第117話 動作予知の時間
昼休憩を終えて俺は再びエレナと剣の稽古をしていた
「ぶっ!!」
「がっ!!」
「がはっ!?」
ボコられる。
ボコられ続けて顔と体のあちこちにアザがどんどん増えていく。
「イツキさん!太刀筋を見るだけではなく瞬時に次の動作のことを考えないと、格上の敵の攻撃に対応できないですよ!!」
エレナと木刀を使って戦闘訓練と言う名の一方的な蹂躙、動きが速すぎて自分が何をされているのか分からない。
どうしてこんなことをしているのかというと、この戦いで俺は騎士王ジークハルトと一対一で戦うことになった。
一応、ジークハルトと戦う術は考えてある。
だが、それだけでは足りないと思ったのだ。
手札は多い方が良いし、出来ることが多い方が良い。
……という訳でエレナに「おらさつよくなりてぇ!」とご教授をお願いした結果、ある技術を取得するために模擬戦をしている。
……固有スキルである本気出すは発動していない、通常状態で。
ちなみにその時にエレナに「どうしていきなりそんな事を言い出すんですか?」
と問い詰められたので騎士王と戦うこととか、ユウさん達と一緒に話していたこと全部話した。
反対されることを覚悟しながら。
でも意外とエレナの返答は「そうですか」とあっさりしていた。
俺が今、覚えようとしているのは動作予知というものだ。
目だけではなく、5感全てを解放して、相手が狙ってくる場所を感覚で感じ取るというものだ。
エレナ自身もこの技術はイリエ王と模擬戦をして覚えたと言っていた。
エレナは小さい頃から各分野で最高レベルの教育を受けており、かつ才能は王族らしく常軌を逸している。
そんなチートのようなエレナ・フォン・キャメロットに稽古をして貰ったらどうなるか?
答えは簡単だ。
死ぬほどきつい。
「少し、休憩しましょうか」
「あ〜い……」
やっと、休憩か……そう思いながら膝に手をつく。
酸素が……はぁ……深呼吸。
まるでフルマラソンを走ったかのような疲労感が襲う。
俯くと大量の汗がぽたぽたと落ちていく。
「はい。水分補給はちゃんとしなきゃだめですよ?」
そう言いながらエレナはレモン水を渡してくれた。
ありがとうと礼を言いながら一気に飲み干す。
エレナはくたくたな俺とは対照的だった。
かれこれ2時間ほど、打ち合いを続けているが、エレナの呼吸はいっさいの乱れがない。
俺は乱れまくってるのに……
しかも俺よりエレナの運動量の方が遥かに多い。
どうなってるんだよ。
同じ人間とは思えない。
けど……エレナが死ぬかもしれない未来があるんだよな。
こんなに強いのに。
「一つ聞きたいことあるんだけどさ。勇者って二人いるのか?」
「いえ……現時点で勇者様はリリス様お一人です。そもそも勇者が2人も存在していたことなんてありませんよ?」
「あーだよな……」
なら、あの夜出会ったのは……誰だ?
……………………
「イツキさん? どうかされましたか?」
「いや、何でもない。変なこと聞いて悪かった」
「さて、休憩も出来ましたし、続きをしましょうか」
今は目の前のことに集中しよう。
考えるのは、みんなで生き残って笑った後だ。
「……ではイツキさん、いきますよ!!」
「こいっぶへ!!」
だめだ!!
エレナの剣が速すぎて、だたひたすらに訳のわからん殺しにあっているような感じでボコボコにされてしまう!!
でもそれじゃないと意味がない。
だってこれは動体視力や身体能力では対応できない攻撃も受け流し、対処できるようにする特訓なのだから。
「イツキさん!! 五感を研ぎ澄ませてください!! 常に集中していると次第に相手が次に狙ってくる場所が分かるようになるはずです!!」
そんなこと言われてもっ!!
エレナの剣撃は止まらず、反応すらできず喰らい続ける。
「一回目はまぐれでもいいんです!! 体にその感覚が刻まれて意識がより研ぎ澄まされます!!」
打ち込まれる度に何だか視覚、嗅覚、触覚、聴覚が研ぎ澄まされ、今まで見えなかったエレナの剣が見えてきた。
この剣筋は俺の左脇下に向かって振られている?
おそらくここに来るっ!!
まるでエレナの剣撃を予知していたかのように見切り、木刀で受け流した。
「!!」
エレナの驚愕によって生まれた僅かな隙を俺は見逃さなかった。
「そこ!!」
すかさず、俺は反撃するためにエレナに向かって木刀を振るったが、あっさり受け流され。
「ぐへ!!」
反撃をされてしまった。
それでもエレナの一太刀を体の動きを感じ取り、完全に予知することが出来た。
達成感のあまり、張り詰めていた糸が切れ俺はその場で力尽き、倒れ込んだ。
「イツキさん! やりましたね!! おめでとうございます!! これが動作予知です!! 今の感覚絶対に忘れないでください!!」
「ありがとうございました。エレナししょー」
まるで自分のことのように喜びエレナを見て照れ笑いしながら言ったら
「どういたしまして……です」
そう言って差し出してくれた手を俺は掴んだ。
「これで……騎士王の背中に一歩くらいは近づけたかな?」
なんて冗談ぽく言ってみる。
「あなたは……不思議な人ですね」
「というと?」
「あなたの言葉はなんというか、力があるんです……真っ直ぐというか、本気でそう思っているのが伝わってくるんです」
「だから……私、信じてますから……最高で理想な未来、私に見せてくださいね」
「おう、任せとけ」
約束するように、誓い応用にコツンと拳をぶつけ合った。