアは位置的にクォーツの後ろにいる。

このまま背後を狙い、エレナと挟み撃ちのような形でこの剣戟を制することが出来る。


しかし

隙がない、入れない。間合いに入れば死ぬ可能性もある。

達人同士の制空圏に踏み込むと言うことは死を意味していた。



(……それでも!)



チユは剣を握り、制空圏の間合いに入った。

針の穴を通すような完璧なタイミングでチユは双王クォーツに一撃を放つ。



「!!」



クォーツは寸前で姿を消した。



キィィン!!


強烈な金属音とともにエレナの聖剣とチユの剣が激突し、互いの威力を抑えこみ、交差状態で静止した。



「ふむ……増援か。困った困った」


「「!?」」



空から声がした。

見上げたエレナとチユは驚愕する。

たった今、目の前にいた剣戟を繰り広げていたクォーツは空高く浮いているからだ。

双王クォーツはそう言葉に出してはいるが、その表情は微笑んでいるように見える。

双王クォーツは3人を相手にしていながらも息すら上がっていない様子だった。


ひとまず、エレナとチユは大きく、後退しリンカとコウヤのもとへ合流する。



「……エレナ様、持ち場を勝手に離れてしまい、申し訳ありません」


「いいえ。チユさんにも何か事情があったのでしょう?」


「……はい」


「それにしても、吹っ切れたいい顔をしていますね。何か用ことでもあったんですか?」


「え、そう……でしょうか?」



チユ自身そんな自覚はなかったのだが、もしそうだとするならと赤のジャージを着た男の顔が浮かんだ。



(いやいや……そんな……ないない)



チユはすぐにその男の顔を消した。



「おい……魔剣女。お前に説明しなきゃいけねぇことがある」



そんなチユにコウヤが話しかけた。



「手短に行くぜ。あいつの力はあらゆるもの・現象を反転する」


「……反転」



(なら先程の瞬間移動のようなものは自身の位置を地から天へと反転させたのか)



となるとチユはさらに深考する。

反転させることができるのは本人の認識や発想次第といったところではないかと。

そうなるとこの上なく厄介な能力だ。



「来るぞ」



コウヤの言葉を聞いてクォーツを見るといつの間にか地上に降りていた。

周りに数え切れないほどの凝縮した闇の塊が浮遊している。



「こんなことも出来るぞ。闇魔法・トリリオン」



無数の一斉に闇の塊をエレナ達に放った。



「ミーティア」



それに対抗するようにエレナは小さな星のように輝やく光の球を光速でクォーツに飛ばす。


互いの魔力がこえを上げる。

互いの存在を射殺せんと大気を滑る。


交差する光と闇


数多の星と闇が

凝集し

疾走し

衝突し

消散する。


無数の闇と星の激しい撃ち合いが始まった。



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