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第105話 勇者と願いと救いと





勇者……この世界にきて飽きるくらい聞いた名前だ。

常に最前線に立ち、魔王軍と激闘を繰り広げている人物。


そんな奴がどうして?



「どうしてこんなところにいるんだよ?」


「む……それはここが私の故郷だからですよ。久しぶりに来たくなっちゃって」


「こんな時間帯に?」


「こんな時間帯しか来られないから………」



あまり人に見られたくないんですよと背中を向きながら勇者は言った。

どんな表情で言ったのかは分からないが、その声は少し寂しそうに感じた。



「なら何で俺を呼び止めたんだよ。」


「………あなたにお礼を言いたかったんです。」


「……は? いや、お前に感謝される様な事なんかしてないぞ?」



勇者は俺の否定する言葉に首を振り、こちらを向き近づいてきた。



「私の故郷を救ってくれて、私の守りたかった人達を救ってくれてありがとうございます。」


「………お、おう。その事か……お前の耳にも入ってたんだな。」



そんな事を真っ直ぐに言われると照れ臭くなってしまい目をぷいとそらす。

おそらく、賢王が攻めてきた時のことを言っているのだろう。



「はい。みんなから聞きました。双葉イツキという男がこの村を攻撃しようとした魔物達を倒したと……」



ギィと音を鳴らしながら勇者も隣でブランコに座った。



「ほんと、ダメダメですね。私がちゃんとしないといけなかったんです。勇者として、全部一人で何とかしないといけなかったのに」



ちらりと見えるその横顔はアガレスが見せた夢の中の少女の表情にとても似ていた。

まるで全てを失ってしまった。そんな悲壮感が感じる。



「私は勇者……選ばれし者、神の代行者、人々のヒーローなのに何一つ自分で守れやしない……本当になんのために生きているのか……わかりません」



そんな勇者の姿を見て俺は勢い良く立ち上がり、勇者の前で屈み、奴のほっぺをぐにっと引っ張た。



「ほえ?」


「その考え方やめろ。」


「え、えっえっ。」



訳が分からず混乱している勇者に俺は言う。



「選ばれしもの? 神の代行者? ヒーロ? 周りからそんな事言われてるんだろうけどお前だって同じ人間だろうが!」


「っ!!」



「一人で出来ることなんてたかが知れてるんだよ。実際これまでの戦い全部俺一人じゃ何も守れなかったよ。この村を救えたのだって俺じゃなくて傷だらけでも戦いに来てくれた鬼神族達のおかげだよ」


「俺はただ必死に戦って、死に物狂いで足掻いて、目の前の事をがむしゃらにやってきたら沢山の人がついて来てくれて、俺なんかの事を助けてくれたんだよ。そんな沢山の人達に全力で応えようとしただけだ」



「勇者だろうがなんだろうが俺とお前に違いなんてない。なのに全部自分一人で何とか出来るなんて思うな」



「………………」



『リリスは負の感情とかは表に出さず、自分の中に押し留めてしまうタイプなの』


『リリスが限界を迎えた時あなたになら何らかのサインを出すかもしれない……その時はリリスを頼んだわよ』



わからない。

わからないけど、ヨームゲンでリンに言われた言葉を思い出した。


目の前にいるのは今日初めてあった子なのに。



「でも……私には……そんな資格」


「資格なんていらねぇよ。人が助けを求めるのにそんなものいらねぇんだよ」


「……だ、だとしても。私なんかを助けてくれる人なんてもうー」


「俺がいるだろ」


「……え?」


「俺が助けてやる。たとえ、神様がお前の敵になってどうしようもなくなってしまったとしても今日ここでお前と出会った運命を受け入れて最後まで味方でいてやる」



「だから、そんな辛そうな顔してんじゃねーよ。辛いこと、言いたいことがあるなら吐き出せ。俺が全部聞いてやるからさ」



そういうと勇者はゆっくりと口を開く。



「………私がちゃんとしてなかったからあんな事になって……みんな居なくなっちゃって」



声が震えてる……それでも彼女は訴えるように言葉は紡ぐ。



「だから……あの時、こうしていればって、もっと強かったらって後悔ばかりで……もう嫌になって……ぐちゃぐちゃになって、でも……一人でも戦わなくちゃって……でも辛くって寂しくて……だから……助けて欲しくてっ」



まるでため込んでいたものを吐き出すかの様に自分の体を抱きしめて、泣きそうな声でぽつりと雫のように呟く。



「う、うぇぇぇん。」



子どもの様に声を立て泣いた。

俺は子どもをあやすように優しく勇者の頭を撫で続けた。



「………あの、ありがとうございました。」



泣きやみ、冷静になったのかかなり恥ずかしそうに顔を逸らしながら勇者は言った。



「もし……私が助けを求めたら、助けてくださいね?」



チラッとこちらを見て聞いてくる。



「……しょうがねぇな。ただし、お助け料一億万ギルで。」


「桁おかしくないですか?」



勇者はクスクスと笑いながら言った。

その表情はどこか先ほどと比べて生き生きしている様に見れる。


まぁ、少しは元気になれたのかな………



「あ、すいません。最後に少しだけ。」


「……ん?」



そう言って勇者は思い切り俺に飛びつき、ぎゅーっ!!と抱きしめた。



「あ、お、おお?」


「………この……の……が羨ましいなぁ。もっと早く……たかった。」



勇者が何か呟いたがきちんと聞き取れなかった。



「元気もらいましたっ。また、会いに行きますね」



そう言いながら勇者は闇の中に消えていった。






「面白かった!」


「少し笑ってしまった」


「続きが気になる、読みたい!」


「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」


と思ったら


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