第106話 指切りしました!!
「はぁ、はぁ、はぁ。やっとついた。」
全力疾走でリリスの家の前まで辿り着き、息を切らしながら膝を着き息を整える。
大丈夫、約束の時間には間に合っている筈だ。
扉の前に立ち、息と髪を服を整えて深呼吸。
……よし、手土産も持ってきたし。
いくぞ!
覚悟を決めてコンコンとドアを叩くと家の中からはーいと声がする。
「え? い、イツキさん?」
エプロンをつけたリリスが玄関から出てきた。
リリスは驚きで目を白黒させている。
もしかして、アリスさんから俺が来ること聞いてないのか?
「あ、イツキくん。いらっしゃい。もうすぐ出来上がるからリビングで座って待っていて」
ひょこっとアリスさんがキッチンから顔を出した。
「あ、はい。これ。つまらないものですが」
「あ、ありがとうございます。えと、ど、どうぞ」
リリスにお土産を渡し、リビングに向かい椅子に座るよう促され料理が出てくるのを待つ。
「ちょっと!?ママ!!な、何でイツキさんが!?」
「何でって……今日はもう一人いるって言ったら何も言わなかったから、イツキくんってわかったのかなって」
「パパだと思ったの!! ママいつもより料理に気合入ってるし、私に料理手伝わせるし! そんな日は決まってパパが帰ってくる日だったから……」
「えー、私パパが帰ってくるなんて一言も言ってないのに〜」
そんな親子の会話がキッチンから聞こえてきた。
やっぱり俺が来ることを知らなかったみたいだ。
「お、お待たせしましたー。」
ぼーと待っているとリリスが料理を載せた皿を持ってきた。
アリスさんもきて料理を次々と置いていき、机の上はあっという間に料理でいっぱいになった。
おお、ご馳走だな。これは。
リリスが隣に座り、アリスさんは対面に座り、3人で手を合わせ
「「「いただきます」」」
食事を始めた。
「………………」
かったのだが……
なぜだろう?
隣に座っているリリスさんがこちらをガン見してくる。
「……えと、食べないの?」
「へっ!? た、食べますよ? お腹ぺこぺこなので!」
じゃあなんで食べずにこちらをじーと見てくるんですかね?
そんなに見られると食べづらいんですけど。
ま、まぁ……いいや。
まず頂くのは
視覚に働きかける鮮やかなキツネ色。
聴覚に囁きかけるジュワジュワという息吹。
嗅覚に訴えかける醤油とニンニクとしょうがの香ばしさ。
これは!!
「唐揚げだぁ!!」
俺のリクエスト通り唐揚げを作ってくれた。
こちらも食わねば……無作法というもの。
いざ!!
あっつ!!
うまっ!!
口の中で肉汁が暴れてやがるっ!
揚げたての唐揚げに口の中が大変になるが、そんなのがどうでもよくなるくらいうまかった。
熱くてジューシで唐揚げとはこうあるべきと言わんばかりの味とその濃さに白ごはんが進んでいく。
正直これだけでご飯5杯はいける。
次はポテトサラダを皿に移した。
む、このポテトサラダ、きゅうり、ハム、ニンジンだけではなく、茹で卵も潰して入っている……はぁ、正直、好きだぁ。
「……どうでしょうか?」
リリスが恐る恐る聞いてきた。
「……うん、うまい。めっちゃうまい。この唐揚げもポテトサラダも箸が止まらないくらい美味しい。リリスも早く食べないと俺が全部食べちまうぞ?」
なんて、ジョークを加えながら味の感想を言うとリリスはほっと胸を撫で下ろす。
「はい。わたしも少し後で食べますね。ちょっと今はなんというか……胸がいっぱいで」
? よう分からん。
「……えへへ〜」
リリスは頬を緩めながらしばらく俺が食べるのを見ていた。
「いや〜今日はめっちゃ食べた。お腹パンパンだわ」
あっという間にご飯を食べ終えて片付けを手伝い、お礼を言って、家を出て地下道の入り口に向かって見送ってくれているリリスと二人で歩いていた。
「もしかして、無理させちゃいましたか?」
「いいや? 美味かったからついつい爆食いしてしまったってだけだから無理なんてしてないよ」
「っ! そ、そうですか……あのっ」
「ん?」
隣を歩いてるリリスが俯く。
「今日の料理の……唐揚げとポテトカラダを作ったの……私なんです」
「えっ!? あれリリスが作ったのか?」
だから食べる時俺のことじっと見てたのか!!
「はい……だから、美味しいって言って貰って嬉しかったです」
顔をほこればせながらそう言ったリリスはすごく可愛かった。
「それじゃ、今日はありがとう。ごちそうさまでした」
地下道の入り口で頭を下げてお礼を言う。
「あ、はい。こちらこそ、お粗末様でした」
地下道は灯りがあるとは言え暗い。
地下道とか坑道って
はぁ、あんまり好きじゃないんだよあ。
まぁ、しょうがないか。
階段を降りようとした瞬間、後ろから手を握られた。
「……え?」
「……また。会えますよね?」
その表情はどこか不安げで。
そう言えば、ヨームゲンの村で夜に2人になった時も別れる時も同じような表情をしていた。
「会えるよ。絶対に」
そう言ってもリリスの表情は晴れない。
う、俺の言葉ってそんなに説得力ないのかな?
「それじゃあ、指切りです」
リリスは小指を差した。
俺もそれに答えるように小指を差し出し
「指切りげんまん。約束です」
また会う約束をした。
するとリリスは少しだけ、どこか安心したような表情を見せた。