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第128話 本気出す






前を向いて歩いていたら、誰しもが「それ」を避けては通れない時がある。

男なら、尚更「それ」を避けては生きていけない。 


おれは生涯「それ」から逃げないようなカッコイイ奴でいたい。


「それ」とは勝負。


そして、その「勝負」はいつだって必ず勝たないいけないものばかりだった。

いや、負けていい「勝負」なんかありはしないんだけど。


鼓動が速くなる。

息を吸うのを忘れる。

自分で心臓から血液を送り出す勢いが激しくなっているのが分かる。


本気の瞬間はいつも嬉しさと期待と不安と震えるほどのやる気と逃げ出したくなるほどの臆病風が押し寄せてくる。


俺は今まさに「そこ」に立っている。


身体はボロボロだ。

ここまで来るのにちょっと無理したからな。

けど、身体の奥が熱くてたまらない。


目の前にいるのは騎士。

爛れた高級騎士鎧を身につけ、血に汚れたマントをたなびかせている。


今日は本以前とは違い、錆びた持っている長剣の他にもう一本剣を腰に身につけている。


その堂々とした姿はまさに騎士王。


「騎士王ジークハルト。参る」


騎士王は錆びた剣を構え地面を抉った。

音を置き去りにした超高速の居合い斬りが俺に襲いかかる。


強烈な金属音と火花と共に騎士王の剣を弾く。


これは始まりの一撃。


そこから騎士王の猛攻が始まった。

必殺の連撃が絶え間なく襲いかかる。


全ての剣撃がこの前とは比較にならないほど、速く、強く重かった。


この戦いを待ち切れなかったいう激情が騎士王の剣から伝わってくる。


エレナから教わった動作予知のおかげで全ての攻撃に対応出来てはいるが、反撃ができない。


防戦一方だ。


それじゃダメだ。

エレナの言葉を思い出せ、太刀筋を見ることだけじゃない。

次の動作のことも考えろ!!


全神経を集中させろ。

次の動作までの余裕を作れ。


騎士王の斬撃を最小限の動きで弾いたその瞬間、剣を振る速度を一気に加速させる。


キィン! と甲高い金属音が3連続で響いた。


瞬時に加速させた3連撃は騎士王に容易く全て防がれてしまった。



「っ!!」



わかっている。

そんな簡単に俺の剣が届くはずがないんだ。


ばっと左手を騎士王に向けて出した。


そしてそこから魔法を発動させた。

魔法自体は風の初魔法で風による衝撃波を叩き込むというものだ。


騎士王は動じることなく、防ぐくこともなく衝撃波を喰らった。

おそらく、自身にとっては殺傷力がないことを見抜いていたのだろう。


まさにその考えは正しく、騎士王には一切のダメージを負っていなかった。

後ろに吹き飛ぶこともなく、一ミリもその場から動くことなかった。


まぁ、天災級の魔法であり、竜王さえも吹き飛ばした威力を誇る『天道』でもなんともなかったんだ。


当然の結果だった。


それに対し俺の体は衝撃波によって後ろに吹き飛んだ。


しかし


俺の狙いは騎士王を吹き飛ばすもしくはダメージを与えるのではなく騎士王との距離を取ることだったのだ。


数秒、俺は騎士王の猛攻の元から逃れることができる。



「!!」



騎士王は俺が何かをするのを感知し、俺との距離を詰めるために足に力を溜めた。


多分、一息する間もなく俺との距離を詰めてくるはずだ。


問題ない。


俺は空中で体勢をと唱えながら魔力を血管のように意識し、身体中に駆け巡らせる。

そして次に、服を着るように魔力を解放する。


それを同時にこなす。


不思議と何も意識することなく魔力の纏化が終わっていた。

チユが言っていた通り、自然と空気を吸って吐くように……出来ていて当たり前のことをしているかのように。


地面に着地した瞬間、騎士王と同じように全神経を集中させる。


……来い!!


俺は騎士王の剣を弾くのではなく、今度は受け止めた。


剣と剣は衝突して火花を散らした。


剣と剣がぶつかり合う衝撃音と火花が始まりの合図と言わんばかりに俺と騎士王の剣戟は一気に加速し、周囲の空気を制した。

星屑のように飛び散る火花が空間を灼いた。

その火花が魂がぶつかり合ったことによって生じたもの。


俺と騎士王は剣のぶつけ合いをしているのではない。


これは魂のぶつけ合いだと。


そう、心のそこから思った。


「おおお!!」


「はああ!!」


裂帛の気迫とともに放った互いの渾身の撃ち込みが互いの剣を弾き飛ばした。



「「っ!!?」」


自然とお互いに拳を強く握り、敵へと一直線に放った。


だが、俺の突き出した拳は空を切り、体に衝撃が打ち込まれた。



「がはっ!」



肺の中にある空気を全て吐き出した。

その瞬間、騎士王は追い討ちの一手を俺の頭に放とうとしていた。

感じる。


この拳を喰らうと俺の頭は粉砕するー



「っ!!」



動作予知で辛うじて騎士王の一撃を回避する。



「ああ!!」



カウンターのように自身の体重と運動量を移動させ、騎士王に掌打を放った。



「くっ!!」



騎士王は俺の掌打に反応し、拳で受け止めた。


すっと騎士王は俺から距離を取った。



「……ふむ」



手をふらふらと揺らし、何かを確認している。


初動作のない最短の軌跡、一切の無駄のない拳の突き出し方……まるで一ノ瀬キョウヘイやラクス・クルスニクを相手にしているみたいだ。


武術か……


わかっていたことだったが、騎士王は無手でも強い。



「……見事だ。双葉イツキ。お前の剣は……以前と比べ物にならないほどの重みを持っている」



騎士王は俺が弾き飛ばした剣を握り大地から引き抜いた。



「剣の重さとは重量やましては力の事ではない……剣に宿す想いそして熱の強さこそが剣の重みだ。双葉イツキ、お前の想いと熱はこちらにまで伝わってくる」


「……それはこっちもだ。騎士王ジークハルトの激情は俺にも一直線に伝わってくる」



俺も騎士王に弾き飛ばされた剣を引き抜いた。




「だけど、単純な打ち合いはここで終わりだ。悪いけど……ここからは俺の全部を使って勝ちを取りにいく」



そう言った瞬間、俺の隣にバエルが姿を表した。



「頼むぜ? 相棒」


「……はいはい。とりあえずやれるだけやってみるよ」



騎士王はバエルを見て少し考えるような素振りをした。



「なるほど、召喚獣の系統か何かか……多芸なのだな」



まぁ、悪魔も召喚してるし、あながち間違ってはいないのかな?



「切り札……というわけか。ならこちらも出させてもらおう」



騎士王は腰に身につけていた錆びた剣を引き抜き、地面に刺した。



「友よ……私に力を貸してくれ」



騎士王の言葉を聞いて理解した。


騎士王ジークハルトの本気はこれからだと。




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