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第133話 双王オキニス



「さーて……あと半分だなぁ!!」



勇者リリスと剣聖ルイを下し、オキニスは賢者リンと聖女ユメの姿を観察する。思考する。


賢者リン……魔法を使っている様子なし。ただ、この距離だと詰める前に何かしてくる可能性あり。

聖女ユメ……細い短杖を持ってはいるが一切の動きなし。だが、何かをしようとしている。



(先にやるなら聖女だな……何をしているのかがわからんねぇ……それが危険だ)



「聖女〜何してんーの?」



聖女ユメに狙いを定めた瞬間、ユメは能天気な口調でしかし、最後の一言は真剣な声色で言った。



「ん〜? してるんじゃないよ〜? もうしたんだよ」



聖女ユメの言葉と共に八王城から吹き飛ばされたリリスがオキニスに向かって疾り出した。

弓矢のように疾く、一直線に、敵を貫く為に。



「はぁぁ!!」


「マジか!? クッソ!!」



オキニスは一瞬驚いた表情をしていたが、心ではクレーバーに臨戦態勢に入っていた。

20メートル。

この距離であれば十分カウンターが可能だ。

また内部を破壊してやる。そう心の中で笑い、タイミングを図った。


その瞬間



「エアプレッシャー」



賢者リンがそうはさせるかと言わんばかりに土属性の上級魔法を放った。


オキニスの周囲に重力場が形成され、容赦なく押し潰しにかかる。

オキニスの動きが一瞬止まった。

そのせいで完全に見切りのタイミングを図り損ねた。

カウンターとは完璧なタイミング・完璧な姿勢で成り立つ。



「っが!? こんの……くそ賢者がぁ!」



その両方を崩されたオキニスはリリスへの対応をカウンターから聖剣との撃ち合いに変更せざる得なくなった。

咆哮でエアプレッシャーは消し飛ばしリリスの聖剣を魔力を込めた拳で受け止める。



「せぇぇぇい!!」


「せあああああ!!」



魔拳と聖剣を打ち合いが始まった。

圧迫感と凄まじい鬼気を纏った拳と練り上がられた剣技がぶつかり合う。

互いの一撃を的確かつ最小限の動きでパリィする。

痺れるような衝撃、少しでも隙ができると鋭い一撃を浴びせてくる。



「おいおいーなんで動ける〜? 確実に臓器全部を内部破壊してやったのによー? 普通はなぁ〜? 即死済んだけどなぁ〜?」


「っ!! 答えちゃ駄目だって言われたので!!」


「……つれねぇなぁ!!」



乱打の嵐が勇者リリスを襲う。

それを予知動作で全て弾き、一息で瞬く間に5連撃を繰り出す。

オキニスの拳は破壊されるが瞬時に再生する。

渾身の一撃を5連炸裂させてもあともう少しのところで届かない。




(っ!! もう少しのところで斬り込めない! もっと深い一撃じゃないとすぐに再生される!!)



打ち合いは泥沼になり、リリスの攻撃の型もオキニスに先読みされるようになってきた。

どれだけリリスが正確で強い一閃を繰り出しても同じく正確で鋭い技を返される。

少しずつ、双王オキニスの武術と勇者リリスの剣術の実力差が開いてきた証拠だった。



(……ふーん……こいつ、俺の動きをある程度予知してやがるな? じゃねぇと何発かは致命傷を負っているはず)



それに、オキニスの拳は何発かリリスの体に傷を与えているが、その傷は瞬時に回復する。



「やるじゃねぇか……でも」



オキニスはリリスの両腕を使った斬撃を左手で弾き返し、火花が散る。

大きくのけ反ったガラ空きになったリリスの腹部に狙いを定め、拳を強く、強く握った。



「じゃあな」


「っ!!」



オキニスの鋭利な右拳がリリスの腹を深々と食い込んだ

そのままその拳は彼女の体に大きな穴を開けるために力を入れる。

その刹那、閃光と呼ぶべきその一太刀がオキニスの拳を斬り落とす。



「!! ルイちゃん!」



リリスの体が貫通する前にオキニスの拳を叩き斬ったのは剣聖ルイだった。



「ごめん! 遅くなった!」



その体は数分前に致命傷を受けたようには見えないほどほぼ無傷だった。


双王オキニスは一瞬で思考する。


おかしい。

勇者リリスと剣聖ルイ二人とも一撃で数多の臓器を一瞬で同時に内部破壊した筈だ。

一撃を当てた時、確かな手応えも感じた。

常人であれば戦うどころか生きてすらいない。


であれば……可能性はたった一つ。


聖女ユメ。


治癒魔法は自身の魔力を治癒の力に変換させ、他者に流し込む魔法。

対象者に触れる必要があるはずだ。



(というか、治癒魔法ごときでなんとかなる範囲を超えているんだよなぁ)



オキニスは可能性の一つとしてある考えに行き着いた。

聖女ユメは2人……いやここにいる全員に治癒魔法を付与している。


傷を負うと瞬時に回復するとかそんな系統の。

しかし、それは治癒魔法の領域を超えていた。



(治癒? おいおい冗談きついぜ……それはもう再生だろうが!)



