第123話 掴めない心
夜、砦の外で俺はユウヤと模擬試合をしていた。
エレナやリン、ルイ、一応ソウスケにいろんな事を教えてもらった事を復習するために。
「はぁ!」
「ぐっ!?」
同じ木刀のはずなのに、こいつの一撃は大剣で叩きつけられた様な重さを感じる。
まともに受けたら手が使い物にならなくなる。
そのくせ振る速度も速く、俺の目では追えない。
だからこそ、動作予知の練習になると思った。
実際成果自体は少しずつ出始めている。
ユウヤの攻撃も何発かは動きを予知して受け流すことが出来た。
「……イツキ、今日はここまでにしよう。身体を休めるのも時には大切だ」
「はぁ、はぁ……ああ、ユウヤ今日は付き合ってくれてありがとな」
突然の誘いにも関わらず付き合ってくれたユウヤに頭を下げる。
「いや、構わないさ。お前がこうして懸命になっている時はいつだって、誰かの為だと俺は知っている。そして、そういう時は無茶ばかりする事もな」
「……」
「だからこそ、忘れないで欲しい。お前の隣には俺達がいる。どんな時でも……だ」
そんな事を言ってくれる。
きっと、俺は今のような……俺の事を大切に思ってくれている人達を失ってしまったら例えどんなに偉くなっても俺は幸せにはなれない気がする。
だからこそ……大切にしなければ。
そう心から思った。
「……ああ、分かってる」
そう言って、ユウヤを見送った。
夜空の下、一人になる。
ユウヤは休めと言ってくれたけど、
何かやらなくてはと焦りにも似た感情が湧き出てくる。
……そういえば、魔力の運用レベルの一つである「魔力の纏化」前みたいに出来ないかな?
身体能力も爆発的に上がるらしいし。
キッシーと戦っている時の魔力の纏化は不完全なものだった。
……よし。
キッシーと戦っていた時の事を思い出せ。
魔力を全身に纏うような感じ……
「こんな夜遅くまで何をしてるんですか?」
「ひぇ!?」
いきなり後ろから声をかけられびっくりしながら振り返ると涼しげな目元、肩までの見ている紫髪の女の子が
こちらを見ていた。
彼女はグランドマスターの一人であり、魔剣使いあるチユ・セルシアだ。
「……ち、チユ……さん。えっとこれは、魔力の纏化をですね……」
「先ほど、ゆっくり休めと言われたのでは?」
「……いつから見てたんだよ」
「別に……何か音がするなと思って来ただけ」
ということは結構前から居たってことかよ……
あ、そういえば……魔力の纏化はチユも出来るんだっけ?
この人ちょっと怖いけど……ええいままよ!!
「あ、あのさ……よかったら、魔力の纏化のコツとか教えていただけると大変ありがたいんですが……」
あかん、なんか変な感じになってしまった……
やばい、チユがなんか不審者を見るような目で俺を見ている!!
その冷たい目は俺の心が傷つくからやめてほしい!
「あ! えっと! こ、この前さ! 一回はできたんだよ!! でも前の感覚が思い出せないっていうか!」
挽回というか必死に弁解をする俺を見るチユの目は変わらず、はぁとため息をついた。
……あ、終わったな。
「……教えたことなんてないのであまり期待はしないで」
「……え? お、教えてくれる……のか?」
嘘だろ……? 絶対無理だと思ってた……
そんな俺の表情を感じ取ってか、チユはムッと眉を顰め
「……やっぱり帰ります」
「あ!! 待ってください!! 教えてください!! お願いします!!」
本当に自室に戻ろうとするチユを必死に呼び止めて教わることになった。
「一度出来たというのは本当なんですか?」
「ああ、キッシーと戦っている時に……あの時は必死で魔力を纏っているっていう自覚なんかなかったんだけど」
信じてくれるだろうか?
「……まぁ、太陽の鎧に対抗するには魔力の纏化は必須だから、彼に勝ったということは本当の事なんでしょう」
信じてくれた……?
あれ?
最初の挨拶でちょっと怖いというか、クールというか、冷たいイメージがあったけど意外とチユさんって優しい人なのかもしれない!!
「では、まず……」
チユに魔力の纏化のコツを伝授してもらった。
まずは、魔力を血管のように意識し、身体中に駆け巡らせる。
そして次に、服を着るように魔力を解放する。
大切なのははっきりとしたイメージ。
魔力を操ると思ってやってはいけない。
自然とこなす。
空気を吸って吐くように出来て当然だと思うこと。
大切なのは出来て当然だと思う。
それくらいの認識を持つことが大切だと。
確かにソウスケは魔力の掌握を簡単なことだと言っていた。
それと同じなんだろう。
「……ありがとう。嬉しいよ。俺、チユには嫌われてるのかなって思ってたからさ」
「わたしはあなたのことは嫌いですが」
?????
「そのにやついた顔も、エレナ様に対する雑な態度、全てが気に入らない」
「ぐっ!!」
鋭利な言葉が刺さる!!
おかしいな……チユとはあまり話していないはずだが……いつの間にこんなに好感度が低くなってしまったんだ?
で、でも!!
「ならなんで……俺に魔力の纏化の事を教えてくれたんだよっ」
そんなに嫌っているんだったら、俺なんか相手にしなきゃいいのに!
「別に……たとえ、どれだけ嫌いであろうとも努力している人の手を払うほど私は捻くれてはいないので」
「………………」
チユ・セルシアという女の子は真面目で人ではなく、その人のしている努力にはとても誠実なんだなっと思った。
彼女にとっては大切なのは「性格」とかじゃなく「何をしているのか」なのかもしれない。
なら、その誠実さに少しでも応えなくては。
1時間ほど経って、手の部分だけだが、魔力を纏うことが出来た。
やった!!
体の一部だけど、小さな一歩かもしれないけど!! 確かな一歩には違いない!!
「チユ!!」
嬉しくてチユに向かってハイタッチをしようとした。
……が。
「……近づかないで」
キッと睨られて拒絶されてしまった……
「すいません……」
確かに俺はチユに好かれてはいない、むしろ嫌われている。
これは性格の相性もあるから仕方がないことだ。
でも、いつかは……と思う。
少なくとも今の俺では彼女を掴めない。
掴もうとしても、絶対彼女は拒絶する……
掴むには俺は彼女の事を知らな過ぎる。
そう思った。