第120話 魔法の魔法の時間(知識・基礎編)
「だからおにぎりをギュッと抑え込んで小さくする感じだって!!」
「余計分からんくなったわ!!」
「大切なのはイメージすることだよ!! おにぎりをぎゅっとしてるイメージをするんだ!!」
「お前ほんと教えるの下手くそだな!!」
かれこれ30分ソウスケの指導を受けてはいるが、俺の掌に浮かぶファイヤーボールは依然として変わらなかった。
というか、ソウスケの教え方が糞過ぎる!!
具体的な説明は一切なく言ってることが全て、がー!!とかギュッと!とか、自分の感覚をそのまま言ってくる。
いつもそうだ。こいつは理論詰めで行っているのではなく、天性の才能で意識せず感覚でこなせてしているタイプなんだ。
だから、教えるのに向いていない!!
「……何してるの? あなた達」
そんな俺たちに心のそこから呆れたような声で話かけてきたのは
「げ、リン……」
ソウスケ先生のいう通り、こいつの師匠であり、賢者のリンちゃんだった。
「今は、イツキさんがソウスケさんに魔力の掌握を教えてもらっているところなんです」
俺たちの代わりにエレナが説明してくれた。
「……え? 魔力の掌握を……ですか?」
「はい……その……簡単だから……と」
エレナの説明を受け、リンちゃんは信じられないと言いたげな顔をしてギロっとソウスケを睨んだ。
それに対してソウスケはひぃ! と怯えている。
……ユメちゃんとキョウヘイの時も思ったんだけど、俺の周りの野郎どもって尻にしかれるタイプなのかな?
「……まぁ、へっぽこのことだからこんな事になる気がしていたわ」
ため息をつきながらリンが俺達の元に歩み寄った。
「はぁ、この馬鹿みたいな特訓を純粋に付き合っているのを見るに……魔法は使えるけど知識は何もないって感じね」
す、すごい。一瞬で俺の状況を把握されてしまった。
「……よかったら、この馬鹿の代わりに私が教えるけど?」
「お願いします!!」
「え!? なんで!?」
ソウスケはショックを受けて落ち込みながらエレナに助け船を求めるようチラチラと見るが、先程の有様を目の当たりにしたからなのかエレナはふいと目を逸らした。
「ソウスケ、諦めろ。お前には人に教える才能はない!!」
「断言するなよ!! ちくしょう!!」
「ここは大人しく、俺たちと一緒にリン先生の授業を受けておこう……よろしくお願いします」
ソウスケの肩をポンとおいてやる。
俺だってこんなことは言いたくなかった。
しかし、ここは心を鬼にして! こいつに事実を言ってやらないとな。
「誰が先生よ……まぁいいわ」
こほんと咳払いをして
「いい? 魔法は基本的に初級・中級・上級・天級・界級・神級の6つの段階に分かれているの。階級が上がるほど、威力が高く、規模が大きい」
ここまではわかるわね? というリンの言葉に俺とソウスケはうんうんと頷く。
「並の魔法使いなら上級魔法までは覚えられるわ。でも天災級の魔法……天級魔法を使うにはある程度の知力が必要ね。あとは界級魔法は世界の法則を変えるほどの力を持つ魔法。使える人間は居ないわ」
「まぁ、使えるのは賢王くらいだろうねぇ」
ソウスケがしみじみと語る。
「それで、属性は火、水、風、土の4元素と後は派生で雷とか、氷とか……それぞれには相性があるの」
あー水は炎に強いとか、土は雷に強いとかそういうやつな。
それとと言いながらリンちゃんはエレナの方を見た。
「光属性の魔法はエレナ様やリリスのような聖剣に選ばれた者しか使えない希少な魔法よ」
あ、そういえばドワーフのおじいちゃんが言ってたっけ。
聖剣は3本あって
原始の聖剣は勇者……つまり、リリス。
繁栄の聖剣は王族……つまり、エレナ
終焉の聖剣は……ドワーフの村の大樹に眠ってるみたいなこと言ってたし……持ち主はなし。
ってことになると実質二人しか光の魔法は使えないってことか。
「あとは特殊な神器を持っておられる方……ですかね? キョウヘイさんとか」
エレナが捕捉説明してくれた。
「ちなみに光魔法のメリットとかってあるの?」