オキニスの考察は正しかった。


聖女ユメは自身が独自に編み出した治癒魔法・生命の権限。


効果は対象の者に随時癒しの力を授けるというもの。

たとえ爆撃を受けようとも、内蔵が全て破壊されようとも即死級の魔法であったとしても傷を負った瞬間から傷を癒やす。

その異常な速度はまさに再生魔法と言える。


事実上、彼女が生命の権限を発動させている間は誰も死ぬことはない。

聖女ユメの治癒魔法は圧倒的な力を持つ八王に対抗できる大きな理由の一つである。



「はぁぁぁぁ!!」


「たぁぁぁぁ!!」



全身からほとばしる叫びと共に勇者と剣聖の猛攻が始まった。

二人は僅かな動きでどのような斬撃を繰り出すか把握し、自分も技を出して互いが斬り合わないように動く。

鋭い一閃が次々と絶え間なく、オキニスに襲いかかる。

斬撃が疾走し

懐・側面・視覚外へ

怒涛の連撃をたたみかける。



「ちぃ……!!」



腕が吹き飛ぶ。

弾く

両手が真っ二つになる。

弾く

胸を切り裂かれる。

弾く



(流石に二人掛りとなると余裕がなくなるな……!)


双王オキニスも防御を強いられ反撃を許されない。

オキニスの再生速度を二人の剣が追いついてきている。

このまま、打ち合いを続けていてば追いつかれる。


ただし、それは真面目に打ち合いに付き合っていればの話だが。



「けどこれじゃ……俺には届かねぇぞ!!」



激しさを増す波状斬撃に対して深く、腰を溜めた。

二人の怒涛の連撃の前では生半可な反撃は許されない。

ゆえに双王オキニスは本気を出し全神経を集中させた。

それは一瞬しかし、永遠にも感じる。


トップギアにシフトしたクォーツはほぼ同時に百発の乱れ打ちを放った。


それは一瞬の閃き。


その拳は尋常じゃないほど加速し、威力を増大させ、オキニスの魔力の残光が疾った。


「ぐっ……!?」


「うっ……!?


発生する衝撃を風圧、二人とも致命傷はなんとか避けたが、意識を失い吹き飛ばされた。



「時間の無駄だ!!」



「いいえ、無駄じゃないわ」



オキニスがリリスとルイを吹き飛ばした瞬間、彼を中心に魔法陣が展開された。

そこで初めて彼は気が付いた。


天が蠢いていることに。

地域一帯の上空には雷鳴轟く巨大な雷雲が発生している。



「天級魔法・天命万雷」



雷雲を引き裂くように。

神の裁きのように。

地を焦がす万雷はまるで豪雨のようにオキニスに降り注がれた。





「……やった……かな?」



天級魔法を放ち終えた後、ルイは言った。



「……これで終わって欲しんだけど」



双王オキニスは再生能力を持っている。

そんな双王の倒し方は2つあった。


一つは再生すら追いつかないほどの連続攻撃を繰り出す。


もう一つは再生すら間に合わない強烈な一撃を放つ。


連続攻撃の方はリリスとルイが二人がかりの猛攻でもオキニスは対応してしまった為候補から外れた。


だから、リンは天災級も魔法を使って一撃で片をつけにいったのだ。


もし、「天命万雷」でオキニスを倒すことが出来なくても再生にはかなりの魔力を消費するはずだ。

実際、オキニスはリリスとルイがダメージを与えてくれていたおかげで体を再生に多くの魔力を使ってしまっていた。


これでやつの魔力が底を尽きてくれれば……ほぼ勝ちは決まったようなもの。

そう賢者リンは考えていた。



「おいおいおいおい!! なんだよこの魔法!! 天級魔法かぁ!? 痛ってぇーじゃねぇか!!」



声が聞こえた。


4人全員が正面を見て驚愕した。


それは


双王オキニスが生きていたことではない。

オキニスの姿がおぞましいことではない。

彼の体が急速に再生されていることでない。


4人は双王オキニスの放つ桁違いの魔力に驚愕していたのだ。






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