第134話 双王の鉄槌
双王オキニスはあらゆる受けた痛みやダメージを限界まで蓄積して一気に放出する能力を持つ。
あまりの魔力に大気が悲鳴をあげている。
大地が震撼している。
誰もが思った。
これが双王オキニスの奥の手だと。
勇者リリスは思った。
あれが双王オキニスの切り札であればこちらも……と。
聖剣を握る手が強まる。
「……はぁ。しょうがないわね」
そんな勇者リリスの前を賢者であるリンが立つ。
「……リンちゃん?」
リリスの言葉にリンは振り向いて言った。
「多分双王はこの一撃に勝負を決めてくるはず。あいつの最後の一撃は私がなんとかするわ……だから、あとは任せたわよ」
「いや、ここは私の聖剣の力でー」
「だめよ」
「!!」
リリスの言葉リンは遮るように続ける。
「威力が高い魔法である天級魔法でさえ、やつを削り切ることが出来なかった。なら、双王オキニスの再生を凌駕できるのはあなたの神級魔法しかない」
「…………」
「それを、今ここで使ったらそれでこそ勝てないかもしれない。だからここは私一人でなんとかしてみせるわ」
リンの言葉に続いて聖女ユメの手あげる。
「大丈夫だよ〜ここにいるみんな、私が絶対に死なせたりなんかしないから」
ユメはそう言っていつものように笑ってはいるが、汗をかいて息が乱れている。
ユメの治癒魔法の生命の権限によって膨大な魔力を消費していた。
それはそうだ。双王オキニスとの戦いでリリスとルイは即死級の攻撃を何回も受けている。
それをなかったことにするレベルの超高速治癒をユメはやっていたのだ。
魔力枯渇で意識を失ったり、最悪の場合死に至るとこだってある。
それに生命力を使ってしまう危険だってある。
この状態で再び生命力の権能を発動し続けるのは危険すぎる。
リンに至ってはあの禍々しいほど猛っている魔力を一人でなんとかするのは無茶というものだ。
そう二人とも、無謀ともいえる賭けをしているようなもの。
止めるべきだとリリスは思った。
「そんなことー」
『みんなが自分の命を懸けて大切なもののために戦ってる。だからさ、ここにいる奴ら全員が俺にとっては勇者だよ』
(ーあ)
賢者リンと聖女ユメを止めようとして出した言葉が途切れた。
リリスは双葉イツキの言葉を思い出したからだ。
私たちは何だ? と心に問いかける。
私たちは勇者パーティーで友達……じゃない戦友だ。
仲良しごっこをしているのではない。
命を懸けて戦っている。
リンとユメは自分を信じて、託そうとしてくれている。
なら、今自分のやるべきとこは止めることではないはずだ。
そう、勇者リリスは思った。
「……うん。リンちゃん、ユメちゃん……ここは任せた。でも、これだけは言わせてほしい」
だから、リリスは聖剣を強く握り、一歩前に進む。
「絶対に生きて帰ろう。私たちのホームに」
「……!!……本当に、あなたは頼もしい勇者になったわね」
「だね〜」
その勇者リリスの姿にリンは微笑みながら魔力の纏化を行ない、ユメは頷きながら生命の権限の細かな調整に入った。
「行くぜ……これが俺の切り札」
体を完治させたオキニスは全力で跳躍し、4人を見下ろした。
「双王の鉄槌」
双王オキニスの膨大な魔力は風を巻いてオキニスの魔力が灼熱する。
収束し、臨界に達する魔力の巨渦。
まるで黒色の太陽のような「双王の鉄槌」は黒い光を流出させ、名の通り、鉄槌のように下された。
「これで……全員消えろぉぉぉ!!」
「そんなこと!! 絶対にさせない!!」
オキニスの鉄槌をリンは受け止めた。
「うオオオオオオオオオ!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
強烈な一撃に体が沈む。
リンは魔力の纏化で防御力を高めて、自身の魔力をオキニスの拳に流し込むとこにより、鉄槌の威力を削っていた。
「っぐ!!」
リンの視界がブレる。
身体中の神経が踊り狂う。
弾け、散りかねない自身の意識を強い意志で必死に押さえつける。
「はっ!! 無駄ぁ!!」
まるで魔力の濁流だ。雪崩れだ。
そんな鉄槌を賢者リンは両手で受け止めている。
両手は破壊と再生を繰り返し、筋肉と骨が露出していた。
血も止まらない。
とても痛々しい両手。
跳ね上がる痛みに襲われる両手、
消しゴムで消すかのようにジリジリと体も心も削り続けていく。
しかし
「っるさいわね!! 無駄かどうかはなんてあんたが決めることじゃない!!」
二人の視線が交差する。
賢者リンの瞳は希望に満ちていた。
(大丈夫。ここで私が粘れば、リリスたちが必ず双王を倒してくれる!! だから……意識のある内に削れ!! 削れ!! こいつの魔力を!!)
「しねぇぇぇ!!」
双王オキニスの鉄槌が全てを存在も塗りつぶし、破壊し、消し去る。
地域一帯を闇が支配する。
強烈な黒い光。そしてあたりの空気を纏わせる轟音と共に辺りは爆裂した。
凄まじい威力に地面が抉れ、爆風が爆煙を生み出す。
「ふぅーこれだけやったのにあと死にかけが二人……か」
魔力を解き放ち、一帯を崩壊させたオキニスは首をポキポキと鳴らしながら言った。
砂煙が晴れ、立っていたのは双王オキニスと瀕死の状態の勇者リリスと剣聖ルイだった。
賢者リンの削りと聖女ユメの治癒魔法がなければ全員が即死していた。
塵すら残らなかっただろう。
リンは意識を失ってはいるがかろうじて生きている。
「……なんとか……なったねぇ〜」
「……ありがとうユメちゃん……命懸けで守ってくれて」
「へへー……だってさ……みんな大事な命だもん……命くらいかけられるよ」
聖女ユメはリリスにそう言って意識を失った。
「リリスちゃん私が時間を稼ぐから……!!」
剣聖ルイの体も限界に達していた。
関節が硬い。
手足を曲げると激痛が走る。
気を抜くと呼吸すら忘れてしまいそうだ。
足も痛い。
心臓が痛い。
心が、身体が止まりたいと叫んでいる。
それでも剣聖ルイは剣を握り前へと進む。
「うん……お願い」
ルイの言葉を聞いてリリスは一気に集中力高めた。
リリスが聖剣を騎士の様に両手で前に掲げた瞬間、淡くそしてどこか暖かさを持つ黄金色の粒子が収束される。
それを瞬間オキニスは理解した。
聖剣の担い手のみに使用を許された神級魔法を使う気だと。
「させるかよー!!」
リリスを止めるために動きさすオキニスの前に剣聖ルイが立ちはだかった。




