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第131話 勝者



「よっと……さて〜戦況はどうなってるかな〜?」



魔王幹部である八王を束ねる覇王プライド・ノアは魔王城を離れ戦場に来ていた。


最も気になった対戦カードである双葉イツキVS騎士王ジークハルトの結末を確かめるために丘の上に向かって歩く。


ふぁ〜と緊張感のない欠伸をしながら歩いた先に映った光景は右腕を失い倒れている双葉イツキと左腕を失いながらも立っている騎士王だった。


その光景は戦いの結末を表していた。



「……覇王か」



プライド・ノアは自身に気が付いた騎士王に軽く手を振る。



「覇王、わたしはこのまま撤退させてもらう」



そんな言葉が騎士王から出てきて覇王は目を白黒させる。



「なんで? イツキ少年との戦いには勝ったんだからそのまま双王と協力して戦うんじゃないの? そういう話じゃなかったけ?」


「……ああ、ゆえにわたしは撤退をするのだ」


「……? 騎士王さん? 俺にもわかるように説明してくんない?」



覇王は訳分からなかった。


いや、勝ったんだから撤退する必要ないじゃん。


覇王の考え通り、双葉イツキは戦闘不可能の状態になっている。

なんなら心臓も潰されているし、命すら危ういだろう。


それに比べ、騎士王は片腕を失っているもののピンピンしている。


もはや勝者は人目瞭然だ。


それに片腕だったとしても騎士王は強い。


それに今回は双王もいる。


3人で協力すれば十分勇者パーティ達とも戦えるはずだ。



「……最後の最後、わたしは双葉イツキと騎士王ジークハルトとしてではなく、剣聖ジークハルト・ハーレクィーンとして戦った。この剣を賭けて」


そう言いながら騎士王は折れてしまったぼろぼろの剣を覇王に見せる。


その剣は生前ジークハルトが生涯使っていた愛剣だった。



「結果、私の剣(信念)は折れ、彼の剣(信念)は折れなかった。それどころかこの左腕も持っていかれた」



(……嬉しそうに話すじゃん)


そう思いつつ覇王はタバコの煙を吐いた。



「最後の最後で彼は私の上をいった。見事な一撃だった……これ以上の敗北はないだろう」


「だから、撤退する……ってこと?」



覇王の言葉に騎士王は頷く。 


剣(信念)を賭けてしまった以上それに従うのが剣聖ジークハルト・ハーレクィンという男だった。



「……どうして、そんなことをした? 俺の知っている騎士王ジークハルトはそんなことはしない男だ」



今ここにいるのは剣聖ジークハルト・ハーレクィーンではない。

騎士王ジークハルトだ。

本人も言っていた通り、彼は剣聖ジークハルト・ハーレクィーンを捨て騎士王ジークハルトとして武を極めている。


ゆえに覇王にとって彼の口から剣聖ジークハルト・ハーレクィンの名が出てきたのが驚愕だった。


騎士王ならばそもそも肺を潰した時点で例え立ちあがろうとも勝負は終わっているとそう言いながら立ち去っていたはずだ。


むと一点を見つめ、騎士王は兜を触る。

これは考え事をしているポーズだ。



「……双葉イツキとは剣聖ジークハルト・ハーレクィンとして戦いたかった。そう心から思わされてしまった……そうだな……なんというか熱くなったのだ」


騎士王は言葉を探りながら自身の気持ちを声に出す。

満足していなかったのかいや、それだけではないなと言葉を続ける。



「……最後の勝負で、奴の信念を折ることによって……証明したかった。俺はお前より強いと。そう言いたかった」


「!! そっか……クク」



その言葉を聞いて覇王は思わず笑ってしまった。


「……幼稚だということは十分承知している」


そう騎士王は吐き捨てた。



「いや、悪い……意外だと思って……まぁ、人の原動力なんて大抵は幼稚なもんさ」


そう言いながら覇王は双葉イツキの状態を確かめる。


瞳は朧げながらもその光を失っていない。

呼吸も……微かで不安定だがまだしている。


まだ、死んでいない。


それとー


「……へぇ」


覇王は面白そうに笑った。



「騎士王、どうやらこの少年はまだまだ死ぬ気なんてさらさらないようだぜ?」



双葉イツキは自身に治癒魔法を使っていた。

ゆっくりではあるが、双葉イツキの体の傷は癒えている。

このままだと確実に死ぬが、治癒魔法を扱える者がくれば助かる可能性はある。


覇王は双葉イツキの手に触れ、彼の過去を覗き見る。



「……なるほど。勝ったら合図の打ち上げね」


覇王は手のひらに眩いほどの球体を生み出し、空に打ち上げた。


空高く落ち上げられた光は



バァゴオオオオオオオオオン!!


と強烈な爆音とともに大爆発を起こす。

目が眩むほどの光が夜空を照らした。


それはまるで双葉イツキの勝利を祝福し知らせる花火のようだった。


「ま、俺もこの少年は気に入ってるし……な」



そう言いながら覇王は双葉イツキの顔を見る。



「さて、帰ろっか」


覇王は次元を歪め、魔王城へのゲートを開いた。


騎士王は覇王の言葉に頷き


「我が友、双葉イツキよ。機会があればまた会おう」


そう言いながらゲートへと入って行った。



「なぁ、イツキ少年」



覇王は双葉イツキの顔を覗き見て言った。



「お前がここで踏ん張ったおかげでここから先は未知の未来になる。何が起こっても不思議じゃない。さらに過酷な展開になる。確実にな。エレナ・フィン・キャメロットの死ぬ未来はより確実なものとなるだろう。いや……最悪全員死ぬかもな」


それでもと覇王は言葉を続ける。



「一番大切な人も大切なもの両方……たとえ、それが無謀だとしても周りに無理だと言われたとしても、絶望で心が折れてしまっても、足掻いて足掻いて、絶対に守り抜く。お前が言った言葉、ちゃんと覚えてるぜ? だからさ」



「最高で理想的な未来ってやつを俺にも見せてくれ」



そう言って覇王はゲートに向かって歩き出す。



「期待してるぜ。イツキ少年」



そして覇王と騎士王はゲートとともに姿を消した。







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