「それは私が説明しますね。まず、光属性のメリットの説明の前に闇の魔法について説明しなければなりません」
む、新しい属性がきたな。
「闇の魔法についてなんですけど私達人間には使えません。魔王軍しか使えない特別な魔法です。特徴は光属性以外の魔法に圧倒的に優位に立てます」
「……え? そんなの闇魔法最強じゃん……あ」
エレナは俺の顔を見てこくりと頷き
「ただ、光属性の魔法に対しては圧倒的に劣勢なんです。ちなみに光属性は闇以外の魔法では相性による優劣はありません」
「なるほど……」
「ここまでで、何かわからない事はありますか?」
ちょっとドヤ顔でエレナが言ったので気になったことを質問してみよう。
「エレナ先生ー神級魔法ってなんですかー」
「神級魔法とは聖剣の所持者しか使うことが出来ない界級魔法より強力な魔法です。その力は神器の力をも圧倒的に凌駕するとまで言われています。私たち人類の最後の奥の手です」
じゃあ……この世界で一番強力な攻撃手段ってことだな……
「まぁ……デメリットもありますけどね」
ふーん……まぁ俺には関係ないか。
「次に魔力の運用レベルについてね。まずは魔力の解放、これは魔法を使っている時とか、神器に魔力を込めている時の事ね。誰でもできる初歩的なものよ。」
ふむふむ。
「次に2段階目である魔力の纏化。魔力の纏うことでは身体能力と魔力に対する耐性も爆発的に高くする。魔法と神器に対してはこちらで防ぐほうが有効なの」
「ただし……この力は習得が困難らしくって出来る人の方が少ないの。教えようにも完全に感覚の話になってくるし……これを取得できるか出来ないかは完全に才能ね」
(まじかよ……)
(あれ? でもマスターってキッシーと戦う時にやってなかったけ?)
(え? まじか? ……あーそういえば……やってたような気がする……全然意識してなかった)
「魔力の纏化を行えるのは私たちの知りうる限りではソウスケさんとリンさん……そしてグランドマスターであるチユさんとお父様しか居ないですかね?」
え、少なっ。
エレナの言葉に衝撃を受ける。
しかもエレナも出来ないのかよ……相当難しい技術なんだろうな。
ぶっちゃけると、そこに俺も付け加えてくれよーと言いたいところだけど今すぐやってみろと言われたら絶対に出来ないので何も言わないでおこう。
嘘つき扱いされたくないしな。
「そして最高段階である魔力の掌握。魔力をだた解放するだけではなく、凝縮したり、性質を変化させたり要するに魔力を完全にコントロールすること」
あーそういえばソウスケのファイヤーボールも魔力を凝縮させてたな。
なるほど、魔力の掌握か。
「こいつのファイヤーボールは自身の魔力を凝縮させて一気に解き放っているのよ。威力や魔力のコスパなど全てにおいてこいつの初級魔法は全て魔法の中でも最強クラスよ。間違いなく……ね」
リンちゃんは気に食わない様子でソウスケを指差す。
「おお!! せんせー! 魔力の掌握はどうやったらいいのか教えてくれよ!!」
「できないわ」
……へ?
「魔力の掌握を狙ってできる魔法使いは存在しないの……このへっぽこを除いたらね。」
なん……だと?
「魔力の掌握とは他の二つと違って技の名称ではなく、現象のことなの。簡単言うと……そうね。ゾーンと同じかしら?」
確かに、ゾーンを意図的に発動させろなんていられたら無理な話だと言ってしまう。
「まぁ、私も過去2、3回魔力を掌握できたことがあったけど、たまたまだったわ。これは才能がどうこうの問題じゃないのよ」
そんな……最優の魔法使いであるリンちゃんさえも出来ないとサジを投げてしまうほどの事を隣にいる金髪は俺に教えようとしてたのか?
しかも本人は簡単だからと言っていた。
神崎ソウスケ……この金髪馬鹿は本当は、本当はとんでもなくすごい奴なんじゃないのか?
「zzzzんあ!? え? 終わった?」
話の最中やけに静かだと思ったら、こいつ寝てやがった。
………やっぱりこいつはただの馬鹿なのかもしれない。