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第130話 双葉イツキVS剣聖ジークハルト・ハーレクィン



ーあ、れ?


バエルが泣きそうな顔をしながらこちらに向かってくる。


だけど、その途中でバエルの姿が消えた。


ーなぜ?


「……あ」


ここでやっと気がついた。


右腕がない。

身体に穴が空いている。


騎士王ジークハルトの剣が血で染まっている。


「ごほっ」



そう知覚した瞬間、血が喉を駆け上がり、血反吐を吐いた。


心臓が……貫かれている。

生命活動が……維持できなくなる。


つまり、致命傷だ。


完全な致命傷、覆らない決定打。


敗北どころか、死亡も目前。

やけに時間が、空間がゆっくり進んでいっている気がする。


「双葉イツキ……聞こえているか?」



騎士王の声が聞こえる。



「私は……人を捨て、アンデットとなり……いや、剣聖ジークハルト・ハーレクィンを捨て騎士王ジークハルトとなり、初めて本気戦った。全力を出して戦ったと胸を張って言える」


「剣士というのは本気の死闘を繰り広げることによって限界を越え、強くなる。つまり私は剣士として停滞していたのだ。だが……あの瞬間、私は己が限界を越えることができた」


騎士王は言葉を続けた。



「双葉イツキ……聞こえているか?」



「お前と出会えて、戦えてよかった……ありがとう」



それは感謝の言葉だった。



「安らかに眠れ。我が友よ」



前に倒れようとしている俺に騎士王はそう言って後ろを向き歩き始める。


ああ、地面が近づいてくる。


体が倒れているんだ。


まずいな……意識が薄れてきた……


終わる。

終わる。

終わる。


眠たい。


ならーもうーこのまま目を瞑ってしまえばー



『私だってーまだ死にたくない!』



女の子の声が聞こえた。視界にノイズが走った。



目の前で金髪の女の子が泣いている。

何を約束した?



『大丈夫です』



そう言って震えた手を握ってくれた少女の笑顔を思い出す。


ああー



ここで倒れたら……どうなる?


馬鹿みたいに笑った……あの4人で……あの夜……

そして、魔剣に呪われた少女の泣いた顔……


生前からの親友達、レギス・チェラム、グランドマスターのみんな、リリス達勇者パーティーのみんな。


そしてエレナ・フォン・キャメロット。


この世界に来て、俺の居場所がどんどん増えていく。

ああ、そうだ……俺の周りにたくさんの人達が来て今、やっと本当に楽しくなってきたところなんだよ……


次々と思い出す……俺が戦う理由を。


あ、ああああー


今ここで倒れたら……ぜんふ、全部失う……

あの時のように……


それでいいのか? お前は? 本当にそれでいいのかよ!?


守りたいんじゃねぇのかよ!?


俺にはこんなにも死なせたくない人達が……大好きな人達がいるじゃねぇかよ!!


負けられねぇ理由がたくさんあるじゃねぇかよ!!


だったら双葉イツキ!! お前は!!


こんなところで、死んでる場合じゃねぇだろうが!!



「オオオオぉおおおオオオオオオオオ!!!!」



腹から声を出す。

倒れ込む寸前、右足を前に出し、踏ん張った。


これは雄叫びだ。


騎士王にまだ終わってないことを知らせる雄叫び。

そして自身を鼓舞する為の雄叫び。


お前は!!


あの夜何を約束した!?


お前はエレナに最高の未来を見せてやらなきゃなんねぇだろうが!!



「ジークハルト・ハーレクィン!!」



ジークハルト・ハーレクィンはその足を止め、俺の方へ向いた。

兜で表情こそは見えないが、驚愕しているように感じる。



「貴様、まだー」


「おい……どこ行こうとしてるんだよ……これは……俺とお前の戦いだろうが!! 俺の剣はまだ折れてねぇぞ!!」



そうだ……片腕なんかなくなっても戦える。

心臓なんか潰されても戦える。

この魂が……燃える限り戦える。


それが双葉イツキという人間だ!!



「……………!!……見事だ。私は勝手に決めつけてしまっていたな。非礼を詫びよう」



騎士王は俺に頭を下げて、二振りある剣のうち一本を俺に手渡ししようとする。

おそらく、この剣を使って最後の勝負をしようということだろう。


俺が持っていた剣は随分遠くにあるからな。


そこまで行く力は俺には残されていない。



「これは、我が友、ハーレクィンが使っていた剣だ」



ハーレクィンの剣を受け取る。

これは騎士王の切り札だったはずだが。



「……俺なんかが、使っていいのか? これは……剣聖ジークハルト・ハーレクィンが闘ってきた証なんじゃないのか?」


「……ああ、そうだ。だから、お前に預ける」



ジークハルト・ハーレクィンの剣を受け取った。


熱を感じる。



「……我が名は剣聖ジークハルト・ハーレクィン。双葉イツキ。互いの剣(信念)を賭けた勝負を所望する」



これは宣言だ。

騎士王ジークハルトとしてではなく、剣聖ジークハルト・ハーレクィンとして戦うという宣言。



「……ああ、受けて立つ」



誓いのように二つ錆びたの剣が交差する。


ここからは言葉は不要だった。

互いに距離を取り剣を構える。


これは最後の一手。


時間が止まる。

思い出す。


剣聖ルイ・オルテシアの神速の居合いを。


極限まで足に力を溜め、一息分の呼吸をし



「ーっ!!」



踏み込んだ。

限界以上の踏み込み、ジークハルト・ハーレクィンに向かって突撃する。



「!!」


俺の居合い一閃に対してジークハルト・ハーレクィンの反応が一瞬遅れ、攻撃ではなく防御体制に入った。


それはほんの一瞬、ほんの少しだけ、俺は初代剣聖の全てを凌駕した証拠だった。


ああ、それで充分だ。


左腕を振り上げ、全身全霊の一撃を叩き込む。


互いの剣が衝突し、火花が散り、二人の顔を一瞬明るく照らす。



「オオオオオオオオオオ!!」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



ここからはだたの力比べ。


腕の力だけじゃダメだ! 全身の力で!!

頭のてっぺんから、足の爪先まで使え!!


渾身の一撃じゃ届かない!!


力! 信念! 命! 理想!! 捻り出せ!! 込めろ!! この剣に!!


全部!!


この一瞬以外、過去も未来も何もいらない!!


だから……頼む!! 届けさせてくれ!!


一人ではない! この戦い!!



「届けぇぇぇぇぇぇぇぇ!」



その瞬間、ジークハルト・ハーレクィンの剣が折れた。



「!!……見事なり」



俺はジークハルト・ハーレクィンを叩き斬った。


ジークハルト・ハーレクィンの左腕と折れた剣が夜空を舞う。


あと、一撃……!!



「ーぁ」



ここにきて俺の体の限界が……いや、限界を越えた代償がきた。

力が入らない。

体が倒れる。


当然だった。


だって……俺の体は致命傷を受けているのだから。


ジークハルト・ハーレクィンは倒れ込む俺の体を正面から受け止めてくれた。



「我が友よ、この戦い。騎士王ジークハルトの勝利だ」



失いそうな意識を必死にかき集める。


まだ……だ。

くそ……動け。

まだ戦えるはずだ。


足掻け、足掻け……!!



「そして、剣聖ジークハルト・ハーレクィンの敗北だ」



……え?



俺を支えてくれている片腕の剣士は確かにそう言った。






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