第109話 神界
「よし、トランプは配り終わったな。さぁ、もう何戦やってるかなんて覚えていないが、始めようぜ。」
「ね、ねぇ。いっくん……」
「どうした? ユッキー」
「もう終わりにしない? やっぱり良くないよ……こんなの」
ユッキーは恥ずかしそうに顔を赤らめながら視線を逸らした。
「嫌だね」
「っ!! いっくん!! マリーさんも顔真っ赤なんだよ! それなのにっ!!」
マリーさんの様子を見ると確かに、耳まで真っ赤になって瞳も潤って、うぅ……と唸りながら恥じらいの表情を浮かべている。
ああ、いいすねぇ。
その生娘みたいな表情たまんねぇぜ。
「まだ着てるものがあるじゃないか。馬鹿なこと言うなよ。それに恒例なんだろ? こんなもの慣れっこなんじゃないか?」
「だって今日はいっくんがいるから……」
恥ずかしそうに弱々しく話している姿を見て俺は一種の興奮を覚えた。
厚底メガネをかけているが、その反応は実に可愛らしい。
「そ、それにこれ以上は……み、見えちゃうし。」
「関係ないね!! 勝負を途中で降りたりなんてさせるかよ!」
「そ、そんな……いっくんのどすけべ!変態!!」
「なんとでも言え!! さぁ次は−−」
「次はこの俺のパンツをかけるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
今、俺はパンツ一枚である。
ズル剥けである。
ほぼ生まれたままの姿である。
ユウヤ・ソウスケ・キョウヘイ・レイア・リリス・リーシャ・エレナ・ヒロム……みんな、見てるか?
俺はさっき出会ったばかりの女の子たち相手に乳首を曝け出してるよ。
はは、今日だけ、弱音吐いても……いいかな?
「おいおいイツキ少年〜大貧民や貧民しかなってないじゃん勘弁してくれよー」
「俺と同じパンツ一枚のシュンさんに言われたくねぇよ」
脱衣大富豪は何回やっても俺とシュンさんは大貧民と貧民にしかなれなかったのだ。
逆にユッキーやマリーさんは安定して大富豪や富豪になっていた。
そしてずっとモナは平民のままだ。
畜生!!
なんでだ!?
なんで勝てない?
そもそもなんで大貧民と貧民は一番良いカードを献上しないといけない上にこっちは一番の糞カードを受け取らなきゃいけないんだよ!!
「まぁ、シュンさんは大富豪とかカードゲームは弱いからね〜まさかイツキっちもこんなに弱いなんて思わなかったけど〜」
ユッキーがプププと笑っている。
シュンさんが糞雑魚なの知ってたのかよ!!
通りですんなりと誘いに乗ったわけだ!
「ふぁーこいつをボコボコに出来たし俺は寝るわ。じゃあな、クソザコ」
「……はい、お休みなさいモナ……さん!!」
かかっ!! と愉快そうに笑いながら寝床に向かっていった。
なんという屈辱!! しかしこれは弱肉強食の世界……仕方がないこと。
「あ、私ももう眠いたいし寝ようかな?」
ま、マリーさん?
「私ももう寝るよー決着は済んだようなもんだしね〜決勝戦はシュンさんと二人で楽しんでくれたまえ〜」
そう言いながらマリーさんとユッキーまでもがここを去ってしまった。
残ったのはパンイチの男二人だった。
「「……………………」」
重たい沈黙が二人のいる空気を支配していた。
こんなはずじゃなかったのに、なんでこんなことになってしまったのだろう。
そうだ。こんなことになったのは……
シュンさんのせいだ!!
こうなったらシュンさんのパンツを剥いでやる!!
そう思い、シュンさんをみたら厚底メガネのごしに俺をみていた。
どうやら、俺たちは同じ思考にたどり着いていたようだ。
「……やるか? 少年」
「ああ、お互いのパンツをかけて」
「最後の勝負を始めようか、少年」
互いの怒り、プライド、威厳、そして何よりパンツを賭けた戦いが今始まろうとした。
「まだ起きてるのかー? 明日は早いんだ。もうこれくらいにして寝とけよー」
寝ていた団長があくびをしながら俺たちに言った。
あと、さっさと服きろ風邪ひくぞ〜と言い残し、再び眠りに行く。
「シュンさん……」
「ここは大人しく言うことを聞いておいた方がいい」
シュンさんと話し合った結果、俺たちは同じ思考にたどり着いた。
二人でコクリと頷きあう。
黙って、大人しく服を着て、トランプを片付けた。
なんとも締まらない幕引きだった。
「……あ、そうだ。なぁ、イツキ少年。ちょっと外出て話さないか?」
と思ったらシュンさんから思いがけない提案をされた。
先に外に出てみると、少し寒い。
空を見上げると星と月とそしてもう一つ……水星のようなものが月の隣に浮かんでいた。
……なんだあれ?
