第122話 神速の時間
「……確かにイツキの言う通りだな。ここは心を鬼にして……ルイこれから先は俺はお前の代弁しない、きちんと自分の言葉で言うんだ」
「!!」
ルイちゃんはユウヤの言葉を聞いて、まるでこの世の終わりかのように絶望した顔をしている。
しかもちょっと泣いてるし。
これはかなりのコミュ障だな。
あのリンカでさえ、自己紹介は自分で出来たのに……
「大丈夫だルイ、イツキは結構……いや、大分子どもじみた性格の持ち主だ、だからすぐ仲良くなれるさ」
ユウヤの言葉に心から同意するようにエレナは頷く。
「はぁ!? 子供っぽくないし!! むしろ大人じみてるし!! なぁ!? リリス!?」
「えっ!? いや、イツキさんってすごく子供っぽいところありますよ?」
「なん…だと?」
リリスにまで、あのリリスにまで言われてしまった!
がっしりと打ち込まれたように俺の心はショックを受けた。
「……ぷーくすくす」
……あ、この野郎少し笑いやがったな。
腹が立つけどこれで警戒心は少し解かれたはずだ。
その証拠にユウヤの服を掴む力が弱まっている!
ここは踏み込む時だ!!
「あのさ、今の居合いってどうやったんだ?」
明るく、それでいてフレンドリーに軽い感じで聞いてみる。
大丈夫、ぼくは怖い人じゃないよ。
「……ぇ?」
な、何でそんなことを聞くの?
と言いたげな顔をしながらユウヤの後ろに隠れている。
「あの技、かっこよかったからさ、どうやるのかなって」
「か、かっこいい?」
お、なんか嬉しそうだぞ?
「うん。めっっっちゃかっこよかった!」
「そ、そ、そうですかね?」
おお。声が大きくなったぞ。
しかもさっきまでユウヤの後ろで隠れていたのに今ではユウヤの隣にいるぞ!!
袖は握りしめたままだけど……
でもこれは、進歩している気がする!!
このまま……いける!!
「そうだよ!! まさに神速と言いますか……いや、速さと言う領域を超えてたね。まるで縮地したかのような感覚に陥ったよ。くぅぅぅ、カッコ良すぎて震えたね!! あ!!」
「!?」
「す、すまない……あまりのかっこよさに腰が抜けてしまった……」
腰が抜けるふりをしながらほら見てくれと小刻みに震えている掌をルイに見せる。
するとユウヤの元を離れ、恐る恐るこちらに近づき
「ほ、本当だ……」
と小さくつぶやいた後
「ま、まぁ? べ、べつにこんなの余裕でできますけど!!」
先ほどまでとた違いハキハキした大きな声で言った。
よし!!これは……明らかに喜んでいる!!
この子は間違いない!
俺と同じタイプで褒めれば褒めるほど機嫌が良くなるタイプだ!!
仲良くなるチャンスだ!!
ここはたたみかけるか!
「皆さーん!! ここに神速を超えた最強の剣士がいまーす!!」
「さ、最強の剣士?……も、もう!! そんな事ないですってば!!」
そんな事言っているが、ものすごく嬉しそうにバシバシ!! と俺の背中を思い切り叩いて来る。
くそ痛い。
「ま、まぁ? さっきの技でよかったら、ちょこっとだけコツとか教えることもできますけど?」
ルイはどこか嬉しそうにチラチラとこちらを見ながら遠慮しがちに言ってきた。
お、ちょっと調子に乗っとるな? こいつ。しかし、乗らねば、このビックウェーブに!!
「ま、まじで!? いいのか!? うおおおおお!! ルイ師匠!! ルイ師匠!!」
まぁ、実際使えるようになったら騎士王との戦いに役立ちそうだしな!!
「そ、そんな、やだなー!! 師匠だなんて!!」
よし!! 顔が緩みきっている!! 明らかに舞い上がっている様子だった。
さっきから肩を叩く力が強くなっている気がする!
くそ痛い……
「……流石だな。単純で子供っぱいところとか似ているとは思っていたが、こんなにも打ち解けるのが速いとは」
ユウヤは感心した表情で俺に言った。
あれ? ちょっと待ってくれ。さらっと俺に対して結構失礼な事言わなかった?
ユウヤの隣ではなんだか複雑そうな表情をしたリリスとエレナがただ黙って俺たちを見守っていた。
「うぉっほん!! ではイツキさん!! いや、我が弟子!! これから我が秘技を伝授します!!」
「押忍!! ルイ師匠!!」
そういうとルイは顔一面に満悦らしい笑みを浮かべ
「いいですか? 地面をこうバンと蹴るようにしてビュッ!! と疾風のように駆け出してシュンと闇を切り裂くように切り込むんですよ!!」
気合いを入れて説明してくれた!!
が!!……こいつのもソウスケと同じタイプの人間だった!!
ルイ師匠全然わかりません!!
「えっと……こうか?」
とりあえず、ルイ師匠に言われた通り地面をダン!と蹴ってみる。
「違います。こうです!!」
ルイは俺に見えるようダン!!と蹴りあげた。
違いが……違いが分かりません!!
「こう?」
「こう!」
ダン! ダン! と交互にルイと地面を蹴っていく
……何やってんだ? 俺達は?
「……イツキさん、私達何やってるんですかね?」
「俺にも分からん……」
数時間後、交流会が終わり、ルイとも完全に打ち解け
「影以外は溶岩だから! 落ちたら即死な!! 勝負じゃこら!!」
「負けませんよ!! あっ!? ちょっと! 押さないでくださいって!」
要塞の渡り廊下で遊びながら外に向かって歩いていた。
「いやールイって強いんだなぁ……さすが剣聖って感じ」
「え〜そんなことないですって!! 私なんて初代剣聖様に比べたらまだまだですもん!!」
「へー剣聖って引き継がれてるんだな……」
「ですです!!ふふ、初代剣聖様は歴代剣聖の中でも最強と言われてるほどの人ですから! 私がこの世界で一番憧れている人です!! ちなみに私は10代目です!!」
「ちなみに初代剣聖はなんて名前の人なんだ?」
「剣聖・ジークハルト・ハーレクィーン様です!!」
「っ!?」
思わず、足が立ち止まった。
「……イツキさん?」
「……………………」
騎士王ジークハルトと同じ名前……いや、まさかな。
不安と疑念振り払うように首を振り、みんなの後を追った。