第115話 勇気
双王との戦いが近づいた中、私たち勇者パーティは現在、前線に最も近い施設である砦に来ていた。
エレナ様に挨拶を終えて、各自用意してもらった部屋で休憩していた。
「う、う〜!!」
そんな中、私、勇者リリスは一人うなだれていた。
「リリスー私たちもいくわよ」
うなだれている私に賢者であるリンちゃんが迎えに来てくれた。
今、砦の広場では戦いに参加する人たちが交流会をしている。
お互いの特技を教えあったり、そうやって戦いの前に団結力を高めると同時に自身の成長にも繋がるというわけだ。
私も全ての交流会に参加していたのだが、確かに交流会を通じて技術とかは身につけることができたし人との繋がりも増えた。
だから今回も参加したいんだけど……
問題が1つあって……
「ちなみに双葉イツキも交流会にいたわよ」
や、やっぱりー!!
がくっと肩を下ろした。
そう、私はいまだにイツキさんに自分が勇者であることを言っていないのだ。
う〜!! どうしよう!! ヨームゲンの村の時はなんとかなったけど……今回ばかりはもう……!!
「もう正直に話すしかないんじゃない?」
「うっ!!」
リンちゃんの火の玉ストレートが飛んできた。
「双王との戦いはあいつもグランドマスターとして参加してる。それに参加するのは今回だけじゃないこれからもずっとよ。もう、隠せるような状況じゃない」
分かってる。
リンちゃんの言っていることは正しい。
……でも。
「しょうがないわね。なんなら私が言ってこようか?」
そう言いながら歩き出すリンちゃんの腕を反射的にガシッと掴んだ。
「い、言うなら……ちゃ、ちゃんと私から言いたい」
「なら、いくわよ」
リンちゃんに手を引っ張られて広場に向かうことにした。
小さな丘から広場を見下ろすと多くの人たちが話をしたり、模擬戦をしたり、魔法や技を教えたりとにぎわっていた。
グランドマスターの人達もユウヤさん達もここについているとは聞いたけど……ここにいるのかな?
イツキさんは……どこだろう?
……あ。いた。
「……見当たらないわね。へっぽこ弟子はすぐ見つけられたけど、双葉イツキが見つけられない」
むむ……とうねりながら探すリンちゃんに
「え? あそこにいるよ?」
指差し教える。
「え? もう見つけたの?」
早いわね……と驚きながら指差す方向を見る。
逆に私はソウスケさんが見当たらないんだけど……リンちゃんよく見つけられたなぁ。
イツキさんはエレナ様と剣技の模擬戦をしているようだった。
お互いに木刀を握り打ち込んでいるんだけど……
「あいつ、一方的にやられすぎじゃない?」
リンちゃんの言うとおりイツキさんはエレナ様に一方的に責められていた。
おかしいな? この前は鬼神族である黒鬼と互角に渡り合えていたのに……
イツキさんの実力ならエレナ様とだって互角に渡り合えるはずなんだけど……
そんなことを考えていたら顔を張らしたイツキさんがよろよろになりながら水分補給の為に休憩をとった。
きっと、今がチャンスだ。
本当は今すぐにでもイツキさんに近づきたいのに、近づけなくて。
「……行くのなら今しかないんじゃない?」
ぽんと背中を押すようにリンちゃんが言ってくれた。
そ、そうだよね!
今しかないよね!?
「う、うん! リリス・アリスタ! い、行きます!」
「そんな気合いを入れなくても……」
困惑しているリンちゃんに見守ってもらいながらあ小さな丘を降りイツキさんの元に走る。
イツキさんの背中へと一歩ずつ近く度、心臓の鼓動が高まっていく。
それは走っているから?緊張してるから?
多分、両方だ。
「うぅ……痛い……痛いよぉ。エレナ、お前もうちょっと手加減ってものをだな」
「何言っているんですか。それじゃ意味ないでしょ? あともう少しでお昼ですから、もうひと頑張りしましょう?」
「うぅ……あと、3分だけ休憩させて〜」
「もう……あと3分だけですよ?」
2人が話しているのを見ているとなんというか、気兼ねなく話しているというか、心の距離感が近い気がした。
エレナ様もなんだか楽しそうだし、イツキさんもまるでユウヤさん達と話しているような、そんな砕けた態度だった。
…………………………
何故か、走る速度が上がった。
「い、イツキさん!!」
あ! しまった! 勢い余って大きな声を出して名前を呼じゃった!
「その声は……!? え? り、リリス!?」
ばっとすごい反応スピードでイツキさんは私の方へと振り返った。
目と目が合う。
身体が強張り、動きが止まってしまう。
「あ、あの……え、と……」
イツキさんとエレナ様の驚いた顔を見て、さっきまであった勢いは完全になくなり、言葉が出なくなる。
頭も真っ白になって、どうしていいのか分からなくなって。
だから、自然と視線が下に……
「!! リリス、ごめんな。今ちょっとエレナ様と模擬戦をしていたところでさ。あと1時間程でお昼だから城の入り口で待ち合わせでいいか?」
「え……?」
「何か俺に言いたいこと。それか言わなきゃいけないことでもあるんだろ? あ、もしかしたら今じゃなきゃダメなやつか?」
「あ、い、いいえ。お昼からでも全然大丈夫です!」
つい、反射的に答えてしまった私にそっかと笑いながら木刀を持って走って行った。
「ほらやるぞ! キャメロッツ! 俺は少しでもはやく、少しでも強くならなきゃならねぇんだ! 手加減なしの打ち合いをしようか!」
少し離れた所から木刀をブンブンと振り回しながらエレナ様のこと……だよね? を呼んでいる。
「えぇ……もう。さっきまでは疲れた〜とか言っていたのに」
そんなイツキさんの姿に呆れながらもしょうがないですね。と小さく呟きながらエレナ様は木刀を持つ。
「それでは、勇者様。失礼します。無理せずに身体を休めて下さいね」
「あ、ありがとうございます! エレナ様もお気をつけて!」
「エレナ〜!!」
「今行きます〜!!」
お互いにペコリと頭を下げてエレナ様はイツキさんの元へ走って行った。