あんなのあったかな?
「あれは神界だよ……イツキ少年は初めてか」
後ろから木の椅子を2つ持ったシュンさんが馬車から出てきた。
椅子を二つ並べ二人で座る。
「ちょっと待ってな」
そう言いながらぽんぽんと木の枝をたくさん生み出し、焚き火を作り出した。
そしてどこからか木のマグカップと瓶に詰まったインスタントを取り出すと水魔法と火魔法を使ってあれよあれよとホットコーヒーを作ってくれた。
「ありがとう」
「砂糖いる?」
「いる!!」
湯気が出ていて、それでいて暖かい、少し冷えていた俺にとってかなりありがたかった。
「神界って?」
「御伽噺なんだけどさ、あそこにはこの世界を壊そうとしている悪い神様が封印されてるんだって」
「ふーん」
神話みたいな話だなぁ……
「神界は姿をおらわしている時、王族は神託を授かるらしい」
「神託?」
「神の使いである四大天使っていうそれは大層お偉い天使様が王族にどんな未来が起きるかとか、まぁ色々なアドバイスをするんだってさ」
「へー」
それじゃあ……今エレナはその四大天使に何か話を聞いているところなのかな?
これから起こる戦いの結末について……どんな話をしているんだろう。
以後、特に何も話す事もなく、二人でボーと空に浮かぶ神界を眺めながらちびちびとコーヒを飲む。
「ちなみにシュンさんはいつからツバサ一座にいたんだよ?」
「ふ、俺の話は小説50巻分くらいの長さだが、最後まで聞き続ける覚悟はあるかな? 少年」
「は? 長い。3行でまとめてくれ」
「無茶いうなよ」
話を聞いているとどうやらシュンさんは以前やっていた仕事がブラックすぎてあまりの苦痛に夜逃げしたらしい。
ちなみにどんな仕事だったのかは秘密だと言われた。
金のなく、居場所も無く、放浪していたところに団長に拾われたらしい。
そこでツバサ一座のみんなと出会ってその独特の家族のような暖かさを好きになってしまって一団に土下座して入団したそうだ。
「ツバサ一座のみんなと働いて、たまに喧嘩して、稼いだ金でみんなで飯作って、雑談しながら飯を食う。この時間が最高に楽しいのよ」
「……へぇ。いいね。それ」
「大切な人を失ってでも繰り返したいとそう本気で思ってしまうほど……な」
「お、おう?」
最後の一言の真意は分からなかったがシュンさんにとってツバサ一座は大事な居場所なんだってことはわかった。
俺にとってのレギス・チェラムってことか。
本当に楽しそうに話しているシュンさんを見て俺はギルドのみんなを思い出した。
そうすると不思議なもので、早くみんなに会いたいと思いがふつふつと湧き上がってくる。
「なぁイツキ少年。お前は一番大切な人を失ってでも大切なものを守る覚悟はあるか?」
真剣な顔で声で神界を見たままそういった。
なんでいきなりそんなこと言ったのか、真意は分からないが……
「……シュンさん。それは覚悟なんかじゃねぇよ」
俺がそういうとシュンさんは驚いた様子でこちらを見る。
「一番大切な人も大切な物も、それが無謀だとしても無理だと言われたとしても、絶望で心が折れてしまっても、足掻いて足掻いて、絶対に守り抜く。そういうのを覚悟っていうんじゃねぇのか?」
神界に手を伸ばし手を握りしめた。
これまでもそうして来たし、これからもそうしていきたい。
言葉だけじゃない、そんなかっこいい生き様でいたい。
俺は本気でそう思ってるんだ。
そう思われてくれたのはリリスやユウヤ達レギス・チェラムのみんなだ。
「はは……そっか……そうだよなぁ。うん……イツキ少年のいう通りだ」
そう言ってシュンさんは笑った。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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